花子の第一号

朝日みらい

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 セミがさわぎはじめた七月の夏休み、オレは花子の前に棒アイスを置いた。

 その日は、お店は空いていた。レジにはだれも並んでいない。いつものようにおつりを受け取ったオレは意を決して、花子に言った。

「あの、花子さん。日曜日に花火行きませんか」

 花子はつぶらな瞳で、まっすぐにオレの顔をじっと見ていた。それから、元気よく「ウォオン」と言ってうなずいた。オレは飛び跳ねたいのをがまんした。クマと初めてデートする人間第一号もオレだ。

「じゃあ、午後二時に店の外で待っているから」

 オレは軽やかな足取りで、店を後にした。さっそく、トレジャーシートを買いに行こう。

 日曜日、花子はブルーのワンピースに大きなサンダルをはいて現れた。花子は二本足で歩くのは得意ではないから、よちよち歩く。それも、オレにはすごくかわいいって思う。花子の手をひいて、ゆっくり花火会場のある川辺へ向かう。

 すでに土手は、場所取りのトレジャーシートでいっぱいになっていた。オレたちはそのすき間に、小さなシートを押しこんで、花子とならんで座った。おそらくオレは、どこかの母親に連れられた幼子くらいにしか見えないだろう。

「暑いから、喉かわいたでしょう?」

 オレはリュックから水筒を取り出してコップに注いだ。花子はコップを爪の先で器用に持って、ゴクンと飲んだ。「ウォン」と、花子はうれしそうに鳴いた。

 今度は花子がカバンから六つ入のリンゴの袋を取り出した。かじると、甘い果汁が口の中にはじける。

「おいしいよ」と、横を見た花子の手にはリンゴがなかった。すでに袋は空っぽになっている。大きな口で、全部平らげてしまったようだ。

 オレたちは、眼下に広がる青空のパノラマを見わたした。花子は人の言葉は話せない。だから会話はないけれど、なんだか胸の中ははずんでいる。

花子の温かくて大きな手が、オレの手と重なっている。
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