【完結】25日に生まれた私は、運命を変える者――なんて言われても

朝日みらい

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終章 花が咲く場所で

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 春風が小川を撫で、花びらをさらっていきます。  
 穏やかな陽射しの中、わたしは咲きほころぶ花園の真ん中に立っていました。  
 ここは、かつて荒れ果てていた庭――あの日、わたしが初めて鍬を握った場所です。

 あれから、もう何年が経ったでしょうか。

 辺境の小さな領地は、今では豊かで温かな村になりました。  
 冬の厳しさに負けない作物が実り、人々の笑い声が満ちています。  
 真っ白だった雪道にも、今は緑の若芽が群れをなして伸びていました。

「お母さま、こっち! 見て!」

 庭の奥で、小さな女の子の声がしました。  
 金の髪が春風に踊り、白い花を握ったその子は、無邪気にわたしへと駆け寄ってきます。

「ほら、また咲いたの! お母さまが植えた花と同じ!」

「まぁ、本当ね。よく見つけましたね、ミリア」

 その子――わたしとライナルト様の娘、ミリアは、まだ五歳。  
 好奇心の塊のようで、毎朝のように庭の“新しい春”を見つけては報告してくれます。

「お母さま、この花の名前は?」
「“暦花(こよみばな)”って言うの。25の日に咲く花だから、そう名づけたのよ」

「25? お母さまの誕生日の日だよね!」

「ええ、そしてあなたのね」

「えっ……? ミリアも25の日なの?」

「そうよ。あなたもわたしと同じ、25日に生まれたの」

 ミリアはぱっと笑顔を浮かべ、白い花を胸に抱えました。

「じゃあ、ミリアも運命を変えられる?」

「もちろんです。暦の神さまは、努力して優しい子をいつも見ておられるからね」

 そう言うと、ミリアが嬉しそうに頷きました。  
 無邪気な笑顔が春の光を弾き、わたしの胸をやさしく温めます。

「おーい、ふたりとも」

 聞き慣れた声に振り返ると、ライナルト様が庭の門のところに立っていました。  
 相変わらず凛とした姿だけれど、昔よりもずっと柔らかい笑顔を見せます。  
 肩には小さな籠。どうやら村の子たちに配るお菓子を詰めてきたようです。

「またミリアが花を見つけたのか?」
「はい! 暦花が咲いたの! 25の花!」

「おお、今年も早いな。……お前そっくりの色だ、アメリア」

「まぁ、からかわないでください」

 笑いながら、手をのばして籠を受け取ります。  
 その仕草の中に、あの日の“誓い”が甦るようでした。  
 月下の約束も、雪の夜の出会いも、すべてこの穏やかな瞬間に繋がっているのです。

「ライナルト様、村の方はどうです? 新しい橋の工事は」
「順調だ。お前の花園から譲ってもらった材木が丈夫で助かる。  
 ……今では、国中の者が“暦の将軍夫婦”と呼ぶほどだぞ」

「まぁ、そんな大袈裟な」

「いや、大袈裟じゃない。お前の花が、この土地に春を呼んだんだ」

 穏やかな声。その横顔を見ながら、わたしはふわりと笑いました。  
 彼の瞳はあの頃よりもずっとあたたかく、穏やかな青をしていました。

「お父さま! ミリアね、今日こそ初めての“摘み花冠”作るの! 一緒にして!」

「わかったわかった。お父さまは力仕事が得意だからな」

 そう言って抱き上げられたミリアが、けらけらと笑います。  
 その笑い声が、風に乗って花の上を駆け抜けていきました。

「……ライナルト様」
「ん?」
「今、幸せですね」

「当たり前だ。お前が隣にいるんだ」

 その言葉に胸がふわりと熱くなり、自然と微笑みがこぼれました。  
 彼とミリアが花冠を編む姿を眺めながら、そっと空を見上げます。  
 青く高い空の真ん中で、白い雲がゆっくりと形を変えていきました。

 ――25という数字。  
 それは、母が遺し、わたしが歩み、そして娘へと受け継がれた運命のしるし。  
 けれど、それは“定め”ではなく、“希望”を守り続ける約束の印です。

「お母さま、“25”って不思議な数字ね!」

 ミリアが花冠を掲げながら笑った。  
 その瞬間、ふと耳の奥で母の柔らかな声が聞こえた気がしました。

『25日に生まれた子は、運命を変える力を持つの。だから誇りなさい』

「ええ、母さん。誇りに思います」

 心の中でそう呟きながら、わたしはゆっくりと目を閉じました。  
 春風に揺れる花々の向こうで、幸福の鐘がほのかに鳴っています。



――完
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