上 下
17 / 22

17

しおりを挟む
 お茶会の前日の土曜日、学園からフリメースが帰宅すると、

「お帰りなさいませ」

と、宮殿のエントランスに、上級の侍女アナリスが待っていた。

「……アナリス!」

 フリメースは、学生鞄を投げ出して、彼女に抱きついた。

「心配したんだから」

「すみません。調査に時間がかかりました。できれば、ここでお話するのは、控えたいのですが……」

「もちろんよ。さあ、わたしの部屋に来て」

 フリメースは、二メートルはありそうな高天井の廊下を南側に向かって進む。突き当たりの階段をあがると、第一王女の部屋がある。

 美しい緑色に統一された枝と葉の壁紙で彩られた、個人の部屋というより、貴族の立派な館といっていい。

 応接間で二人が向かい合って座ると、部屋付きの女中が紅茶を注ぎ入れて、テーブルに置いて出て行く。
 
「お嬢さまのご指摘どおり、リリス・スタイルズ公爵令嬢ですが、実はメリエル・アルバニという瓜二つの、孤児の少女が成り代わっています」

「……メリエル・アルバニ」

 フリメースは、思わず、口に手を当てる。

 そんな予感はしていたものの、いざ、こうして本名を聞くと、本当にそうだったと実感が湧くと同時に、恐ろしさも感じてしまう。

 アナリスは、あまり、感情を表に出さないように、淡々と話を続ける。

「あの舞踏会が終わり、来賓客が帰った翌日、わたしはそのまま馬車から降りて、スタイルズ公爵の屋敷を監視していました。

 すると、その晩、華やかだった照明や音楽は静まり返り、次に現れたのは葬列でした。キャンドルを抱えながら、一列に山間の湖に亡骸を小舟に乗せて、火を放ちました。

 誰か高貴な人物が無くなったのは、容易に予想がつきました。ですが、誰が亡くなったのかまでは分かりませんでした。

 次に、わたしは公爵家の使用人に成りすまして侵入しました。すると、眠る間も惜しんでお嬢様教育の特訓に明け暮れるリリス嬢でした。

 使用人に、なぜかと探りを入れても、はっきりとした答えは出てきません。でも、リリス嬢になろうとしているのに違和感と、もしや、別人ではないかと疑念を強くしました。

 では、どこから連れてきたのか。わたしは、屋敷周辺の集落を尋ね歩きました。そして、ついに、ある少年からリリス嬢とよく似た少女が、窪地の孤児院にいたとの情報を手にしたのです。

 孤児院でちょうど職員の欠員が出ていたので、わたしは孤児たちの手伝いをしながら、慎重にリリス嬢にそっくりな少女の名前を聞き出そうとしました。

 しかし、スタイルズ公爵から口止めをされているのか、職員からはなかなか名前が分かりません。

 子供たちの世話を続けて十日ほど経ち、やっと一人の女の子から、本名がメリエル・アルバニであることが分かった次第です」
しおりを挟む

処理中です...