予知姫と年下婚約者

チャーコ

文字の大きさ
40 / 124
本編

40 友チョコ

しおりを挟む
 テニス勝負以降、征士くんは私の家へ来ては、折を見て私の部屋へ来る。
 月乃さん、月乃さんと呼ばれると少し嬉しくて、私も征士くんと呼んであげる。
 そうすると、それはもう蕩けるような顔で、翌日のお弁当を頼んでくるのだ。
 料理の味を気に入ってもらえているのは、悪い気はしない。ただ、一年A組まで顔を出すのは恥ずかしい。私はこっそり大学を出て、高等部の玄関でお弁当を渡していた。


 そんな生活が続いていて、やがてバレンタインデーになった。私は例によって征士くんの家へ招かれた。先日婚約解消して迷惑をかけたので、お詫びの品も持っていく。

「まあ、月乃さん。いらっしゃいませ。お久しぶりです」

 玄関で、征士くんのお母様が迎えてくれた。

「お久しぶりです。先日は突然婚約解消して、ご迷惑をおかけしました。これは、ほんのお詫びの気持ちです。よろしければお受け取りください」

 私は持参した、高級鮑の旨煮セットを手渡した。お母様は受け取ってくれた。

「わざわざ、ありがとうございます。婚約解消して、一時期征士は荒れていましたけれど、月乃さんがお友達になってくださっていい子になったんですよ。先生にも褒められていますし、暇があると積極的に家のお手伝いもやるようになったし。何より前回の学期末試験では、学年で一番になったんです」
「母さん、僕のことはいいから。月乃さん、僕の部屋へ行きましょう」

 母親に褒められて恥ずかしいのか、私を自室へ誘ってきた。私はもう一度挨拶してから、家の中へ入った。
 征士くんの部屋は、やはり綺麗に片付いていた。本棚に経営理論や経済学の本がたくさん並べられてあるのが、目に入った。
 私は、約束のチョコレートケーキを差し出した。

「はい。これ私が作ったチョコレートケーキ。征士くんのお口に合うか、わからないけれど……」
「わあ、綺麗なチョコレートケーキですね。月乃さんが作ったものならば、美味しいに決まっています。早速切って、食べてもいいですか?」
「どうぞ」

 征士くんは階下へ行って、私と自分の分を切り分けてきた。ケーキの他に、コーヒーも持ってきた。

「やっぱり美味しいですね。外側はふわふわしているのに、中はしっとりしていて。さすがは月乃さんの作ったケーキですね。他の分も、僕一人で食べます」
「褒めてくれてありがとう。でも、他の分も一人で食べるなんて……。本当に今年は、他の女の子からチョコレートをもらわなかったの?」
「はい。月乃さんから以外のチョコレートはいりません。高等部では予め言ってありましたし、中等部の子も何人か持ってきてくれましたけど、全部断りました」

 征士くんはけろりとそう言って、チョコレートケーキを食べている。

「そんな、中等部の子からも断るなんて……。本命チョコだったんじゃない? 私のは友チョコよ」
「友チョコでもいいんです。今のところは。そのうち本命チョコになる日を目指しています」

 征士くんの言葉に僅かに赤くなる。どうしたというのだろう。最近の私は変だ。私は話題を変えることにした。

「そういえば、テストで学年トップなんてすごいわね。サークルにも来ていたし、うちで父から経営も教わっていたようだし。勉強する時間、あまりなかったんじゃない?」
「大体授業を聞いていればわかります。後は先生の好みがあるので、そこを狙って効率良く勉強すれば、短時間でも高得点が取れます」
「そうなの? 私、高等部の時、先生の好みなんて全然わからなかったわ」

 多分征士くんは、とても要領がいいのだろう。私には真似出来ない。

「月乃さんは、前に就職活動が上手くいくようにって、話していましたよね。虹川の会社には入らないんですか?」
「コネで入りたくないのよ。どうせなら、自力で他社へ入りたいわ。私は自分の料理を褒められて嬉しかったことがあるから、外食産業系を目指しているの」
「外食産業、ですか……」

 征士くんが呟くように、相槌を打った。

「例えば、レストランの調理とかですか?」
「そうね。やったことはないけれど、他にもウェイトレスでもいいわ。他の人が、喜んで料理を食べているのを見るのは、楽しそうだと思うわ」
「月乃さんが、ウェイトレス……」

 出来そうもないような言い方をされて、少し腹が立った。

「何よ。私にウェイトレスが出来ないっていう訳? 練習すればきっと出来るわ」
「いえ、そう思った訳ではないんです。ただ、月乃さんの可愛いウェイトレス姿を想像してしまって……。あまり他の人には見せたくないなあって」
「ウェイトレスの格好なんて、大抵制服でしょ。別に、あんまりひらひらしたような格好のレストランとか受けようと思っていないし。第一希望は調理だし」

 私の希望は、きちんとした料理を出す外食系だ。

「それは就職活動頑張ってください。もし、本当にしっかりした料理を出すお店に就職しましたら、僕行きますから」
「そう。就職活動が上手くいって、希望の外食系に就けたら、是非来て頂戴」
「はい。絶対行きますね。卒業論文も頑張ってください」

 そう言われれば、今年は卒論も書かないといけないことを思い出す。私の学部は卒業に卒論は必修だ。

「卒論も頑張るわ。その前に、就活で内定を取らないと」
「大学四年生は大変ですね。応援しています」

 征士くんは激励の為の握手をしてきた。私は彼の大きな手に包まれて、どきどきしてしまった。

 帰りに征士くんのお母様に、是非征士をよろしくお願いしますと言われてしまった。
 最早、どうお願いされていいのかわからない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

国宝級イケメンとのキスは最上級に甘いドルチェみたいに、私をとろけさせます

はなたろう
恋愛
人気アイドルとの秘密の恋愛♡コウキは俳優やモデルとしても活躍するアイドル。クールで優しいけど、ベッドでは少し意地悪でやきもちやき。彼女の美咲を溺愛し、他の男に取られないかと不安になることも。出会いから交際を経て、甘いキスで溶ける日々の物語。 ★みなさまの心にいる、推しを思いながら読んでください ◆出会い編あらすじ 毎日同じ、変わらない。都会の片隅にある植物園で働く美咲。 そこに毎週やってくる、おしゃれで長身の男性。カメラが趣味らい。この日は初めて会話をしたけど、ちょっと変わった人だなーと思っていた。 まさか、その彼が人気アイドル、dulcis〈ドゥルキス〉のメンバーだとは気づきもしなかった。 毎日同じだと思っていた日常、ついに変わるときがきた。 ◆登場人物 佐倉 美咲(25) 公園の管理運営企業に勤める。植物園のスタッフから本社の企画営業部へ異動 天見 光季(27) 人気アイドルグループ、dulcis(ドゥルキス)のメンバー。俳優業で活躍中、自然の写真を撮るのが趣味 お読みいただきありがとうございます! ★番外編はこちらに集約してます。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/411579529/693947517 ★最年少、甘えん坊ケイタとバツイチ×アラサーの恋愛はじめました。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/411579529/408954279

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

好きの手前と、さよならの向こう

茶ノ畑おーど
恋愛
数年前の失恋の痛みを抱えたまま、淡々と日々を過ごしていた社会人・中町ヒロト。 そんな彼の前に、不器用ながら真っすぐな後輩・明坂キリカが配属される。 小悪魔的な新人女子や、忘れられない元恋人も現れ、 ヒロトの平穏な日常は静かに崩れ、やがて過去と心の傷が再び揺らぎ始める――。 仕事と恋、すれ違いと再生。 交錯する想いの中で、彼は“本当に守りたいもの”を選び取れるのか。 ―――――― ※【20:30】の毎日更新になります。 ストーリーや展開等、色々と試行錯誤しながら執筆していますが、楽しんでいただけると嬉しいです。 不器用な大人たちに行く末を、温かく見守ってあげてください。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜

葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」 そう言ってグッと肩を抱いてくる 「人肌が心地良くてよく眠れた」 いやいや、私は抱き枕ですか!? 近い、とにかく近いんですって! グイグイ迫ってくる副社長と 仕事一筋の秘書の 恋の攻防戦、スタート! ✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼ 里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書 神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長 社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい ドレスにワインをかけられる。 それに気づいた副社長の翔は 芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。 海外から帰国したばかりの翔は 何をするにもとにかく近い! 仕事一筋の芹奈は そんな翔に戸惑うばかりで……

処理中です...