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昔は羽振りが良い時もあったのです
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圭吾が夢中で眺めていると、階段から足音が聞こえて、背後で消えた。
(妙だな)
凝視されている気配を感じて振り返った途端、
「圭吾…」
と、ダウンジャケットを着た小柄の女性に抱きつかれる。
髪を金髪に染めていたが、あの頃のくりっと澄んだ瞳は変わらない、あのままのマユミだ。
「どうして、会ってくれなかったの」
急にマユミは圭吾を突き放すと、上唇を噛んで、にらんだ。
「すまない。今は作家でお金がなくて」
「作家? なんでもいいけど、あたし、お金なんかいらないって、何度も言ったわ」
じれったそうに、マユミはキャミソールの踵を踏みならし始める。
圭吾は、何も言えずに下を向いた。
しばらくして、マユミは踏みならす音をやめて、言った。
「それで…、ちゃんと生活はできてるんだよね」
「ああ。それは大丈夫だよ」
マユミは、ほっとしたように安堵のため息をついてから、
「ねえ、これから時間ある?」と袖を掴む。
「ちょっとお店に寄っていかない? 話したいこと、したいこと、いっぱいあるの」
「ごめん。これから別用があるんだ」
圭吾は腕を引っ込めた。
マユミは少し腕を組んで考えてから、
「お店が気まずいのね。だったらあたしの家に来て」
と言うと、ハンドバックから名刺を取り出し、裏にペンで住所と、入り口の電気錠の暗号数字を書いてよこした。
「わかった。近いうちに行くよ」
圭吾がこたえると、
「ぜったいよ。でも、来る前に電話はちょうだい」
マユミも安心したのか、笑顔になった。
あの頃の不安そうな弱々しさが無く、経験から来る自信が、彼女の笑みからあふれていた。
(妙だな)
凝視されている気配を感じて振り返った途端、
「圭吾…」
と、ダウンジャケットを着た小柄の女性に抱きつかれる。
髪を金髪に染めていたが、あの頃のくりっと澄んだ瞳は変わらない、あのままのマユミだ。
「どうして、会ってくれなかったの」
急にマユミは圭吾を突き放すと、上唇を噛んで、にらんだ。
「すまない。今は作家でお金がなくて」
「作家? なんでもいいけど、あたし、お金なんかいらないって、何度も言ったわ」
じれったそうに、マユミはキャミソールの踵を踏みならし始める。
圭吾は、何も言えずに下を向いた。
しばらくして、マユミは踏みならす音をやめて、言った。
「それで…、ちゃんと生活はできてるんだよね」
「ああ。それは大丈夫だよ」
マユミは、ほっとしたように安堵のため息をついてから、
「ねえ、これから時間ある?」と袖を掴む。
「ちょっとお店に寄っていかない? 話したいこと、したいこと、いっぱいあるの」
「ごめん。これから別用があるんだ」
圭吾は腕を引っ込めた。
マユミは少し腕を組んで考えてから、
「お店が気まずいのね。だったらあたしの家に来て」
と言うと、ハンドバックから名刺を取り出し、裏にペンで住所と、入り口の電気錠の暗号数字を書いてよこした。
「わかった。近いうちに行くよ」
圭吾がこたえると、
「ぜったいよ。でも、来る前に電話はちょうだい」
マユミも安心したのか、笑顔になった。
あの頃の不安そうな弱々しさが無く、経験から来る自信が、彼女の笑みからあふれていた。
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