異世界で刀を抜いて旅をする ~転生すると剣豪になっていたが、自分の中に変な奴がいた~

夏樹高志

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幕間 その10 宿に泊まる

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 次の街へ訪れるのには、あれから三週間ほど掛かった。
 かなり遠い場所だったし、それに山間の街だった。

 が、この街が凄かった。

 江戸の街と言う感じだ。

 その街に住んでいる人達は、大半が着物で、または忍者のような恰好をしている人もいる。そして、この街の人達の姿を見ると尻尾が出ていた。
 着物系の人は狐かな。
 忍者っぽい人達の尻尾は狸っぽい。
 いずれも変装するのだろうか? 

 街の中を見て歩くと、街の一部は古い木造りの建物がある。地球の江戸時代に建てられたような感じの建物で、白い土造りの蔵もある。
 〝土蔵〟だ。
 江戸時代には、この手の蔵は豊かな家に造られたと聞いたことがある。その家の家宝を盗難や火災から守るために築造されたはずだと思う。

 それらを皆で一緒に見ていった。皆も不思議そうな顔をしている。
 いつものようにギルドへ行ってもいいが、とりあえず皆で街並みを見ていく。

 この街はおそらく治安がいい。

 その理由としては、女子供が一人で歩いているからだ。治安が悪い地域ではこういうことがない。だからギルドは後回しでもいいだろう。
 僕からすると、江戸時代へタイムスリップしたようで趣深い。

 屋台があったので皆で回ってみることにした。寿司に天ぷら、蕎麦などがある。
 寿司を食べてみたが、美味しい。
 多分、ダンジョン産の魚だろうが脂が乗った魚や淡白な白身魚もある。
 あと、この寿司のシャリは大きかった。
 100円の回転寿司のシャリは、高級寿司のシャリに比べると大きいけど、あれよりももっと大きい感じだった。どちらかというとご飯でお腹を張らせるための食べ物なのかもしれない。

 天ぷらも売っているので食べてみたが地球上の天ぷらと変わらず美味しい。ただ、一つ一つの天ぷらには串がさしてあり、食べやすいようにしていた。
 食べ歩きながら天ぷらを食べれるようにしているみたいだ。

 蕎麦も食べてみたが、店によって二八と書いてあっても本当にそば粉が入っているかどうかは分からない。
 蕎麦というのはそば粉と小麦粉を混ぜて作る。そば粉100%は麺がボロボロになりやすいので、普通は麺を〝繋ぐ〟ために小麦粉を不純物として混ぜる。
 〝二八〟とは八割がそば粉で二割が小麦粉という意味だが、こういう表記を守っているかは分からない。
 そば粉の方が値段が高いので、店としてはそば粉の割合を減らした方が儲かることになる。立ち食いソバの大半は小麦粉が七割とかだろう。
 食べてみた蕎麦屋が本当に八割そば粉を使っているか僕としては疑問だった。

 ここで、カルディさん、ファードスさん、ガルレーンさんの三人と別れて街を歩くことになった。カルディさん達は資料館に行ってみたいそうだ。しかし、ビルド達若者組は資料館などには興味がないらしい。

 そこで、あとで落ち合う集合場所を決めて、純粋羽翼種三人と僕で街を回ることになった。

 四人で歩いていると、大衆浴場を見つけた。
 そして、その店の前には看板がある。

〝当店では古来浴場を再現することに力を入れております! 過去においては男女が一緒に風呂に入っており、当店はその流れを引き継いでおります! 男性も女性の方も下半身をタオルで隠して入浴するのがおススメです!〟

 そう書かれていた。

 この世界に来てから感じたことだが、この世界は地球と類似性が高い。
 この店の説明を見るかぎりでは、おそらく日本の江戸時代の浴場とは男女が混浴で風呂に入っていたのは事実なんだろうと思った。
 そして、この風呂屋を見ていると、若い娘達が店内に入っていくのが見えた。尻尾をフリフリさせている。
 それを見たビルドが不機嫌そうに見解を述べ始めた。

「なんだ、この国は。健全な女子が男子と一緒に風呂に入るとかどうかしている。俺はこういうのは良くないと思うね」

 僕もこれに加勢せねばいけないだろう。

「ああ、ホントその通りだ。僕も嘆かわしいね。こんなことに喜ぶ男たちの気がしれない。品性と理性は身だしなみだ」

 そう言って、ビルドと一緒にしかめ面をして、リーシャとセリサにアピールする。僕達はこういうのが嫌いなんですよ、と。
 もちろん本心では、ビルドと一緒にこの風呂屋をこっそりと訪れるつもりだから、彼女達の前では猫を被っておくのがいいだろう。ビルドはあの看板を見て、瞬時にその判断を下して僕にボールをパスしてきたわけだ。僕としてはこのボールをどうしてもゴールへ蹴り込まなければいけない。
 が、ゴールキーパーが反撃してきた。

「そんなこと言ってて、本当は内心喜んでるんじゃないの?」

 セリサだ。ここは真剣な表情で返答しなければいけないだろう。

「何を言ってんだよ。失礼な。僕達がそんな奴らに見えるのか?」

 そう言うとセリサがジッとこっちを見ている。
 そして、こう言ってきた。

「私はこういうのはいいと思うけどな。私だけ入ってこようかな」

「え?」

 ビルドが、ここでセリサを見てニヤ付いた。

 バカが!
 そんな顔したら芝居をした意味が無いだろうが……。
 フェイクに決まってんだろ!!

 セリサがチラッと僕の方を見てきた。

「マサキはどうする? 私はビルドと一緒に風呂に入ってくるつもりだけど」

 これは嘘だ。
 間違いない。
 あのセリサが僕と一緒に風呂に入ってくれるわけがない。
 ここは何としてもシラを切り続けるしかない。

「残念だが僕は興味が無いね。君たちで楽しんでくるといい」

 ビルドはバカだ。
 呆れてしまった。
 あの程度のセリサの嘘に引っ掛かるとは思わなかった。
 もうアイツはこの風呂屋へ入ることは出来ない。
 が、僕はまだ冷静な対応が出来ている。問題はない。

 しかしここで、セリサはゴールキーパーのくせに金属バットを持ち出してきた。

「体を流してあげようか? 胸で」

 そう言って、チラッと胸元を見せてきた。
 僕はそれを見てしまった。

「はい。じゃあ、お願いします」

 気付いた時には即答していた。
 すると、いきなりセリサが僕の頬を引っ張って来た。

「ダメでしょ、あんたはそういう事しちゃいけないの! こないだも私が教えたでしょ!!」

 そう言って頬を引っ張られる。魔族だから痛くはないが、ヒドイ。何だこの扱いは……。
 ズルくない?
 あんなポーズで誘われて断ったら頬を引っ張られるとか、どういう罰ゲームだよ!

 また、セリサからビルドと一緒に説教を受ける羽目になった。
 どうやら僕達はいやらしい店には行ってはダメらしい……。

 セリサの説教を受けた後、適当に皆で街中を見て食べ歩きをして、待ち合わせ場所へ向かった。
 既に、カルディさん達は到着していた。
 そして、今日、泊るための宿を探すことにする。

 僕達はどの宿にするかと悩んだ。
 色々な宿があるが、どの宿も正直泊ってみたいと思わない。
 あまりキチンと掃除をしていない感じなのだ。

 なんで客商売なのに、見える所を綺麗にしておかないのだろう?

 不思議に思いながら、皆で宿を見ていくと、一箇所だけ豪華で和の風雅を感じられる佇まいの宿があった。
 皆で中へ入っていくことにした。

 内部は豪華絢爛ではないが、上品さが漂う造りなっている。
 ただ、不思議なことに客が一人も見当たらない。

 どうして、こんなにいい宿なのに客がいないのだろう?

 すると、女将さんだろうか、パタパタと走ってこちらへ来た。

「お客様でしょうか?」 

 僕が代表して答えることにした。

「はい。僕達は旅の者です。こちらはお客さんがいないように見えますが、営業されているのでしょうか?」

「あ、はい。大丈夫です。営業しております」

「料金表を見せて戴けないでしょうか?」

 正直、僕はこの段階でこの宿が少しおかしいのかと思った。

 この宿の景観で客が入っていないということはおかしい。
 もしかすると、この宿はボッタくりで有名なのかもしれないと思ってしまった。
 すると、女将さんと思しき人は、料金表を示してきた。

 見ると安い。一番いい露天風呂付き客室ですら、一人一泊1万円しないくらいだ。しかも料理付きだ。

「どうしてこんなに安いのでしょうか? もっと高くてもおかしくないと思うのですが」

 僕はこの旅でそれなりに色々な街で宿泊してきた。その僕からして、この値段は安すぎると思ったのだ。

「ああ、それはちょっと理由がありまして、実は当宿はもうすぐ閉館する予定なんですよ。それで最後にサービスと思いまして値段をお下げしております」

「え? こんなにいいのに宿を止めてしまうんですか? 勿体ないと思いますが」

 そう言うと、女将さんの表情が曇った。

「ええ、本当は私達も止めたくないんですが……」

 そう言ってからハッとした表情になった。

「いえ、済みません。今の話は聞かなかったことにして下さい」

 女将さんが急に真剣な表情になってしまったので、これ以上深追いするのはやめた。

「分かりました。閉館されるのは残念ですが、僕達はしばらくこの街に滞在すると思います。その間はこの宿を利用させてもらおうと思います。宜しくお願い致します」

 こうして、皆でこの宿に泊まることになったのだった。
 
 部屋については男女で別れた部屋に泊まることにした。
 この付近を魔力探査したところ、誰もいない。

 この宿の従業員しかいないような感じだ。問題があるとは思えないので、リーシャ達を別の部屋に泊まらせることにした。
 リーシャ達の表情を見ていると嬉しそうだった。

 別に僕達の事が嫌なわけではないだろうが、年頃の女の子達だ。彼女達も女性だけで泊まりたい日もあるだろう。
 ただ、折角だったので、宿の人にお願いして夕食や朝食だけは一緒に摂らせてもらうことにした。

 一つの部屋で、皆で夕飯を食べることになった。
 出された料理はいずれも見事なものだった。
 天ぷらに刺身、季節の野菜に、肉を薄切りにしたものを鍋に湯通しして食べることが出来るようにもなっていた。

 皆で一つ一つ観賞しながら食べていった。
 僕達戦闘メンバー四人は、やはり肉系が好みだ。他には魚も美味しかった。野菜は苦手だ。

 が、リーシャとセリサは天ぷらが当たりだったようだ。キャーキャー言いながら、食べている。ビルドは満遍なく美味いそうだ。全部を堪能できるのはちょっと羨ましく思ってしまう。

 ここでビルドが皆の不思議を口にする。

「なぁ、どうしてこの宿、閉館するんだ? 客が来ない理由が分からないんだが」

 セリサもそれに反応する。

「そう。変なのよね。他の宿に比べて植木の剪定もきちんとされているのに、何故かお客さんがいないのよね。他の宿にはお客さんがそれなりにいたのに」

 そうなのだ。この街で見た他の宿はいずれも外観はあまり良くないが、客の入りは決して悪くないようだった。しかし、この宿はその逆だ。
 セリサが僕の方を見てきた。

「マサキはどう思う?」

「うーん。よく分からないな。あの女将さんの態度からすると、止めたくないって感じだった。普通に考えれば後継者問題だろうけど、ただ、この宿なら誰が経営してもうまくいきそうだけどなぁ。
 ってことは宿を建てる時に借り入れた金の返済に行き詰ったのかな?
 〝良い物を安く〟ってのがビジネスとして成功するかは別だからね」

 僕の実家は自営業だったので、この手の話にはそれなり詳しかった。適当に親が言っていたことを思い出しながら話をしていく。
 セリサは考え込んでいたが、話しを振って来た。

「じゃあ、私たちが持っているお金で使わない部分でこの宿を買えないかな?」

「いや、流石に無理だろう。この街の物価を見てみたけど、他の地域に比べて極端に安いわけじゃない。同じ商品を比較した時の貨幣価値は他の国と同じレベルだろう。
 この宿を僕達が買うとしても、今の手持ちの金で買えることはないと思う。やるとするなら、借金の一部を僕達で借り換えて、金利を減らすとかくらいかな」

 その後もセリサはしつこくこの話題に喰いついてきた。この手の話に興味があるようだ。
 
 夕食後は男女で別れて風呂に入ることになった。

 ビルドと一緒に部屋にあった露天風呂に入る。
 いや、広い。もうすでに大きい池と言う感じだ。

 ヒノキ造りの櫓の上部のような建物が池の中にあり、そこから屋外の風景を見下ろす事ができた。
 この露天風呂の下側が山の傾斜になっており、上からその風景を眺めることが出来るようになっている。
 月夜の明かりにその風景が照らされて、幻想的な雰囲気を醸し出していた。

「いいな」

 思わず声がでる。

「ああ、これはいい」

 ビルドも気に入ったようだ。
 一応、万一のことを考えて、戦闘メンバー四人は交代で風呂に入る予定だ。この四人は睡眠時間が少なくていい。この宿に滞在する間は、それぞれの睡眠時間中、互いに夜間はこの露天風呂で温まってもいいだろう。
 ビルドと一緒に月見酒をしていく。すると、ビルドが話し掛けてきた。

「なぁ、俺達の旅はそんなに急ぐわけじゃない。ここでまた滞在するのはダメか?」

 ファーラーン国の時の様に遊んで行きたいのだろう。
 ただ、僕としてはベゼルに急かされているのはある。ベゼルとしては遊ぶよりは先を目指して欲しいに決まっているし、また、ガルレーンさんのこともある。

 ただ、ベゼルは旅の安全性を重視しているので、毎日修行していれば、多少は遊んでいてもとやかく言わない。が、ガルレーンさんは問題かもしれない。
 武者修行中の身、と言っているわけで、ここまで来るときも比較的戦闘することを好んだ。

「うーん。ガルレーンさん次第かな。彼が良いと言えば僕としてはいいと思うけど」

「それより、お前、人族の国で酒が飲み放題とか言ってたけど、あれ嘘だろ」

 あー、バレてる。

「うん。まぁ、その辺は気にしない。多分、大丈夫」

 ビルドは呆れたような顔をしている。
 正直なんとかなると思っていた。ガルレーンさんの懐は僕達と一緒にいることで温まっている。多分、これまでの旅よりはずっと酒の入手は楽になっているはずだ。多分許してもらえるだろう。それより、たしかに僕としてももう少しこの街に居たくなった。
 そこで、ビルドに提案してみる。

「ガルレーンさんには僕から話をしてみるよ。多分、どこかのギルドの仕事でも適当に受けて僕が一緒に行けば満足するでしょ」

 明日にはギルドに行く。行って仕事を選べばいいだろう。
 そんなことを考えながら風呂からビルドと二人で上がった。

 二人で体を乾かして、体重を計ってみる。

 以前から思っていたが、やはり僕は魔力を使うと体重が増えるようだ。
 というか、厳密には筋力を使おうとしたときか。
 異常な膂力が発生する時は筋肉が魔力によってなんらかの作用が働くのだろう。

 これがベゼルの特性なのかもしれない。
 そして、風呂から部屋にあがってビルドと一緒にカードゲームをで金を掛け合おうとした時だった。
 リーシャ達の悲鳴が聞こえてきた――。
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