【完結】真面目だが存在感ゼロの聖女は、下っ端仕事をこなしてきたが周りから厄介払いされてへき地に来たところ、溺愛されています。

朝日みらい

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第16章:ざまぁの序章

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王太子アルノルトがウィンデリアから王都へ戻ってきたのは、ほぼ全身に草の種と泥をまとってのことだった。

「な、なんというお姿に……」

従者が絶句する中、アルノルトは無言でマントの泥を払い、しわくちゃになった花束を無言でゴミ箱に投げ込んだ。

(……なぜだ。完璧な謝罪だったはずなのに)

王宮の広間に戻った王太子を待ち受けていたのは、さらに追い打ちのような声だった。

「殿下! 民の間で、リーネ様を称える噂が日増しに強まっております!」

「“本当の聖女を追い出した王都の面汚し”とまで……」

「神殿の信用も地に落ちかけております!」

どの声も、耳にやさしくない。


一方、神殿長も似たような窮地に立たされていた。

「神殿長、これをご覧ください。昨日の町の掲示板です」

「……“聖女様がいなくなってから、神殿の治癒が遅い”?」

「“薬草の知識もなかったくせに、よく追放なんてできたな”との張り紙も」

神殿長はふるふると震えながら叫んだ。

「な、なぜだ! あの地味で目立たぬ女に、なぜここまで支持が!」

「“地味で有能”が今、都市の間で流行っております」

「それは、流行ではなく反逆だあああ!」

噂は街のいたるところに広まり、リーネを追放した件について市民が「裁判を開くべきだ」と言い出す始末。

ある老婦人が市場で声を上げた。

「ワシのひざが今でも痛むのは、リーネ様がいなくなったせいじゃ。戻ってこられぬなら、神殿長が揉め!」

「い、いや、それは……っ、私はその、神に仕える者として……」

「じゃあまずは神にその腰を治してもらえ!」

そんな波が広がっているなど露知らず、ウィンデリアのリーネは、穏やかな日差しの下でハーブを摘んでいた。

「リーネ様、また王都の噂が届きましたよ! “追放したのに今さら惜しくなった無能ども”と書かれてたらしいです!」

「そ、そんな言い方……ちょっと過激ですね」

「ざまぁ、ですよね!」

リーネは苦笑しつつも、小さくつぶやいた。

「私はただ、自分にできることをしているだけ、なんですけどね」

「そういうところが素敵だって、皆言ってますよ」

ふと視線を向けると、エルマーが木陰でこちらを見ていた。彼はそっと近づいてきて、微笑んだ。

「まったく……君は、周りをざわつかせるのが得意ですね。無自覚で」

「えっ……そ、そんなつもりは……!」

「うん、それがまた困るんです」

そう言って、彼は優しく帽子のリボンを結び直してくれた。

「僕としては、そろそろ“正式に囲い込む”べき時かもしれませんね」

「……え?」

「何でもありません。さ、ハーブ摘みの続きを」

リーネの頬は、摘みたての赤いタイムよりもほんのりと色づいていた。
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