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本編
22 征士くんの中等部卒業
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最近、予知夢の的中率がひどく悪い。
株価も不動産も、軒並み外れまくっている。
父は気にするなと言ってくれたけれど、それでも的中率が五割を切っている現状は頭が痛い。
それに、昨日は変な夢を視た。
征士くんが制服姿の女の子と、相合傘で腕を絡めて歩いている後姿だった。
私は首を振って、ベッドから起き上がった。
♦ ♦ ♦
今日はバレンタインデーだ。今年も征士くんの家に招かれた。
お母様がいらっしゃったので、手土産に持ってきたお取り寄せグルメの煮込みハンバーグセットを渡した。このお宅にはバレンタインデー時期には、甘いものを避けた方がいい気がする。
征士くんの部屋で、チョコレートの入った手作りスコーンを手渡した。
「チョコレートはたくさんもらっていると思って、スコーンの中身のチョコレートは少な目にしたわ」
「そんな! 僕は、月乃さんのチョコレートがいいんです」
「無理しなくていいわよ。チョコレート味ばかりだと、飽きちゃうでしょ」
征士くんはちょっと不機嫌そうな表情で、私を見つめた。
「……僕がたくさんチョコレートをもらっていて、月乃さんは何とも思わないんですか?」
「え? 格好良いからたくさんもらえるんでしょう? お返しが大変そうだと思うわ」
「そうじゃなくて! 婚約者としてどう思うんですか?」
婚約者? 婚約者としてねえ……。私はふと考えた。婚約者という立場は、どういうものなのだろう。
石田さんと付き合っている玲子ちゃんは、クリスマスデートのとき、初キスをしたと興奮して話してきた。
私達は婚約者だけれどキスなんてしていない。せいぜい手を繋いだくらいだ。
まあ、相手が中等部生だからかもしれないけれど。
私は溜息をついた。
「……婚約者としても、相手に人気があって喜ばしいと思うわ」
「……はあ、そうですか……。何か、僕ばかりが空回りしているような……」
「?」
彼はがっかりした顔をした。何故がっかりされるのか、わからない。
♦ ♦ ♦
征士くんは卒業間近になってテニス部を引退した。普通の中学は受験があるのでもっと早目に引退するそうだが、美苑はほとんどが内部進学なので引退も遅いらしい。高等部ではテニス部に入らないで、父に付いて経営を学ぶそうだ。あんなにテニスが上手なのに、もったいないと思った。
中等部の卒業式になったので、征士くんと深見くんへお祝いにお花を持って行った。私が高等部の卒業式のときに、お花をもらったのでお返しだ。
式が終わって生徒達が出てきた。征士くんと深見くんの姿が見えたので近寄ろうとしたら、その前にたちまち征士くんは女の子達に囲まれてしまった。ブレザーのボタンが欲しいとか、記念に写真を撮って欲しいとか、色々言われている。
本当に人気があるのね。そう思って改めて眺めると、入学の頃より身長も高くなって、顔立ちも美少年という言葉の前に『精悍な』を付けなければおかしいかもしれない。
私は級友達としゃべっている深見くんに話しかけた。
「お話中ごめんなさい。深見くん、卒業おめでとう」
深見くんは会話を中断して、振り返った。
「虹川先輩! 来てくれたんですね。ありがとうございます」
「私の卒業式のとき、お花をくれたからお礼がしたくて。はい、これ深見くんにお花」
「綺麗ですね。ありがとうございます」
深見くんはお礼を言ってから、ちら、と征士くんを見た。
「瀬戸には、お祝いしなくていいんですか?」
「あの中に入っていけって? 無理に決まっているじゃない。悪いんだけど、このお花、後で瀬戸くんに渡してくれる?」
「それは構いませんけれど……」
彼は複雑そうに、征士くんへのお花を手に取った。
「瀬戸は直接、虹川先輩からお花をもらいたいでしょうね」
「あら、そう? でもあの混雑の中じゃ、却って迷惑だと思うわ」
深見くんは、はあ、と息をついた。
「瀬戸も苦労していますね……。あ、皆、この人『月乃さん』」
「え? 一年のときの伝説のお弁当の『月乃さん』?」
深見くんの級友達が一斉に私を見た。伝説のお弁当?
「俺達瀬戸から、おかずもらっていました。めっちゃ美味かったです!」
「やっぱ、から揚げ美味かったなー」
「俺、エビフライ取ったら、すげえ瀬戸に怒られました。でも美味かったです」
思わぬ賛辞に私はたじろいだ。でも皆、私のお弁当を美味しいって思ってくれていたのね、と嬉しくなった。
「食べてくれていたのね。褒めてくれてありがとう。皆、卒業おめでとう!」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます。へへー、後で『月乃さん』に祝ってもらったって、瀬戸に言ってやろう」
彼らは面白そうに笑った。
折角の晴れの卒業式だ。笑顔が似合う。
「それじゃ皆、高等部でも元気で頑張ってね」
「はい、それじゃあ。……虹川先輩、もう少し瀬戸のことを考えてやってくださいね」
深見くんの言葉に、首を傾げる。考えてはいるつもりだけれど……。
挨拶をして、中等部の校舎を出た。
私が家へ帰った後、征士くんからメールが届いた。
お花をありがとうございます、と件名に書いてあった。しかし本文には、どうして深見くんには直接お花を渡したのかとか、何で級友達にまでお祝いを言ったんだとか文句が連ねてあった。
そんなことを言われても、あんなに囲まれていたのでは、近寄りすら出来なかった。取り敢えずその旨を書き、改めて卒業おめでとう、とメールを送った。
株価も不動産も、軒並み外れまくっている。
父は気にするなと言ってくれたけれど、それでも的中率が五割を切っている現状は頭が痛い。
それに、昨日は変な夢を視た。
征士くんが制服姿の女の子と、相合傘で腕を絡めて歩いている後姿だった。
私は首を振って、ベッドから起き上がった。
♦ ♦ ♦
今日はバレンタインデーだ。今年も征士くんの家に招かれた。
お母様がいらっしゃったので、手土産に持ってきたお取り寄せグルメの煮込みハンバーグセットを渡した。このお宅にはバレンタインデー時期には、甘いものを避けた方がいい気がする。
征士くんの部屋で、チョコレートの入った手作りスコーンを手渡した。
「チョコレートはたくさんもらっていると思って、スコーンの中身のチョコレートは少な目にしたわ」
「そんな! 僕は、月乃さんのチョコレートがいいんです」
「無理しなくていいわよ。チョコレート味ばかりだと、飽きちゃうでしょ」
征士くんはちょっと不機嫌そうな表情で、私を見つめた。
「……僕がたくさんチョコレートをもらっていて、月乃さんは何とも思わないんですか?」
「え? 格好良いからたくさんもらえるんでしょう? お返しが大変そうだと思うわ」
「そうじゃなくて! 婚約者としてどう思うんですか?」
婚約者? 婚約者としてねえ……。私はふと考えた。婚約者という立場は、どういうものなのだろう。
石田さんと付き合っている玲子ちゃんは、クリスマスデートのとき、初キスをしたと興奮して話してきた。
私達は婚約者だけれどキスなんてしていない。せいぜい手を繋いだくらいだ。
まあ、相手が中等部生だからかもしれないけれど。
私は溜息をついた。
「……婚約者としても、相手に人気があって喜ばしいと思うわ」
「……はあ、そうですか……。何か、僕ばかりが空回りしているような……」
「?」
彼はがっかりした顔をした。何故がっかりされるのか、わからない。
♦ ♦ ♦
征士くんは卒業間近になってテニス部を引退した。普通の中学は受験があるのでもっと早目に引退するそうだが、美苑はほとんどが内部進学なので引退も遅いらしい。高等部ではテニス部に入らないで、父に付いて経営を学ぶそうだ。あんなにテニスが上手なのに、もったいないと思った。
中等部の卒業式になったので、征士くんと深見くんへお祝いにお花を持って行った。私が高等部の卒業式のときに、お花をもらったのでお返しだ。
式が終わって生徒達が出てきた。征士くんと深見くんの姿が見えたので近寄ろうとしたら、その前にたちまち征士くんは女の子達に囲まれてしまった。ブレザーのボタンが欲しいとか、記念に写真を撮って欲しいとか、色々言われている。
本当に人気があるのね。そう思って改めて眺めると、入学の頃より身長も高くなって、顔立ちも美少年という言葉の前に『精悍な』を付けなければおかしいかもしれない。
私は級友達としゃべっている深見くんに話しかけた。
「お話中ごめんなさい。深見くん、卒業おめでとう」
深見くんは会話を中断して、振り返った。
「虹川先輩! 来てくれたんですね。ありがとうございます」
「私の卒業式のとき、お花をくれたからお礼がしたくて。はい、これ深見くんにお花」
「綺麗ですね。ありがとうございます」
深見くんはお礼を言ってから、ちら、と征士くんを見た。
「瀬戸には、お祝いしなくていいんですか?」
「あの中に入っていけって? 無理に決まっているじゃない。悪いんだけど、このお花、後で瀬戸くんに渡してくれる?」
「それは構いませんけれど……」
彼は複雑そうに、征士くんへのお花を手に取った。
「瀬戸は直接、虹川先輩からお花をもらいたいでしょうね」
「あら、そう? でもあの混雑の中じゃ、却って迷惑だと思うわ」
深見くんは、はあ、と息をついた。
「瀬戸も苦労していますね……。あ、皆、この人『月乃さん』」
「え? 一年のときの伝説のお弁当の『月乃さん』?」
深見くんの級友達が一斉に私を見た。伝説のお弁当?
「俺達瀬戸から、おかずもらっていました。めっちゃ美味かったです!」
「やっぱ、から揚げ美味かったなー」
「俺、エビフライ取ったら、すげえ瀬戸に怒られました。でも美味かったです」
思わぬ賛辞に私はたじろいだ。でも皆、私のお弁当を美味しいって思ってくれていたのね、と嬉しくなった。
「食べてくれていたのね。褒めてくれてありがとう。皆、卒業おめでとう!」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます。へへー、後で『月乃さん』に祝ってもらったって、瀬戸に言ってやろう」
彼らは面白そうに笑った。
折角の晴れの卒業式だ。笑顔が似合う。
「それじゃ皆、高等部でも元気で頑張ってね」
「はい、それじゃあ。……虹川先輩、もう少し瀬戸のことを考えてやってくださいね」
深見くんの言葉に、首を傾げる。考えてはいるつもりだけれど……。
挨拶をして、中等部の校舎を出た。
私が家へ帰った後、征士くんからメールが届いた。
お花をありがとうございます、と件名に書いてあった。しかし本文には、どうして深見くんには直接お花を渡したのかとか、何で級友達にまでお祝いを言ったんだとか文句が連ねてあった。
そんなことを言われても、あんなに囲まれていたのでは、近寄りすら出来なかった。取り敢えずその旨を書き、改めて卒業おめでとう、とメールを送った。
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