【完結】侯爵令嬢ですが、婚約破棄を告げられた瞬間から溺愛劇が始まりました

朝日みらい

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最終章 悪役令嬢と恋する花嫁

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 時は流れて――あの婚約破棄騒動から数か月が過ぎ去りました。

王都の大広間には再び華やかな夜会が催されております。

 本日の演目は、辺境伯嫡男アレクシス・ヴァレンタイン様と、ローゼン侯爵令嬢クラリッサ・ローゼンの正式な婚約発表。

 会場は満員の貴族たちで華やぎ、そのざわめきはもはや敵意ではなく、期待と羨望に満ちていました。

――あの「悪役令嬢」と囁かれた令嬢が、ひとりの辺境伯に深く愛されているという、誰もが驚きと憧れを隠せない物語が今ここにあるのです。

 金糸が織りなす美しい刺繍を纏いながら、わたくしは静かに会場へ歩み出ました。

人々の視線に怯むことなく、まっすぐに未来を見据えています。

隣で、優しく手を握ってくださるアレクシス様の温もりが、まるで堅牢な盾のようにわたくしの心を守ってくれているのです。

「ご覧なさい、あれが“悪役令嬢”と呼ばれたお方よ」
「とても……そんな言葉とは程遠い。むしろ女王のように堂々としているじゃないか」
「いや――たぶん、隣のヴァレンタイン様の熱情がそう見せているのかもしれないわね」

 密やかな囁きが耳に届きましたが、今のわたくしの胸には一切の痛みなど存在しません。

むしろ誇らしさが、その胸をひたひたと満たしているのです。

 壇上に進まれたアレクシス様は、堂々たるその姿勢で会場に向き直り、力強く宣言なさいました。

「――私、アレクシス・ヴァレンタインは、この場をもってクラリッサ・ローゼン嬢を正式に婚約者とする」

 その声は静まり返った大広間に響き渡り、人々の息が一瞬止まるのがわかりました。

そして、やがて大きな拍手が湧き起こり、祝福の波となって会場を包み込みます。

その祝福の旋律に包まれながら、わたくしは自然とアレクシス様の腕の中へと抱き寄せられました。

耳許に囁かれた甘く蕩けるような言葉。

「君が笑うたび、俺の世界は新たに救われる」

 頬がたちまち熱を帯び、胸の奥の震えが止まらなくなります。

人前よ、と抗議するはずの声は、甘すぎて喉から零れ落ちてしまいました。
それどころか、わたくしは小さく囁き返しました。

「……もう少し、この腕の中で踊らせてください」

 彼が驚いたように目を細め、一瞬ののち慈愛に満ちた笑みで返し、抱き寄せる力をゆるめることなく強めてくださいました。

やがて、再び流れ出した優雅な舞踏曲に身をゆだね、アレクシス様の腕の中で軽やかに回り続けます。

過去に浴びた冷たい視線や痛みが、まるで幻のように遠ざかっていき、幸福だけが今この瞬間を満たしていました。

 その時、ひそやかなざわめきが壇上の隅から聞こえてきました。視線を向けると、かつて婚約を破棄したアルベルト殿下が、人々の冷たい視線に包まれて一人佇んでおります。かつての威厳は見る影もなく、侍従や側近たちの顔色も険しくなっていました。

 数か月の間に殿下の態度は王室内でも孤立を深め、その策謀は痛烈な反撃を受けていたのです。あの婚約破棄劇の後、殿下の信用は急落し、権力基盤はほころび始めておりました。

 人々の囁きは容赦なく殿下に向けられています。

「結局、自分の計算違いでしかなかったのね」
「己の権勢を笠に着て、令嬢を辱めただけだわ」
「王妃陛下も重い失望の色を隠せていないとか……」

 それを聞いて、わたくしの胸は静かに晴れ渡りました。

――かつての婚約者が陥った哀れな末路を、ただ冷ややかに見つめながら。わたくしの今は、愛と尊敬に満ちた男の腕の中で輝いているのです。

 楽の音が流れに身を委ね、彼の腕の中で回るわたくしは、過去に浴びた冷たい視線や痛みが嘘だったかのように幸せでした。

 


【完】
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