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第11章:想いを伝える時、花咲く恋の誓い
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舞踏会の余韻が残る、王城の朝。
わたくしは、静謐な書斎で、温かい紅茶を口にしておりました。
カップから立ち上る白い湯気が、わたくしの心を包み込むように揺らいでいます。
窓の外では、庭園の花々が朝露に濡れて、宝石のようにきらきらと輝いていました。
けれど、わたくしの心は、昨夜の出来事にまだ揺れておりました。
あの華やかな喧騒の中、レオンハルト殿下との間に割り込むように立ってくれたゼノ殿下の姿が、鮮やかに蘇ります。
――ゼノ殿下が、わたくしを守ってくださった。
わたくしに何度も執拗に迫るレオンハルト殿下に、毅然とした態度で立ち向かってくださった。
「彼女は、僕の婚約者だ。兄上が口を挟む資格はないだろ」
その言葉が、まるで聖歌のように、何度も何度も胸の奥で響いていました。
あの時、わたくしは彼の手の温かさと、彼の言葉の力強さに、どれほど救われたことでしょう。
「リシェル」
その声に、わたくしは顔を上げました。
ゼノ殿下が、静かに部屋へ入ってこられました。
朝の光を受けてもなお、彼の纏う冷徹な雰囲気は変わりませんが、その瞳の奥には、わたくしを案じる柔らかな光が宿っているように感じられました。
「少し、話がある」
彼の声は、いつも通り静かで落ち着いています。
わたくしは、小さく頷き、彼に席を勧めました。
ゼノ殿下は、わたくしの向かいに座り、しばらく黙っておられました。
紅茶の香りが満ちる静かな空間で、わたくしはただ、彼の言葉を待っていました。
そして、彼はゆっくりと、しかし、迷いのない声で口を開きました。
「僕に、君の隣を歩く権利があるなら――正式に結婚させてほしい」
その言葉に、わたくしは一瞬、息を呑みました。
予想していなかったわけではありません。
わたくしたちの関係が、いずれそうなるであろうことは、漠然とわかっていました。
けれど、実際に彼の口から告げられると、わたくしの心は、湖に小石が投げ込まれたかのように、さざ波を立てました。
政略的な意味合いではなく、彼自身の言葉で、わたくしに求婚している。
その事実が、胸を締め付けるように、わたくしの心を揺らしました。
「本気で……殿下は、政略ではなく?」
わたくしは、わずかに震える声で尋ねました。
彼がわたくしをどう思っているのか、どうしても、自分の口から確かめたかったのです。
「本気だ」
ゼノ殿下の瞳は、まっすぐにわたくしを見つめておられました。
その瞳の奥に、ほんのわずかでも、偽りはありませんでした。
彼の真摯な眼差しが、わたくしの凍った心を溶かしていくようでした。
もう、迷いはありませんでした。
けれど、わたくしはすぐに答えを出すことはできませんでした。
わたくし自身の心を、確かめる時間が必要だと感じたのです。
「……その答えは、次の舞踏会でお伝えします」
わたくしは、静かにそう告げました。
ゼノ殿下は、少しだけ目を見開かれましたが、すぐにわたくしの意図を理解されたようでした。
そして、静かに頷かれました。
「待っている」
その言葉に、わたくしの胸が静かに、しかし確かに震えました。
冷たく閉ざされていた心の扉が、音を立てて、ゆっくりと開き始めていたのです。
その後、わたくしは書斎を出て、庭園へと向かいました。
朝露に濡れたバラの花弁に触れながら、わたくしは自分の心と向き合っておりました。
――わたくしは、誰かを“好き”になることなどないと思っていた。
そう、わたくしは感情を押し殺して生きてきました。
けれど、ゼノ殿下と過ごす時間の中で、彼の真摯な言葉と、その裏にある優しさに触れるうちに、少しずつ、心がほどけていった。
彼の言葉、彼の沈黙、彼の手の温もり。
それらの一つ一つが、わたくしの中に“愛”という名の小さな芽を育てていたのです。
「……わたくしは、変わったのかしら」
そっと呟いた言葉は、朝の風に流れていきました。
けれど、わたくしは知っていました。
確かに――わたくしの中で、新しい何かが芽吹いていたことを。
わたくしは、静謐な書斎で、温かい紅茶を口にしておりました。
カップから立ち上る白い湯気が、わたくしの心を包み込むように揺らいでいます。
窓の外では、庭園の花々が朝露に濡れて、宝石のようにきらきらと輝いていました。
けれど、わたくしの心は、昨夜の出来事にまだ揺れておりました。
あの華やかな喧騒の中、レオンハルト殿下との間に割り込むように立ってくれたゼノ殿下の姿が、鮮やかに蘇ります。
――ゼノ殿下が、わたくしを守ってくださった。
わたくしに何度も執拗に迫るレオンハルト殿下に、毅然とした態度で立ち向かってくださった。
「彼女は、僕の婚約者だ。兄上が口を挟む資格はないだろ」
その言葉が、まるで聖歌のように、何度も何度も胸の奥で響いていました。
あの時、わたくしは彼の手の温かさと、彼の言葉の力強さに、どれほど救われたことでしょう。
「リシェル」
その声に、わたくしは顔を上げました。
ゼノ殿下が、静かに部屋へ入ってこられました。
朝の光を受けてもなお、彼の纏う冷徹な雰囲気は変わりませんが、その瞳の奥には、わたくしを案じる柔らかな光が宿っているように感じられました。
「少し、話がある」
彼の声は、いつも通り静かで落ち着いています。
わたくしは、小さく頷き、彼に席を勧めました。
ゼノ殿下は、わたくしの向かいに座り、しばらく黙っておられました。
紅茶の香りが満ちる静かな空間で、わたくしはただ、彼の言葉を待っていました。
そして、彼はゆっくりと、しかし、迷いのない声で口を開きました。
「僕に、君の隣を歩く権利があるなら――正式に結婚させてほしい」
その言葉に、わたくしは一瞬、息を呑みました。
予想していなかったわけではありません。
わたくしたちの関係が、いずれそうなるであろうことは、漠然とわかっていました。
けれど、実際に彼の口から告げられると、わたくしの心は、湖に小石が投げ込まれたかのように、さざ波を立てました。
政略的な意味合いではなく、彼自身の言葉で、わたくしに求婚している。
その事実が、胸を締め付けるように、わたくしの心を揺らしました。
「本気で……殿下は、政略ではなく?」
わたくしは、わずかに震える声で尋ねました。
彼がわたくしをどう思っているのか、どうしても、自分の口から確かめたかったのです。
「本気だ」
ゼノ殿下の瞳は、まっすぐにわたくしを見つめておられました。
その瞳の奥に、ほんのわずかでも、偽りはありませんでした。
彼の真摯な眼差しが、わたくしの凍った心を溶かしていくようでした。
もう、迷いはありませんでした。
けれど、わたくしはすぐに答えを出すことはできませんでした。
わたくし自身の心を、確かめる時間が必要だと感じたのです。
「……その答えは、次の舞踏会でお伝えします」
わたくしは、静かにそう告げました。
ゼノ殿下は、少しだけ目を見開かれましたが、すぐにわたくしの意図を理解されたようでした。
そして、静かに頷かれました。
「待っている」
その言葉に、わたくしの胸が静かに、しかし確かに震えました。
冷たく閉ざされていた心の扉が、音を立てて、ゆっくりと開き始めていたのです。
その後、わたくしは書斎を出て、庭園へと向かいました。
朝露に濡れたバラの花弁に触れながら、わたくしは自分の心と向き合っておりました。
――わたくしは、誰かを“好き”になることなどないと思っていた。
そう、わたくしは感情を押し殺して生きてきました。
けれど、ゼノ殿下と過ごす時間の中で、彼の真摯な言葉と、その裏にある優しさに触れるうちに、少しずつ、心がほどけていった。
彼の言葉、彼の沈黙、彼の手の温もり。
それらの一つ一つが、わたくしの中に“愛”という名の小さな芽を育てていたのです。
「……わたくしは、変わったのかしら」
そっと呟いた言葉は、朝の風に流れていきました。
けれど、わたくしは知っていました。
確かに――わたくしの中で、新しい何かが芽吹いていたことを。
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