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第21章:真の聖女とは
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王都・大聖堂の中央広場。季節外れのやわらかな陽光が差し込むその日、神殿の鐘が、これまでとは違う音を響かせていた。
「本日をもちまして、リーネ・メルシエ嬢を、正式に“真の聖女”と認定いたします」
神殿の新長官が高らかに宣言すると、集まった民衆のあいだから歓声が沸き上がった。
リーネは、雪のように純白な儀礼服に身を包み、壇上へと進む。背筋を伸ばし、一歩ずつしっかりと歩くその姿は、かつて「追放された聖女」などとは到底思えぬほど、凛としていた。
それでも、壇上の中央に立ったとき、思わず彼女の肩がぴくりと震えたのを、エルマーは見逃さなかった。
「……リーネ、大丈夫かな」
「領主様、手汗すごいですけど。口では落ち着いてるふりしても、心はもうプロポーズ待ちの青年ですよね?」
「誰がプロポーズ待ちだ!」
「誰が、とは言ってませんわ」
カロリーナが涼しい顔で隣に立ち、エルマーの袖をくすくす笑いながら引っ張る。エルマーは思わず咳払いをして視線を壇上に戻した。
***
リーネは、静かに群衆を見回した。王族、貴族、聖職者、そして、彼女を慕って遠く辺境からやってきた民たちの姿が見える。
「……私は、何か特別な力があったわけではありません」
リーネの声は、小さく、しかし確かに届く音で響いた。
「私は、誰かを救いたいと思っただけ。苦しんでいる人を見て、助けたいと思っただけ。……それが、“聖女”である条件なのだと、私は思っています」
一瞬の静寂。そして、拍手が静かに、じわじわと広がり――やがて、広場全体を包み込むような喝采となった。
彼女の言葉は、神託よりも真実味があり、奇跡よりもあたたかくて、人々の心にすっと染み込んでいった。
***
その後、花束や祝辞が相次ぎ、ようやく式典が終わった夕暮れ時。
大聖堂の裏庭――誰もいない回廊で、リーネは一人、石柱にもたれて空を見上げていた。
「……疲れた?」
「……っ!」
驚いて振り向くと、そこには礼服姿のエルマーが、赤く染まる空を背景に立っていた。
「……どうしてここが?」
「君なら、こういう“静かな場所”に逃げたくなると思って」
「まるで、わたしのこと全部見透かしてるみたい」
「見てるからね。ずっと、見てきた。君ががんばってるのも、笑顔の裏で泣きそうになってるのも」
リーネの目が、ふっと見開かれた。
「……リーネ」
「……な、なんですか……?」
「君がいてくれると、僕の世界が明るくなる。今日の君を見て、もう決めた」
「な、なにを……」
エルマーは彼女の手を取り、そっと唇を寄せる。が、寸前でぴたりと止まり、にやりと笑った。
「……まあ、続きは今度、二人きりのときにね」
「っ……え、ええっ!?」
「じゃあね、“真の聖女”さま」
そう言って、エルマーはくるりと背を向け、石畳を軽やかに去っていく。
残されたリーネは、顔を真っ赤にしながら柱に頭をぶつけた。
「~~~~~っ、ほんとにもう、あの人ったら!」
でも――頬は、どこか幸せそうに緩んでいた。
「本日をもちまして、リーネ・メルシエ嬢を、正式に“真の聖女”と認定いたします」
神殿の新長官が高らかに宣言すると、集まった民衆のあいだから歓声が沸き上がった。
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それでも、壇上の中央に立ったとき、思わず彼女の肩がぴくりと震えたのを、エルマーは見逃さなかった。
「……リーネ、大丈夫かな」
「領主様、手汗すごいですけど。口では落ち着いてるふりしても、心はもうプロポーズ待ちの青年ですよね?」
「誰がプロポーズ待ちだ!」
「誰が、とは言ってませんわ」
カロリーナが涼しい顔で隣に立ち、エルマーの袖をくすくす笑いながら引っ張る。エルマーは思わず咳払いをして視線を壇上に戻した。
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「……私は、何か特別な力があったわけではありません」
リーネの声は、小さく、しかし確かに届く音で響いた。
「私は、誰かを救いたいと思っただけ。苦しんでいる人を見て、助けたいと思っただけ。……それが、“聖女”である条件なのだと、私は思っています」
一瞬の静寂。そして、拍手が静かに、じわじわと広がり――やがて、広場全体を包み込むような喝采となった。
彼女の言葉は、神託よりも真実味があり、奇跡よりもあたたかくて、人々の心にすっと染み込んでいった。
***
その後、花束や祝辞が相次ぎ、ようやく式典が終わった夕暮れ時。
大聖堂の裏庭――誰もいない回廊で、リーネは一人、石柱にもたれて空を見上げていた。
「……疲れた?」
「……っ!」
驚いて振り向くと、そこには礼服姿のエルマーが、赤く染まる空を背景に立っていた。
「……どうしてここが?」
「君なら、こういう“静かな場所”に逃げたくなると思って」
「まるで、わたしのこと全部見透かしてるみたい」
「見てるからね。ずっと、見てきた。君ががんばってるのも、笑顔の裏で泣きそうになってるのも」
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「……リーネ」
「……な、なんですか……?」
「君がいてくれると、僕の世界が明るくなる。今日の君を見て、もう決めた」
「な、なにを……」
エルマーは彼女の手を取り、そっと唇を寄せる。が、寸前でぴたりと止まり、にやりと笑った。
「……まあ、続きは今度、二人きりのときにね」
「っ……え、ええっ!?」
「じゃあね、“真の聖女”さま」
そう言って、エルマーはくるりと背を向け、石畳を軽やかに去っていく。
残されたリーネは、顔を真っ赤にしながら柱に頭をぶつけた。
「~~~~~っ、ほんとにもう、あの人ったら!」
でも――頬は、どこか幸せそうに緩んでいた。
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