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お遊び月乃視点

執事喫茶にて(同人誌書き下ろし)

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 久しぶりに大学時代の友達の玲子れいこちゃんと会って、お喋りしていた。

「え? 玲子ちゃん、執事喫茶店に行っているの?」
「そうなの。友達に連れられて何回か……。結構面白いよ。執事さん格好良いし、接客素敵だし。何種類もティーカップや紅茶があって、選ぶの楽しいしね。それに何回か行くと『玲子お嬢様』なんて呼ばれちゃうの。既婚者なのに『玲子お嬢様』って呼ばれると、恥ずかしいけれど嬉しいのよ」

 私と玲子ちゃんは、征士くんの高等部一年のときの文化祭でやった執事喫茶に行ったことがある。だけど私は、本物の執事喫茶店には行ったことがない。

「へえ、何だか楽しそうね。一回行ってみようかしら」
「月乃ちゃんも行ったら面白いと思うよ。今度のお休みに一緒に行く?」

 次のお休みに、玲子ちゃんと二人で執事喫茶店へ行くことにした。

 ♦ ♦ ♦

 玲子ちゃんが予約をしてくれて、有名執事喫茶店へ行ってみた。

「お帰りなさいませ、お嬢様。本日お世話をさせていただく、東条と申します」

 一組に、一人の執事さんがついてくれるらしい。東条と名乗った男性は、整った顔の若い執事さんだ。席へ案内してくれる。

「お嬢様、そこの段差にお気をつけくださいませ」

 気を遣われながら、席まで行った。

「わあ、雰囲気あるわね」

 綺麗なソファにテーブル。周囲を見回すと、柔らかい照明の空間の中で、多数の絵画が飾ってあったり、磨かれた大きな鏡があったりした。
 東条さんにメニューの説明をしてもらって、デザートのセットを注文することにした。

「さっき言っていた、本日のジュレって何ですか?」

 尋ねると、それまで完璧だった接客の東条さんが慌ててメモ帳を取り出した。色々書いているメモ帳を見たあと、答えてくれる。

「失礼いたしました。本日のジュレはメロンでございます」

 毎日メニューが変わっていたら、覚えきれないだろう。思わず玲子ちゃんとくすくす笑ってしまった。
 玲子ちゃんは本当に『玲子お嬢様』と呼ばれている。私はそんな呼ばれ方をされたことがない。ちょっと羨ましい。
 紅茶もたくさん種類がある。ダージリン、ニルギリ、ウバ、ディンブラ、ルフナ……。迷っていると、東条さんが「ルフナのミルクティーが美味しいですよ」と勧めてくれたので、ルフナにすることにした。
 ティーカップはお任せにしたら、可愛いレモンが描いてある高級カップを持ってきてくれた。
 とても高級なティーカップだ。自宅でも普段は使わないようなカップ。ルフナを注いでくれたので、ミルクを入れて飲んでみた。

「ルフナ初めて飲んだけど、美味しい~。紅茶ばかりじゃなくて、シャンパンも飲んでみたいわね」
「そうね。私も毎回違うの頼んでいるよ」

 玲子ちゃんはケニアを飲んでいた。
 デザートプレートに乗っているのは、チーズケーキやパウンドケーキ、ジュレ、アイス。アイスにはストロベリーソースがかかっている。パウンドケーキはハート型になっていたり、ジュレにも小さい薔薇の花が乗っていたり、すごく凝っている。食べるのがもったいないくらいだ。
 ティーカップが空になると、すぐに気づいて東条さんが注いでくれる。よくお客さんを見ている。教育が行き届いた丁寧な接客だ。感心していると、玲子ちゃんが東条さんに話しかけていた。

「東条さんはどのくらいここで働いているんですか?」
「そうですね……。数百年前からでございましょうか」

 そういう設定なのか。玲子ちゃんと顔を見合わせて笑った。
 時間制なので、時間になると東条さんが迎えにきてくれる。預けていた上着を羽織らせてもらって、帰ろうとしたときに声をかけられた。

「お嬢様は、これからどちらへお出かけですか?」
「え? 買い物に行きます」
「それではお買い物楽しんでくださいませ。ご帰宅はお早めにお願いしますね」

 ご帰宅……。そうね、またいつか「ご帰宅」したいわね。

 ♦ ♦ ♦

 家へ帰って、征士くんに執事喫茶店の話をした。

「すっごく面白かったわ。執事さん格好良いし、洗練された物腰だし。デザートも紅茶も美味しかったし、また行ってみたいわ」
「……そう、ですか」

 征士くんは、何故か不機嫌そうな表情。

「月乃さんは『月乃お嬢様』って呼ばれたいんですか?」
「玲子ちゃんがそう呼ばれていたから、羨ましかったわ。みんな『月乃』とか『月乃さん』ばかりだもの」

 少しばかり『月乃お嬢様』呼びに憧れる。

「わかりました。……数日待っていてください」
「?」

 唐突に、この夫は何を言い出すのか。不思議に思った。

 ♦ ♦ ♦

 数日後のお休みの日。なんと征士くんが、燕尾服で部屋へ入ってきた。

「お帰りなさいませ、月乃お嬢様」
「いや帰るも何も……。自宅だけれど」

 びっくりして突っ込んでしまった。しかし征士くんは澄ました顔。
 ……まさか、執事喫茶の真似事? 唖然としていると、そんな私に構わず、征士くんは説明を始めた。

「本日は月乃お嬢様に、特別お料理をご用意しました」
「特別、お料理……?」
「はい。月乃お嬢様がお好きな、豪華鰻ちらし寿司でございます」

 確かに私の好きな食べ物は鰻だ。征士くんも知っていることだ。
 征士くんは鰻ちらし寿司を運んできてくれた。……とても綺麗な動作だ。執事喫茶店の執事さんと変わらないくらい──。
 鰻ちらし寿司は、鰻がいっぱい入っているけれど、その他に卵や人参、アスパラ、枝豆や三つ葉なども入っていて美しい彩りだ。この間食べたデザートプレートと同じで、食べるのがもったいない。

「月乃お嬢様だけのための特別製でございますよ。どうぞ、お召し上がりになってくださいませ」

 そう言われて、折角なので一口食べてみる。──ものすごく美味しい。鰻がふわふわだ。

「とっても美味しいわ」
「そう仰っていただけますと、ご用意した甲斐がありました」

 美味しい鰻ちらし寿司は、そんなに量がなかったので、すぐに食べ終わってしまった。

「月乃お嬢様。食後に紅茶はいかがでしょうか」
「そうね。それも用意してあるの?」
「勿論でございます。月乃お嬢様のお好きな、キーマンの最高級茶葉を仕入れてまいりました」

 ──私がキーマンの紅茶を好きなのまで知っているのか。征士くんは優雅な仕草で注いでくれた。

「どうぞ、月乃お嬢様」

 ティーカップは、星座模様の超有名ブランドカップ。このカップは家にある中でも滅多に使わない、品質が非常にすぐれているカップだ。
 キーマンは、ダージリン、ウバと世界三大銘茶と呼ばれる。オリエンタルな、良い香り。これも美味しい。飲み終わって一息ついた。

「ああ、全部美味しかったわ。ありがとね」

『月乃お嬢様』呼びに憧れているのを見て、わざわざ執事さんになってくれたのだろう。ふざけて玲子ちゃんと同じ質問をしてみる。

「どのくらい執事さんをしているの?」
「月乃お嬢様に出会ったときからでございますよ。一生月乃お嬢様の専属執事でございます」
「あら。うふふ」

 返事が嬉しくて笑うと、美形専属執事さんが近寄ってきた。

「さて、ここから月乃お嬢様専属執事としての、特別なお仕事をしましょう」
「え、きゃ!」

 突然抱き上げられ、ベッドへ連れて行かれた。

 ♦ ♦ ♦

 ベッドへ横たえられると、自分の身体の異変に気づいた。
 ──身体が熱い。何もされていないのにむずむずする。……特に下半身が疼く。
 優しく口付けられただけで、びくり、と身体が震えた。

「な、えっ、な、に……?」

 反応に戸惑うが、身体の熱さに堪えきれず、目の前の赤く色づいた唇に自分から吸いついた。舌を入れて、唾液が滴り落ちるのも構わず、キスを深めた。

「ん、くふ……、は、ぁ」

 唇を重ねていると、白手袋を外した彼の手が、衣服の下に入って素肌をまさぐる。胸のふくらみに触れられただけで、鮮烈な刺激が私を襲った。先端を摘ままれると、それだけで蜜口から蜜が溢れる感触がする。なんでこんなに快感が訪れるの……?

「あ、くっ、どう、して……? 身体がへ、ん……」

 彼の大きな手に胸を押しつける。もっと触って欲しい。そんな私の行動を見て、彼は微笑んだ。

「効いてきたようですね、お薬。月乃お嬢様、いつもより気持ち良くなりたいでしょう?」
「お、くすり……?」
「媚薬です。先程紅茶に混ぜました」

 ……媚薬。聞いたことがある。催淫剤だ。性欲を高める薬を私に飲ませたのか。道理で身体がおかしいはずだ。

「し、つじさんは、そんなこと、しないわ……」
「特別な専属執事でございますから。月乃お嬢様に感じていただくのもお仕事です」

 そんな仕事は聞いたことがない。だが、身体が快感を追い求める。胸を愛撫されるたびにくるくる世界が回った。

「ぅん……あっ、あん、はぁ……」

 私の喘ぎを聞きながら、彼は下半身へ手を伸ばす。下着を脱がせて、蜜にまみれている襞やその内側や溝を指で触れてなぞる。

「くう……んんっ、はぅ……あっ」

 ひとりでに荒くなった呼吸。秘所を這っていた彼の指が私の中に埋もれていく。派手に身体が跳ねた。

「ぁあっ! あんっ……ひぁ、あ……ふ、あ……!」
「月乃お嬢様は淫乱でございますね……。ふふ」

 指二本が私の中で蠢く。とぷとぷと蜜が溢れ出た。同時に胸の先端を口に含む。快感が限界を超えた。

「ああぅっ……んぅっ!」

 私は達してしまった。だが身体は未だ疼く。どうしよう。

「ご満足いただけましたか?」

 燕尾服姿の征士くんに、恥も外聞もなく縋りついた。満足なんてできていない。

「ちょ、ちょう、だい……」
「はい? 何でございましょう」
「征士くんを、ちょう、だい……!」

 この疼きは、指だけではおさまらない。征士くんが欲しい。欲しくて欲しくて堪らない。
 征士くんは苦笑しながら私の頭を撫でた。

「お薬効きすぎましたか……? かしこまりました。差し上げますよ」

 彼も下半身の衣服を脱いだ。勃起した熱を蜜口に押しつけた。

「あっ、く、ん、あぁっ……!」

 快感に脳が麻痺する。羞恥を捨てた声を上げた。
 粘っこい愛液の音が、私の中と彼のものの狭間から流れ出た。押し込んでは引き抜かれる彼のもの。私の中と擦り合って、思考と言葉が奪い去られた。
 彼の動きが段々と荒々しいものに変貌し、私を揺さぶり突き上げる。
 こんな悦びを私は知らない。必死で彼の身体を捕らえてしがみつく。私の中が痙攣を招いた。

「あっ! あ、ふぁあ……く、……ぁああっ!」

 叫んだ。彼の放った液体も感じる。それから身体中が痺れた。快感が何もかもを押し流した。

 ♦ ♦ ♦

 ようやく落ち着いた私は、今度は薬入りでないキーマンを飲んでいた。

「何てことするのよ。執事ごっこなら楽しめたのに」

 媚薬入り紅茶を飲まされた私は怒っていた。過ぎた快感は相当身体に負担がかかる。

「申し訳ありません。だって月乃さんが他の男性を褒めるから。嫉妬してちょっと悪戯しちゃいました」

 もう征士くんも普段着だ。いつも通りの征士くん。

「嫉妬してくれるのは嬉しいけれど……。媚薬、なんてひどいわ」
「でも、気持ち良かったでしょう?」

 言われる通り、確かに気持ち良かったけれど……。それでも征士くんを睨む。

「それはそうだったけれど。絶対お薬なんてやめてね」

 文句を言ったのに、征士くんは楽しそうに笑った。

「どうしましょうね。あんなに積極的な月乃さんは、普段は見られませんから。また使ってしまうかもしれません」
「やめてよ……!」
「だって僕、心から月乃さんを愛していますから。いろんな姿の月乃さんが見たいです」

 この調子ではまた使われるかもしれない。私は慌てた。

「待って! 私も征士くんのこと愛しているから。だから使わないで!」

 焦った愛の告白に、大きな瞳を細めて、征士くんは私を抱きしめた。

「わかりました。ただし、他の男性には絶対惹かれないでくださいね」
「……それは大丈夫。征士くん以外に、惹かれる人なんていないもの」

 抱き合ったまま、どちらからともなく触れるだけのキスをした。
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