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あれから、王都に戻ってから二週間が経っても、フリメース嬢にアナリスからの便りはなかった。
登校する馬車の車内で、小窓から朝の広場や美しい石造りの建物をながめながら、フリメースは気が気ではなかった。
アナリスは、徹底的にやらないと気が済まないたちですもの。でも、少しは心配になるけど……。もしや、本当に怪しいことがあったのかもしれないわね。
いつもの窓際の教室の席につくと、王女の周りには、友だち(もどき)が輪を作る。王族に関係が深い侯爵家や、王の直轄の騎士団の親を持つ皇女ばかり。天気がどうの、噂の高貴な方の恋バナ。ほんとにどうでもいい、当たり障りのない会話をしてくる。
退屈な連中ですわね。退屈な日々にもうんざりなのよね。
授業開始の鐘が鳴り、おのおのが席につくと、ふくよかな体型の教師が現れる。
丸眼鏡に使い古しのブラウンの背広を着ている学者風情の教師は、おもむろに、廊下に待機している女生徒を呼んだ。
小柄で栗色の短髪をお下げしにして、白いリボンを結んでいる。
生徒たちから、驚きの声が上がり、フリメースも思わず息をのんだ。
リリス・スタイルズ公爵令嬢じゃない……!
教師は、リリス嬢をフリメースの隣の席に座るように指示をした。
「よろしく、フリメース様」
リリス嬢は、細い眉をたらし、穏やかな眼差しを向ける。
「あ、ええ……」
フリメースも笑顔で返しながら、パーティーで会った時の彼女とは少し落ち着いた印象を持った。挙動不審な振る舞いもないし、物静かな感じを受けるのだ。
革鞄から、教科書や羊皮紙を取りだして、羽根ペンでメモをしながら、授業の講義を熱心に聞いている眼差しは、昔と何も変わらない。
休み時間になると、他の生徒たちが、リリス嬢の机のまわりに集まってきて、体調を気遣った。
「だいじょうぶよ。でも、高熱で記憶がところどころ、思い出せないことがあるの。学校も勉強だって、分からないこともたくさんあるの」
リリス嬢は、こめかみをいじりながら、自嘲して唇をゆるませる。
「平気だわ。何とかなるわよ」
「仕方ないわよ。分からないことがあったら、助けてあげる」
同級生たちが優しく声をかけると、リリス嬢の表情に笑顔が戻った。
フリメースの頭で、ぱっといたずらしたい衝動に駆られた。
「ねえ、リリス様。全快祝いに、王宮の離れでお茶会でもしましょ。皆さんもいっしょに。ね?」
「面白そうですね」
「ぜひ、行きたいですわ」
友だちもどきが、口々に王女の意見に賛成する中、当の本人はあまり気乗りしない様子だったが、
「……うれしいです。わたしのことをお祝いしてくださるなんて」
と、頬笑んだ。
登校する馬車の車内で、小窓から朝の広場や美しい石造りの建物をながめながら、フリメースは気が気ではなかった。
アナリスは、徹底的にやらないと気が済まないたちですもの。でも、少しは心配になるけど……。もしや、本当に怪しいことがあったのかもしれないわね。
いつもの窓際の教室の席につくと、王女の周りには、友だち(もどき)が輪を作る。王族に関係が深い侯爵家や、王の直轄の騎士団の親を持つ皇女ばかり。天気がどうの、噂の高貴な方の恋バナ。ほんとにどうでもいい、当たり障りのない会話をしてくる。
退屈な連中ですわね。退屈な日々にもうんざりなのよね。
授業開始の鐘が鳴り、おのおのが席につくと、ふくよかな体型の教師が現れる。
丸眼鏡に使い古しのブラウンの背広を着ている学者風情の教師は、おもむろに、廊下に待機している女生徒を呼んだ。
小柄で栗色の短髪をお下げしにして、白いリボンを結んでいる。
生徒たちから、驚きの声が上がり、フリメースも思わず息をのんだ。
リリス・スタイルズ公爵令嬢じゃない……!
教師は、リリス嬢をフリメースの隣の席に座るように指示をした。
「よろしく、フリメース様」
リリス嬢は、細い眉をたらし、穏やかな眼差しを向ける。
「あ、ええ……」
フリメースも笑顔で返しながら、パーティーで会った時の彼女とは少し落ち着いた印象を持った。挙動不審な振る舞いもないし、物静かな感じを受けるのだ。
革鞄から、教科書や羊皮紙を取りだして、羽根ペンでメモをしながら、授業の講義を熱心に聞いている眼差しは、昔と何も変わらない。
休み時間になると、他の生徒たちが、リリス嬢の机のまわりに集まってきて、体調を気遣った。
「だいじょうぶよ。でも、高熱で記憶がところどころ、思い出せないことがあるの。学校も勉強だって、分からないこともたくさんあるの」
リリス嬢は、こめかみをいじりながら、自嘲して唇をゆるませる。
「平気だわ。何とかなるわよ」
「仕方ないわよ。分からないことがあったら、助けてあげる」
同級生たちが優しく声をかけると、リリス嬢の表情に笑顔が戻った。
フリメースの頭で、ぱっといたずらしたい衝動に駆られた。
「ねえ、リリス様。全快祝いに、王宮の離れでお茶会でもしましょ。皆さんもいっしょに。ね?」
「面白そうですね」
「ぜひ、行きたいですわ」
友だちもどきが、口々に王女の意見に賛成する中、当の本人はあまり気乗りしない様子だったが、
「……うれしいです。わたしのことをお祝いしてくださるなんて」
と、頬笑んだ。
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