【完結】真面目だが存在感ゼロの聖女は、下っ端仕事をこなしてきたが周りから厄介払いされてへき地に来たところ、溺愛されています。

朝日みらい

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第28章:神殿からの最後通告

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ある晴れた昼下がり。
ウィンデリアの門前に、やけに金ぴかしい馬車が音を立てて止まった。

「……また神殿か」
エルマーが顔をしかめる。

「三度目の正直? それとも、三度目の失礼?」

リーネは肩をすくめながら応対に出ると、金色の刺繍がまぶしい神殿使節団がぞろぞろと降りてきた。先頭には、おなじみツンとすました神官長代理――あの、リーネをかつて“辺境送り”と書類に記した張本人がいた。

「聖女リーネ・メルシエ殿。神殿上層部はあなたに“正式な聖女”としての復帰を要請しています」

神官長代理は高らかに言い放つと、どや顔で銀の書状を差し出した。

「なお、これは“命令”に近い“通告”です。ご理解を」

「……“近い”って、なんですか? あいまいな脅し文句は、詐欺師と詩人の専売特許ですよ?」

リーネはにっこり微笑んで返した。だが、声は静かに凛としていた。

「ありがとうございます。でも、私は神殿に戻りません」

「な、なぜですか! 名誉、地位、庇護、すべてが手に入るのに!」

「それらは“神”のために必要なものかもしれません。でも私は、人のために生きたいんです。ここには、私を必要としてくれる人たちがいます。だから……」

リーネは、遠くで笑う子どもたちの声に耳を澄ませたあと、はっきりと告げた。

「私の居場所は、ここにあります」

沈黙。神殿使節の誰もが一瞬で凍り付いた。

その横で、エルマーがぼそりと囁く。

「……かっこよすぎて、ちょっと惚れ直した」

「“ちょっと”? あなた、あとでニンジンの皮むき3時間ね」

「えっ!? 惚れた分の代償!?」

リーネはくすっと笑いながら、神殿使節に最後の言葉を投げかけた。

「皆さん。神は、遠い高みにおられるかもしれません。でも、私はこの地に降りてきた“光”を、ここで見つけたんです。だから、どうぞお気をつけてお帰りください。道中、神のご加護がありますように――って、これは本心です」

神官たちは困惑と敗北感をたたえた顔で、音もなく馬車へ戻っていった。

その晩、暖炉の前でふたり並んで座る。

「……ねえ、エルマー。私、間違ってなかったよね?」

「うん。君が選んだ道が正しいって、僕が何度でも証明するよ。あとニンジンは勘弁して」

「だめ。惚れ直したんでしょう?」

「ぐぬぬ……! 惚れるたびに家事スキルが上がっていく……!」

ふたりの笑い声が、やさしい夜の静けさに溶けていった。

外では星がまたたき、ウィンデリアの空に、ひとつの物語の節目が描かれていた。
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