【完結】離縁された令嬢は、お菓子片手に第二の人生を歩みます

朝日みらい

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第1章:政略結婚の始まり

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 鐘の音が高らかに鳴り響き、純白のヴェールが風にふわりと揺れた。
 侯爵令嬢セリーヌ・ド・ヴァランティーヌは、今日、政略結婚という名の牢獄に足を踏み入れた。

「……思っていたより、冷たい目をしているのね、私の未来の旦那様は」

 誰にも聞こえぬよう、小さく呟いたセリーヌの視線の先には、完璧に整った金茶の髪を持つ青年――ガレオン・ド・リュステルが立っていた。身なりも姿勢も貴族として申し分ない。だが、彼女の挨拶にすら、頷いたのかどうかも怪しい無表情である。

 これが、王命で決まった夫――いや、ほぼ見知らぬ人と呼んでいい相手なのだ。

「ガレオン様、お美しい花嫁様ですよ!何かお言葉を!」

 そう促したのは彼の母――グロリア夫人。今の一言だけでもセリーヌには察せられた。
(ああ、これは……義母の方が前面に出てくるパターンね)

「……母上がお選びになった方なのだから、問題はないと思います」

「まぁ、ガレオンったら!そう言ってくれるなんて、母はうれしいわぁ!」

 嬉しそうに手を叩くグロリア夫人と、そっと一歩引くセリーヌ。既に空気が冷たい。

 ***

 そして迎えた嫁入り初日。

「セリーヌさん、おはようございますわ。朝は五時半起床が我が家の規律ですの。ほら、こちらが一週間分の献立と掃除計画。今日からは家族の一員ですもの、遠慮なくきびしく参りますわよ!」

「……は、はい」

 優雅に微笑むグロリア夫人。その手には、何枚もの書類。まさか結婚して早々、義母から「生活管理リスト」なるものを渡されるとは思っていなかった。

(新しい家族、というよりは女中のひとりに見られてないかしら、私……)

 そして極めつけは――夜。

「セリーヌ様、今夜は旦那様とお部屋を共にされますか?」

 侍女が小声で尋ねるが、返事はない。セリーヌは、客間のソファにそっと腰を下ろしたまま、ぽつりと呟いた。

「たぶん、あの人……私が隣にいても、母親の夢でも見てるのよ」

 と、そこへタイミングよくドアの外から声がした。

「母上、今日のハーブティーは本当に香りがよかった。セリーヌにも飲ませてやってくれ」

「まぁ、あなたったら!奥様想いで素敵!」

(……それ、直接言ってくれたら少しは好感持てたのに)

 政略結婚という名の共同生活は、愛情も優しさも今のところ皆無。けれど、どこか滑稽なほどに“完璧な母子関係”を築いている彼らのやりとりは、セリーヌにとって少しだけ笑える“余地”を残していた。

(ま、こうなったら楽しんでやろうじゃない。マザコン夫と過干渉な姑?……上等よ)

 セリーヌはソファに座り直すと、小さく鼻で笑って、ティーカップを口に運んだ。ほんのり香るラベンダーの香り――それが、この日唯一の癒しであった。
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