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第9章「深い眠り」
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わたしが昏睡に入ったその日から、時は静かに、けれど確実に流れていきました。
王都では「聖女は亡くなった」と噂が広まり、新聞の片隅には小さな訃報の文字すら踊りました。
王家も、公爵家の後継問題を持ち出すようになり、屋敷には詮索の視線が絶えませんでした。
けれど、彼だけは。
「お前は、まだここにいる。俺が認めなければ、死んではいない」
ライナルト様は、わたしの眠る離宮を守り続けました。
白薔薇の庭園も、毎日手入れされていて。
まるでわたしが目を覚ましたとき、すぐに微笑めるようにと――。
王家の圧力は日に日に強まります。
政略結婚の打診、爵位の譲渡要求、盟約の破棄。
でも、彼は誰にも譲りませんでした。
「この命は、誰のものでもない。俺は、約束を守る」
医師や学者を全国から招き、治療法を探し続ける日々。
その費用は膨大で、屋敷の使用人たちからも戸惑いの声が上がるほどでした。
それでも。
「彼女が戻らないかぎり、この家の春は来ない」
そう呟いた彼の背を、誰も否定できませんでした。
季節は巡り――三度、雪が降って、三度、花が咲いた。
わたしは、目を覚ましませんでした。
でも、彼は信じ続けました。
ある春の朝、白薔薇が一斉に咲き始めた日。
そよ風がカーテンを揺らし、陽の光が、ベッド脇の花瓶をやさしく照らした――そのとき。
わたしのまぶたが、かすかに震えました。
「……ここは……」
その声は細く、かすれていたけれど、確かに空気を震わせて。
ライナルト様は、泣きそうな顔で微笑みました。
「おかえり、セリーヌ」
王都では「聖女は亡くなった」と噂が広まり、新聞の片隅には小さな訃報の文字すら踊りました。
王家も、公爵家の後継問題を持ち出すようになり、屋敷には詮索の視線が絶えませんでした。
けれど、彼だけは。
「お前は、まだここにいる。俺が認めなければ、死んではいない」
ライナルト様は、わたしの眠る離宮を守り続けました。
白薔薇の庭園も、毎日手入れされていて。
まるでわたしが目を覚ましたとき、すぐに微笑めるようにと――。
王家の圧力は日に日に強まります。
政略結婚の打診、爵位の譲渡要求、盟約の破棄。
でも、彼は誰にも譲りませんでした。
「この命は、誰のものでもない。俺は、約束を守る」
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その費用は膨大で、屋敷の使用人たちからも戸惑いの声が上がるほどでした。
それでも。
「彼女が戻らないかぎり、この家の春は来ない」
そう呟いた彼の背を、誰も否定できませんでした。
季節は巡り――三度、雪が降って、三度、花が咲いた。
わたしは、目を覚ましませんでした。
でも、彼は信じ続けました。
ある春の朝、白薔薇が一斉に咲き始めた日。
そよ風がカーテンを揺らし、陽の光が、ベッド脇の花瓶をやさしく照らした――そのとき。
わたしのまぶたが、かすかに震えました。
「……ここは……」
その声は細く、かすれていたけれど、確かに空気を震わせて。
ライナルト様は、泣きそうな顔で微笑みました。
「おかえり、セリーヌ」
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