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ヘーボンハス家は王都の外れの森の近くにある、いわゆる『田舎公爵家』だった。
歩いて1時間ぐらいの距離だが、王都ちかくの上級貴族からはそんな陰口を言われた。そんな森の近くに住んでいたが、幼い頃は父に連れられてよく王立図書館に遊びに行ったものだ。
そして読書に目覚めたきっかけが『月刊・魔術書』という雑誌だった。月刊・魔術書とは、王宮で魔術師が編集している雑誌で、その年に発行された最新の魔法に関する論文や解説が掲載されている。
『月刊・魔術書』のバックナンバーは高価でなかなか手に入らない。
アシェリーの父親が公文書を扱う役職の特権で購読を許してもらえているのはこのためだ。王都に勤めている限り、毎月購読することができるが、貸出はできない。さすがに毎日、図書館に通うことはできない。
「お嬢様は王太子妃より魔術師になりたいのですか?」
侍女が呆れたように言った。
「そんな理由で王太子妃候補になったなどと言えば、旦那様や奥様に叱られますよ」
「あら! お妃さまになれば、お城で好きなだけ本を読むことができるのよ。あなた、そんなの我慢できないわ」
侍女は苦笑した。
「お嬢様の熱心さには頭が下がりますが……」
侍女はアシェリーが抱き締めているクッションを引っ張った。
「でも、このクッションはダメでございますね。お部屋に戻ったらすぐに片付けてくださいまし」
「な、なんでよ!?」
アシェリーは慌ててクッションを抱き締めた。
「なんでも何も、お嬢様のよだれがついております」
侍女はジト目でクッションを見た。確かにそこには小さな染みができている。
「ああああ……」
アシェリーは頭を抱えた。
「もうダメね……。これで何個目かしら?」
最初にやらかしたのは、1歳の時だ。
当時の記憶はほとんど残っていないのだが、なぜかこのクッションだけは鮮明に覚えている。5歳の時にやらかして、6歳の時にもやらかして、7歳でまたやらかしている。
「まったく。お部屋に戻ったらすぐに洗濯いたしますよ」
「ねえ、お願い! この1個だけは許して!」
アシェリーはクッションを抱き締めて懇願した。
「これが無いと落ち着かないのよ!」
侍女は肩をすくめた。
「お嬢様がそのクッションを枕代わりにするのは構いませんが、よだれで汚すのはおやめくださいまし!」
歩いて1時間ぐらいの距離だが、王都ちかくの上級貴族からはそんな陰口を言われた。そんな森の近くに住んでいたが、幼い頃は父に連れられてよく王立図書館に遊びに行ったものだ。
そして読書に目覚めたきっかけが『月刊・魔術書』という雑誌だった。月刊・魔術書とは、王宮で魔術師が編集している雑誌で、その年に発行された最新の魔法に関する論文や解説が掲載されている。
『月刊・魔術書』のバックナンバーは高価でなかなか手に入らない。
アシェリーの父親が公文書を扱う役職の特権で購読を許してもらえているのはこのためだ。王都に勤めている限り、毎月購読することができるが、貸出はできない。さすがに毎日、図書館に通うことはできない。
「お嬢様は王太子妃より魔術師になりたいのですか?」
侍女が呆れたように言った。
「そんな理由で王太子妃候補になったなどと言えば、旦那様や奥様に叱られますよ」
「あら! お妃さまになれば、お城で好きなだけ本を読むことができるのよ。あなた、そんなの我慢できないわ」
侍女は苦笑した。
「お嬢様の熱心さには頭が下がりますが……」
侍女はアシェリーが抱き締めているクッションを引っ張った。
「でも、このクッションはダメでございますね。お部屋に戻ったらすぐに片付けてくださいまし」
「な、なんでよ!?」
アシェリーは慌ててクッションを抱き締めた。
「なんでも何も、お嬢様のよだれがついております」
侍女はジト目でクッションを見た。確かにそこには小さな染みができている。
「ああああ……」
アシェリーは頭を抱えた。
「もうダメね……。これで何個目かしら?」
最初にやらかしたのは、1歳の時だ。
当時の記憶はほとんど残っていないのだが、なぜかこのクッションだけは鮮明に覚えている。5歳の時にやらかして、6歳の時にもやらかして、7歳でまたやらかしている。
「まったく。お部屋に戻ったらすぐに洗濯いたしますよ」
「ねえ、お願い! この1個だけは許して!」
アシェリーはクッションを抱き締めて懇願した。
「これが無いと落ち着かないのよ!」
侍女は肩をすくめた。
「お嬢様がそのクッションを枕代わりにするのは構いませんが、よだれで汚すのはおやめくださいまし!」
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