34 / 124
本編
34 高等部の文化祭
しおりを挟む
秋も深まると、高等部の文化祭がある。征士くんのクラスは執事喫茶をやるそうで、女の子も男装するらしい。
征士くんに、恥ずかしいけれど良かったら来てください、と言われ、面白半分に玲子ちゃんと見に行った。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
きっちり執事さんのような、白ワイシャツに黒を基調としたロングジャケット、タイ、パンツスタイルの深見くんに笑顔で迎えられた。
「格好良いわね、深見くん」
「いえ。それを仰る専属執事が、お嬢様にはおりますでしょう?」
深見くんがちらりと、教室の真ん中の女の子達がいっぱいいる場所へ、目を向けた。
「呼んでまいりますね」
「あ、別に、いいのに……」
私の断りを聞かず、深見くんは女の子達の方へ行ってしまった。やがて女の子の輪の中心から、征士くんが抜け出してきた。
「お帰りなさいませ、お嬢様。お嬢様の専属執事の瀬戸です」
恭しく一礼する。黒髪がさらりと揺れて、目が覚めるくらい、綺麗な執事姿だった。
「綺麗ね……。見違えちゃった。すごく格好良いわよ」
「お褒めいただき、ありがとうございます」
征士くんが嬉しそうにはにかんだ。
「本日のお勧めは、特製ガトーショコラと紅茶のセットでございます」
「じゃあ、私はそれを」
「私も」
玲子ちゃんと同じものを注文して待っていると、すぐに運ばれてきた。
「それでは、ごゆっくりお寛ぎくださいませ」
征士くんがいなくなってから、私と玲子ちゃんは小声で話した。
「瀬戸くん、すごく格好良かったね」
「そうね。あ、あっちで写真撮られているわ」
「あんなに格好良かったら、写真も撮りたくなるよね」
妬けないの? と面白そうに玲子ちゃんが言った。そう言われて、私は考えてみた。妬ける……? 確かに知らない女の子が、征士くんの写真を持っていたら……少し、嫌かもしれない。
ガトーショコラを食べていると、執事姿の深見くんと、志野谷さんと、山井さんがテーブルに来た。
「瀬戸の奴、すっかり明るくなって……成績も上位で、生活態度もきちんとしているんですよ。虹川先輩が友達になってくれたおかげです」
「私も虹川さんのおかげで、引っぱたかれたこと謝ってもらって……。苦手な政経の授業も、よく教えてもらっています」
「優しくて、穏やかで、成績優秀で……。先生達の評判も良くて、皆瀬戸くんのことを見本にしろと言われました。虹川先輩、ありがとうございました」
三人から口々に感謝を述べられ、照れてしまった。
「そんな、私はお友達になっただけよ。大したことはしていないわ。全部、瀬戸くんの努力よ」
すると三人は首を振った。
「全部、虹川先輩のおかげです。後は、またあいつと婚約してやってください」
「せめて、付き合ってあげてください」
「クラス中、いかに虹川先輩が素敵か聞かされてます。好きになってあげてください」
何てこと……。このクラスに誤った認識がされつつある。私は危機感を覚えた。
「あのね、多分瀬戸くんの中で、私と別人の区別がついていないの。だから、このクラスで間違えた私の認識をしないように、皆に言って頂戴」
三人は顔を見合わせた。
「そんなことを言われてもなあ……実際瀬戸の奴、中等部のときから虹川先輩にめろめろなの、皆知っているし」
「私達外部生の間でも、評判になってきているよ」
「来年のバレンタインは、本命の先輩以外全員断るって公言しているし……。認識も何も、高等部の中で瀬戸くんが虹川先輩のこと好きなの、有名です」
信じられない言葉の数々に、私は頭を抱えた。何てことだろう。もう高等部に、顔を出せないではないか。
黙って紅茶を飲んでいた玲子ちゃんが、ふふ、と笑った。
「じゃあ、月乃ちゃんは、来年大きなチョコレートケーキでも焼かなきゃね」
「玲子ちゃんまで……。あげても、友チョコよ」
「いいじゃない。友チョコでも、こーんなに大きなケーキを焼けばいいわ」
こーんなにね、と腕で大きな円を作ってみせた。三人もうんうん、と頷いた。
「出来たら、それまでに本命チョコになってください」
「私達からもお願いします」
私はぐったりして、帰ることにした。
帰り際、専属執事さんから「またのお帰りをお待ちしています」と朗らかに言われてしまった。
征士くんに、恥ずかしいけれど良かったら来てください、と言われ、面白半分に玲子ちゃんと見に行った。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
きっちり執事さんのような、白ワイシャツに黒を基調としたロングジャケット、タイ、パンツスタイルの深見くんに笑顔で迎えられた。
「格好良いわね、深見くん」
「いえ。それを仰る専属執事が、お嬢様にはおりますでしょう?」
深見くんがちらりと、教室の真ん中の女の子達がいっぱいいる場所へ、目を向けた。
「呼んでまいりますね」
「あ、別に、いいのに……」
私の断りを聞かず、深見くんは女の子達の方へ行ってしまった。やがて女の子の輪の中心から、征士くんが抜け出してきた。
「お帰りなさいませ、お嬢様。お嬢様の専属執事の瀬戸です」
恭しく一礼する。黒髪がさらりと揺れて、目が覚めるくらい、綺麗な執事姿だった。
「綺麗ね……。見違えちゃった。すごく格好良いわよ」
「お褒めいただき、ありがとうございます」
征士くんが嬉しそうにはにかんだ。
「本日のお勧めは、特製ガトーショコラと紅茶のセットでございます」
「じゃあ、私はそれを」
「私も」
玲子ちゃんと同じものを注文して待っていると、すぐに運ばれてきた。
「それでは、ごゆっくりお寛ぎくださいませ」
征士くんがいなくなってから、私と玲子ちゃんは小声で話した。
「瀬戸くん、すごく格好良かったね」
「そうね。あ、あっちで写真撮られているわ」
「あんなに格好良かったら、写真も撮りたくなるよね」
妬けないの? と面白そうに玲子ちゃんが言った。そう言われて、私は考えてみた。妬ける……? 確かに知らない女の子が、征士くんの写真を持っていたら……少し、嫌かもしれない。
ガトーショコラを食べていると、執事姿の深見くんと、志野谷さんと、山井さんがテーブルに来た。
「瀬戸の奴、すっかり明るくなって……成績も上位で、生活態度もきちんとしているんですよ。虹川先輩が友達になってくれたおかげです」
「私も虹川さんのおかげで、引っぱたかれたこと謝ってもらって……。苦手な政経の授業も、よく教えてもらっています」
「優しくて、穏やかで、成績優秀で……。先生達の評判も良くて、皆瀬戸くんのことを見本にしろと言われました。虹川先輩、ありがとうございました」
三人から口々に感謝を述べられ、照れてしまった。
「そんな、私はお友達になっただけよ。大したことはしていないわ。全部、瀬戸くんの努力よ」
すると三人は首を振った。
「全部、虹川先輩のおかげです。後は、またあいつと婚約してやってください」
「せめて、付き合ってあげてください」
「クラス中、いかに虹川先輩が素敵か聞かされてます。好きになってあげてください」
何てこと……。このクラスに誤った認識がされつつある。私は危機感を覚えた。
「あのね、多分瀬戸くんの中で、私と別人の区別がついていないの。だから、このクラスで間違えた私の認識をしないように、皆に言って頂戴」
三人は顔を見合わせた。
「そんなことを言われてもなあ……実際瀬戸の奴、中等部のときから虹川先輩にめろめろなの、皆知っているし」
「私達外部生の間でも、評判になってきているよ」
「来年のバレンタインは、本命の先輩以外全員断るって公言しているし……。認識も何も、高等部の中で瀬戸くんが虹川先輩のこと好きなの、有名です」
信じられない言葉の数々に、私は頭を抱えた。何てことだろう。もう高等部に、顔を出せないではないか。
黙って紅茶を飲んでいた玲子ちゃんが、ふふ、と笑った。
「じゃあ、月乃ちゃんは、来年大きなチョコレートケーキでも焼かなきゃね」
「玲子ちゃんまで……。あげても、友チョコよ」
「いいじゃない。友チョコでも、こーんなに大きなケーキを焼けばいいわ」
こーんなにね、と腕で大きな円を作ってみせた。三人もうんうん、と頷いた。
「出来たら、それまでに本命チョコになってください」
「私達からもお願いします」
私はぐったりして、帰ることにした。
帰り際、専属執事さんから「またのお帰りをお待ちしています」と朗らかに言われてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。
NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。
中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。
しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。
助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。
無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。
だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。
この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。
この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった……
7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか?
NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。
※この作品だけを読まれても普通に面白いです。
関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】
【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
不器用な大富豪社長は、闇オクで買った花嫁を寵愛する
獅月@体調不良
恋愛
「 御前を幸せにする為に、俺は買ったんだ 」
〜 闇オク花嫁 〜
毒親である母親の為だけに生きてきた彼女は、
借金を得た母の言葉を聞き、
闇オークションへ売られる事になった。
どんな形にしろ借金は返済出来るし、
母の今後の生活面も確保出来る。
そう、彼女自身が生きていなくとも…。
生きる希望を無くし、
闇オークションに出品された彼女は
100億で落札された。
人食を好む大富豪か、
それとも肉体を求めてか…。
どちらにしろ、借金返済に、
安堵した彼女だが…。
いざ、落札した大富豪に引き渡されると、
その容姿端麗の美しい男は、
タワマンの最上階から5階部分、全てが自宅であり、
毎日30万のお小遣いですら渡し、
一流シェフによる三食デザート付きの食事、
なにより、彼のいない時間は好きにしていいという自由時間を言い渡した。
何一つ手を出して来ない男に疑問と不満を抱く日々……だが……?
表紙 ニジジャーニーから作成
エブリスタ同時公開
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
織田信長の妹姫お市は、異世界でも姫になる
猫パンダ
恋愛
戦国一の美女と言われた、織田信長の妹姫、お市。歴史通りであれば、浅井長政の元へ嫁ぎ、乱世の渦に巻き込まれていく運命であるはずだったーー。しかし、ある日突然、異世界に召喚されてしまう。同じく召喚されてしまった、女子高生と若返ったらしいオバサン。三人揃って、王子達の花嫁候補だなんて、冗談じゃない!
「君は、まるで白百合のように美しい」
「気色の悪い世辞などいりませぬ!」
お市は、元の世界へ帰ることが出来るのだろうか!?
【短編】ちゃんと好きになる前に、終わっただけ
月下花音
恋愛
曖昧な関係を続けていたユウトとの恋は、彼のインスタ投稿によって一方的に終わりを告げた。
泣くのも違う。怒るのも違う。
ただ静かに消えよう。
そう決意してトーク履歴を消そうとした瞬間、指が滑った。
画面に表示されたのは、間の抜けたクマのスタンプ。
相手に気付かれた? 見られた?
「未練ある」って思われる!?
恐怖でブロックボタンを連打した夜。
カモメのフンより、失恋より、最後の誤爆が一番のトラウマになった女子大生の叫び。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる