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第13章:初めての笑顔
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「こらーっ! 走ったら転びますよー!」
リーネの声が、春の風に乗って村の広場に響いた。今日は領の子どもたちとのふれあいの日。彼女が主催した“お日さまとあそぼう会”は、朝から笑い声に包まれていた。
「聖女さま、見てー! ボク、でんぐり返しできた!」
「まあ! ふふふ、でも服が土だらけよ、あなたのお母さんが泣くわね」
リーネは屈んで子どもの頭をなでながら、笑った。自分でも驚くほど自然に。そこに、まったく気づかぬまま。
「聖女さま、お馬さんになってー!」
「お、お馬さん!? ひ、人を乗せる馬ではありませんけどっ……って、きゃああああ!」
子どもたちに背中へよじ登られ、リーネは芝の上を笑いながら転がり回る羽目になった。
その様子を、少し離れた木陰から眺めていたエルマーは――まるで時が止まったかのように、ただ、見つめていた。
リーネの頬が紅潮し、長い睫毛の間からこぼれるように笑うその姿。
いつもは控えめで、遠慮がちで、自分のことは一歩下がっていたあの人が――今は、笑っている。
「……初めて見ました」
ふいに隣にいたメイドのカロリーナが声を落とした。
「何がだ?」
「聖女様が……あんなふうに、無邪気に笑われているのを。まるで……本当に、村の娘のように」
エルマーはしばし無言だったが、ふと小さく笑みを浮かべた。
「……そうかもしれないね。だが――」
「はい?」
「……あの笑顔、ずっと見ていたくなった」
「……領主様?」
「い、いや、今のは忘れてくれ」
「ふふふ。春ですねえ」
「なんだそのまとめは」
広場では、リーネがぐしゃぐしゃの髪のまま立ち上がり、子どもに草の冠をかぶせられていた。
「リーネさまー! “草の国の姫さま”みたい!」
「えっ……そ、そんな、私はお姫さまじゃなくて……その、せ、聖女ですから!」
「じゃあ、“草の聖女”!」
「なんか薬草っぽいわね、それ……」
子どもたちと顔を見合わせて、またくすくすと笑うリーネ。
それは確かに――彼女がこの地に来てから、初めて見せた心からの笑顔だった。
そして、その笑顔に心を射抜かれた青年がひとり。けれどそれを誰にも言えず、木陰でほんの少しだけ、耳まで赤くしていた。
リーネの声が、春の風に乗って村の広場に響いた。今日は領の子どもたちとのふれあいの日。彼女が主催した“お日さまとあそぼう会”は、朝から笑い声に包まれていた。
「聖女さま、見てー! ボク、でんぐり返しできた!」
「まあ! ふふふ、でも服が土だらけよ、あなたのお母さんが泣くわね」
リーネは屈んで子どもの頭をなでながら、笑った。自分でも驚くほど自然に。そこに、まったく気づかぬまま。
「聖女さま、お馬さんになってー!」
「お、お馬さん!? ひ、人を乗せる馬ではありませんけどっ……って、きゃああああ!」
子どもたちに背中へよじ登られ、リーネは芝の上を笑いながら転がり回る羽目になった。
その様子を、少し離れた木陰から眺めていたエルマーは――まるで時が止まったかのように、ただ、見つめていた。
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いつもは控えめで、遠慮がちで、自分のことは一歩下がっていたあの人が――今は、笑っている。
「……初めて見ました」
ふいに隣にいたメイドのカロリーナが声を落とした。
「何がだ?」
「聖女様が……あんなふうに、無邪気に笑われているのを。まるで……本当に、村の娘のように」
エルマーはしばし無言だったが、ふと小さく笑みを浮かべた。
「……そうかもしれないね。だが――」
「はい?」
「……あの笑顔、ずっと見ていたくなった」
「……領主様?」
「い、いや、今のは忘れてくれ」
「ふふふ。春ですねえ」
「なんだそのまとめは」
広場では、リーネがぐしゃぐしゃの髪のまま立ち上がり、子どもに草の冠をかぶせられていた。
「リーネさまー! “草の国の姫さま”みたい!」
「えっ……そ、そんな、私はお姫さまじゃなくて……その、せ、聖女ですから!」
「じゃあ、“草の聖女”!」
「なんか薬草っぽいわね、それ……」
子どもたちと顔を見合わせて、またくすくすと笑うリーネ。
それは確かに――彼女がこの地に来てから、初めて見せた心からの笑顔だった。
そして、その笑顔に心を射抜かれた青年がひとり。けれどそれを誰にも言えず、木陰でほんの少しだけ、耳まで赤くしていた。
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