闘病記 癌になった私が元気になるまで

チャーコ

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闘病記 癌になった私が元気になるまで

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子宮頚部上皮内腺癌しきゅうけいぶじょうひないせんがん

 昨年(二〇一七年)八月に大学病院で告げられた、私の癌の病名はそれでした。まだ初期も初期だからとお医者さんは言うのですが、癌ということで、私はすっかりショックを受けてしまいました。

 家に帰っても、私は呆然としたまま。でも、早めに実家に連絡をし、手術のときには立ち合いが必要かもしれない旨を伝えました。十月には同人誌イベントに参加予定でしたし、一緒に出るはずだったキッドさんに事情を説明して、出られないことを言いました。キッドさんも驚いた様子でしたが、それでも真剣に励ましてくれて心強かったです。

 本当は、このエッセイ集の発行は、昨年の十月予定でした。それをキッドさんが「この世に未練を残そう」と保留にしてくれたのです。そうして私は癌に立ち向かう気合いを入れました。

 十月の同人誌イベントには、コラボなどで仲良くしてくださっている詩人さんの藤井茉椰さんも来ていただく約束でしたので、ツイッターで仕方なく行けないことを書きます。癌で心細いということを話すと、励ましのお言葉とともに、素敵な詩を書いてくださいました。

【心の支えになるレシピ】

人はときに弱気になることがある
突然の病を患ってしまったとき
それに立ち向かえないと思ったとき

頑張ることの大切さとは何か
弱気になった自分を奮い立たせて
明日のために頑張ろうとすることだ

それでも立ち向かえないこともある
心の弱さとは自分の生まれ持った性質
それを超えたものには太刀打ちできない

こんなはずではなかったと思うこともある
こんな現実を諦めたいと思うこともある
今この場から逃げ出したいと思うこともある

その気持ちは誰にでも訪れるもの
それが小さなことでも大きなことでも
先の見えない壁として立ちはだかるのだから

けれども諦めることだけはしないでほしい
たとえ今は未来が分からない状況だとしても
きっといつか明るい世界が待っているから

明日とは一人で切り拓くものではなくて
色々な人の力を借りて実現していけばいい
誰かに頼ることは人として当たり前のことだから

だから目一杯に手を伸ばして掴んでほしい
掴んだ手はきっと誰も手放すことをしないから
その手に宿った温もりを心の拠り所にして

今の自分を絶対に諦めないで、望む未来へと進むために

 この詩にとっても元気づけられました。プレゼントしていただいた詩を胸に、九月に検査手術を受ける運びとなりました。

 九月に受けた手術は子宮の入り口を円錐えんすい切除して、切り離した部分の癌を調べるというものです。手術の三日前には入院して、最初は病院の雰囲気に馴染むことから始まりました。建て直したばかりの大学病院の個室でしたので、綺麗で広い部屋だったのが印象的でした。シャワーも部屋についています。看護師さんたちも親切で、そんなに緊張することなく手術の日を迎えることができました。

 手術は全身麻酔です。全身麻酔は経験したことがなかったので、どのようなものかとドキドキ。ベッドに横になって、口に透明なマスクが当てられ、深呼吸をするように言われます。何か匂いがするということもなく、数回の深呼吸で私の意識は沈んでいきました。

 次に呼びかけられたとき、手術は終わっていました。時間にして二時間くらいだったそうです。特にどこか痛いということもありません。私の初全身麻酔体験は、なんだかあっという間に終わった感じです。時間自体もそんなに長くなかったですしね。

 個室に戻って、でも起き上がってはいけないということなので、横になった体勢のままスマホでお友達に手術の報告をしました。二時間程度でしたが、深く眠ったようなものでしたので、夜もあまり眠くなることもなく、みんなと無事を祝いました。祝ってくださったみなさんに感謝です。
 検査手術なので、手術の翌日にはもう退院です。荷物をまとめて、お世話になった病院をあとにしました。

 翌月の十月、検査結果を聞きにいくと、お医者さんからあまり芳しくない答えが返ってきました。

「切除した部分以外にも癌があるようなんですよね。お勧めは子宮摘出の手術なのですが……」

 どうやら浸潤癌しんじゅんがんと言って、子宮内部に癌が侵入している可能性があるかもしれないということです。私は戸惑いました。

「子宮摘出したら、もう子どもが産めないってことですよね?」
「そうですね。可能性の問題ですから、子宮に癌があるとは言い切れないのですけれど。どうしても子どもが欲しいということでしたら、この間の手術のような子宮入り口の部分切除のみを行うこともできますが、どうしますか?」

 いったん私は答えを保留にして家に帰りました。子宮を取ってしまったら、もう女性でなくなるような気がしたのです。家族とも相談しましたし、電話やネットで知り合いにも話を聞いてもらいました。知り合いたちはこう言いました。

「命には代えられないから、手術を受けて子宮を取ったほうがいい」
「もう娘さんがいるじゃないですか。それで十分ではないですか」

 言い分はもっとも過ぎて、悩んでいた私は納得してしまいます。確かに私には娘がいますし、この先癌に怯えてびくびく過ごすより子宮を摘出してしまったほうがいいのかもしれません。家族や知り合いと話し合いを重ねた結果、私は子宮摘出の手術を受けることを決心しました。

 手術の日取りは十一月十三日に決まりました。検査手術入院と同じく、入院環境に慣れるために、前もって入院します。今回は前回のように四日間だけの入院ではないので、大量に本やゲームを持ち込みました。しかし個室を希望していたのに空きがなく、大部屋入院になってしまったのです。大部屋は四人部屋で、カーテンで仕切られているので薄暗く、自分の物音や他の患者さんの物音も気になります。落ち着かない気分で夕ごはんを食べ、初日は眠りにつきました。

 翌日共用のシャワーを浴びて部屋に戻ると、個室が空いたと看護師さんが知らせてくれました。それは嬉しい。早く個室に移りたいです。しばらく待っていると、やがて看護師さんがやってきて、一緒に個室まで荷物を運びました。

 偶然にも、個室は前に入院したときと同じ部屋でした。時計や小物も前と同じ配置で、それだけでもリラックスができます。個室なので気兼ねなく家族と面会したり、電話で話せるのがいいですね。六階の明るい部屋で窓からの眺めもよく、食事も気持ちよく食べられました。

 病院での食事は、栄養バランスが考えられているのか魚料理が多く、とても手間暇がかかったような美味しさです。家で食事を作るとき、私は魚料理があまり得意ではないので、そんなにたくさん魚を食べません。美味しい魚をたくさん食べられて、それはとても嬉しかったです。あと、久しぶりに食べたさつまいもご飯がすごく美味しかった! おかわりしたいような美味しさでした。近頃は病院食も美味しくなっているんだなあとしみじみ思いました。

 そうこうしているうちに、とうとう手術当日になりました。今回は開腹手術なので前回よりも手術時間が長く、傷も多少残るというお話です。立ち合いの家族に見送られて、お医者さんと手術室に行きました。

「大丈夫ですか? 緊張していませんか?」

 優しい感じの女医さんが丁寧に話しかけてくれます。開腹手術は初めてなので、どうなるか見当もつきませんが、女医さんの気遣いがありがたくて「大丈夫です」と強がってしまいました。

 ベッドに横になると、どうやら今度は点滴で全身麻酔をするようです。右腕に針を刺されると、わずかに熱い液体が体内に入り込んできました。そこまでは覚えているのですが、あとは簡単に意識を手放してしまったらしく、気づいたら自分の個室のベッドにいました。家族が帰っていくのを朦朧と見ながら、再び意識は眠りの中に落ちていきます。目が覚めたらすっかり辺りは暗くなっていて、いつの間にか夜になっていました。

「そうだ、スマホ……」

 点滴やら何やらに繋がれているので、うまく動くことはできませんが、ベッドサイドの引き出しからスマホを取り出して、着信を見てみます。家族に体調のことを知らせたいですし、心配してくれる友達にも無事を伝えたいです。ラインやツイッターにいっぱい通知が届いていて、みなさんからの心遣いに気持ちがとても温かくなりました。

 ちょっと震える手で、返信を書き込みます。真っ先にとても心配してくれたキッドさんへ返事を送ります。ツイッターに手術終了のツイートもしました。あんなに「いいね」がついたツイートは初めてで、物凄く幸せになりました。私の手術を心配してくださった方々に、この場を借りてお礼申し上げます。本当にありがとうございました。

 翌日、痛み止めの点滴をしているのですが、切ったお腹が痛くてたまらない! それでも看護師さんは歩くよう促してきます。点滴にすがりながら立ち上がり、その場をぐるりと一周します。

「歩けましたね! あとは回復が早いはずですよ」
「そうなんですか、よかったです!」

 それはよかったのですが、お腹は痛いし、痛み止めの副作用で吐き気はするし、開腹手術はこんなにも大変なものかと思い知らされました。知り合いとのラインのやり取りで、

「自分の奥さんは帝王切開だったけど、一か月はお腹が痛かったらしいよ」

 と聞いて、この痛みが一か月続くのかとうんざり。それでも、多少時間が過ぎると痛みがましになってきたので、延期にしていたこのエッセイ集についてキッドさんと話し合いをしました。開腹手術をしても、無事に生きて帰ってこられたのですから、ぜひともエッセイ集を出したかったのです。キッドさんの言う通り、この世に未練が残っていましたから。

 五月六日の文学フリマ東京に参加することを決め、サークル名も考えます。そういうことを考えて打ち合わせているのは、とても楽しいです。一人でも同人誌を作るのは楽しいですが、一緒に書く人がいるとなお楽しい! キッドさんは私のことを相方と呼んでくれます。私もキッドさんは最高の相方だと思っています。入院前も入院中も、ずっと気遣ってくれた、優しい相方です。この同人誌が文学フリマで販売されるとき、隣にいるのは素晴らしい相方でしょう。

 十三日に手術をして、二十日には退院になりました。重い荷物は持てませんが、なんとか歩き回れるようになっていたので、車に乗って家に帰ります。家に帰ると一気にくつろいだ気分になりますね。ずっとパソコンに触れていなかったので、キーボードの感触が懐かしいです。

 少しずつ家事をしたり、同人誌をまとめたりしていると、段々お腹の痛みは薄れていきました。やがて、退院後の診察になります。

「解剖の結果、子宮内に癌がありました。摘出してよかったですね」

 子宮を摘出したのは正解でした。後押ししてくれた家族や知り合いたちに心から感謝です。卵巣は残っていますので、女性ホルモンのバランスが崩れることはありません。

 定期的に検査を受けていますが、今のところ他に癌が転移したということもなく、平穏に暮らしています。自治体が行っている健康診断も受けましたが、特に異常はないそうです。今回、子宮の癌のお話を書きましたが、子宮頸がんの検査を受けたのはたまたま。本当に偶然早期発見になったのです。

 癌になって、初めて早期発見の重要性に気づけました。自覚症状がなくても、癌になっていることはあり得るのです。

 みなさんにも、がん保険に入ったり、健康診断を毎年受けたりすることをお勧めします。人生いつ何時、病気になるかわかりませんね。健康第一で、読書や執筆ライフを楽しみましょう!
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