イルミネーションがはじまる日

朝日みらい

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 びゅるびゅる。ビューン。

 耳もとで冷たい北風がとおりすぎながら、

「早く家におかえりよ」

と言いました。

「きみがいると、すごく飛びにくいんだよな。ぼくらは、南のうちにいそいでるんだからさ」

 そして、びゅんびゅん頬をつねります。

「やめてよ。帰らないもん」
「何でだよ」

 北風がふしぎそうにききました。

「お父さんのかえりを待ってるの」

と、まゆみちゃんはこたえました。

「だいじょうぶだよ。お父さんはひとりでかえれるさ」
「ちがうの。お父さんはわたしが来るとすごくうれしいの。わたしもすごくうれしいのよ」
「ふーん。それで、この本はなんだい?」
「これはスケッチブックよ。わたし、毎日、お父さんに絵を見せるのよ。今日は教室の帰りなの」
「何の教室にかよってるんだい?」
「絵よ。わたし、絵かきになるのが夢なの」

 まゆみちゃんは目を輝かせました。けれど、北風はあまりきょうみがないみたい。そっぽをむくと、

「ほうー。そうかい。それじゃ、ぼく、いそいでるから」

と言ってさっさと通りすぎてしまいました。

「なによ、もう」

 まゆみちゃんはフンと鼻を鳴らしました。
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