【完結】婚約破棄され下級メイドになり、獣人王子(猫)の世話係に抜擢されました。

朝日みらい

文字の大きさ
10 / 24

(10)王子が爪を立てる理由 

しおりを挟む
アメリアが王子の寝所で彼の世話を始めてから数週間が経った頃、王宮内で王子が満月の夜に猫に変わるという“秘密”が少しずつ漏れ始めていました。

噂を耳にした好奇心旺盛な女官や下働きの者たちが、こっそりと王子の寝所に忍び込もうと試みるようになったのです。

「満月の夜、あの恐ろしい王子殿下が猫になるなんて…信じられないわ!一目見てやろうじゃない!」と、目を輝かせながら話す女官たち。

普段は王子の冷徹な姿しか知らない彼女たちにとって、その変身はまさに夢のような出来事でした。

どんな恐ろしい猫王子が現れるのか、興味津々で足を運ぼうと決心したのです。

その夜、満月が空高くに輝く中、数人の女官たちが王子の寝所に忍び込もうと、こっそりと足音を忍ばせました。

彼女たちは目を合わせ、息を潜めてお互いに合図を送り合います。

「静かにね、気づかれたら大変だから。」と一人が小声で言い、もう一人がうなずきました。

しかし、運命のいたずらなのか、最初の女官が部屋に足を踏み入れた瞬間、突如として王子の寝室に響いたのは、鋭い「にゃーっ!」という威嚇の声でした。

部屋中にこだまするその音に、女官たちは一瞬で凍りつきました。

「な、なに?!あれが…猫王子?!」

彼女たちは恐る恐る王子の姿を目の当たりにしました。

彼はまるで怒った猫そのもので、鋭い目を光らせ、毛を逆立てていました。

その姿に女官たちは驚きつつも、好奇心を抑えきれずに一歩前へ進もうとしました。

しかし、その瞬間、王子は猛然と駆け寄り、爪を振りかざし、彼女たちの服を引っかけ始めました。

「にゃっ!にゃーっ!」と、彼は怒りの声をあげながら、爪を容赦なく伸ばし、女官たちの服の裾や袖を引き裂いていきました。

「きゃあっ!痛い、王子殿下、やめて!」と叫びながらも、女官たちは必死で後退し、部屋から逃げ出しました。

その顔には驚きと恐怖、そして少しの悔しさが浮かんでいます。

王子は満足げに目を細め、ふうっと鼻を鳴らして一息つきました。

「にゃっ…」と、さっきの威嚇が嘘のように、今度はどこかご機嫌な表情を見せます。

しかし、その表情の裏には、彼の困った事情が隠れているのです。


実は、王子は満月の夜に猫へと変わるものの、猫の姿では人間の言葉をうまく話せないという問題を抱えていました。

普段の王子としての冷徹な振る舞いを保とうとするあまり、満月の夜に寝所へ来る者に対しては、自分の意思を示すために「爪」を使うしかなかったのです。

彼は決して無力ではありませんが、猫の姿では感情を上手く表現できないため、その行動が唯一の手段でした。

そして、王子の猫の姿にはもうひとつの難点がありました。

それは、非常に敏感な猫の嗅覚でした。

アメリアのように清潔で控えめな香りがする相手には穏やかな反応を示すのですが、女官たちが身にまとっている強い香水の匂いには耐えられなかったようです。

「にゃっ…にゃにゃーっ!(このにおいは勘弁してくれ…!)」

王子は顔をしかめ、鼻をぴくぴくと震わせました。

その瞬間、彼の目には、まるで避けられない戦いに挑むかのような決意が宿り、さらに素早く動き出しました。

王子は一瞬で女官たちのもとに駆け寄り、爪を振りかざして、彼女たちの強烈な香水の匂いを「払う」かのように引っかいてしまいました。

「痛っ、もう!本当に怒ってるじゃない!」と、女官たちは顔を真っ赤にしながら叫び、必死に後退して逃げていきました。

王子は満足げに鼻を鳴らし、「にゃっ」と小さな声を漏らして、静かな部屋の隅でくつろぎました。

その後、王子の寝室には平穏が戻り、アメリアがやって来るのを待つ時間が流れました。

アメリアが王子のもとに訪れると、彼は甘えたように膝の上に乗り、ゴロゴロと喉を鳴らしながらリラックスした姿を見せました。

「王子殿下、今日も穏やかですね。」と、アメリアが微笑みながら言うと、王子は満足げに目を細め、甘い声で「にゃー…」と応えました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

元社畜悪役令嬢、辺境のボロ城を全自動ボタニカル美容スパに大改造して引きこもる ~前世コスメで冷徹公爵を完治させたら溺愛されました~

季未
恋愛
「貴様のような悪逆非道な女は、極寒の辺境へ追放だ!」 建国記念の夜会で王太子から婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢シャルロッテ。 しかし、彼女の中身は前世でブラック企業に殺された過労で過労死したマーケターだった! (激務の王妃ルート回避!? しかも辺境は誰にも邪魔されないブルーオーシャン! 最高のフリーランス生活の始まりじゃない!) 理不尽な追放を究極のホワイト・スローライフへのパスポートだと歓喜した彼女は、あてがわれた辺境のボロ城を、前世の「DIY・スマートホーム知識」と「土・水魔法」を駆使して爆速で大改造! 隙間風の吹く部屋は、一瞬で「床暖房完備の全自動温水スパ」へ。 辺境に自生する雑草からは「極上ボタニカルコスメ」を開発し、自らも絶世の美女へと変貌していく。 さらに「お前には干渉しない」と白い結婚を突きつけてきたはずの、呪いで顔に火傷を負った氷の公爵に特製マッサージと美肌治療を施したところ……。 「お前が作ったこの空間と、お前自身が……俺のすべてだ」 冷徹だったはずの公爵様が、極上の癒やし空間と彼女の手技で完全に骨抜きにされ、異常なまでの過保護・溺愛モードに突入!? 現代マーケティングと美容チートで辺境を超高級スマート・リゾートへと再生させ、かつて自分を追放した王太子たちを大後悔させる! 爽快&極甘な、異世界リゾート経営×溺愛ファンタジー、堂々開幕!

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

処理中です...