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第1章 異動とミステリーサークル

第1話

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「篠田 未知子さんが、 本日付で文書課の方に異動なります。ちょっと挨拶してもらえる?」

 朝礼で高田部長が未知子に手招きする。
 未知子は、無理に背筋を押し伸ばして中央に立った。

「三年間、短い間ではございましたが、お世話になりました」

  パラパラと拍手の音がした。
 形式的な拍手。
「ああにはなりたくないなぁ」という顔が浮かんでいる。

 私はめんどくさい人間ということになっているんだな。
 未知子は自席に戻った。 

 私物が入ったダンボールが置いてある。
 それが済んだら ダンボールを持って麹町にある文書課へ移動する。

 ここはジュエリーショップ「SONO」の 営業本部である。
 関東中心に 三十店舗ある。
 百貨店やショッピングモールなどに出店している。

 従業員も非正規やアルバイトを含めたら、三百人を超える。その八割は女性だ。

 そこの司令塔が、この新宿の高層ビル五階にある。

 一面ガラス貼りのオフィスは陽がよく当たる。

 未知子は大学を卒業後、販売を三年経験した後にこの営業部に配属された。

 部長の高田は五十を超えた 小太りの女性である。
 いつも 赤やピンクの派手な服装をしている。
 本人曰く、年を重ねるごとに派手な色の方が似合うとのこと。
 トレードマークの緑色の眼鏡のフレームが キラリと光る。

 一方の未知子はコンタクト入りの切れ長の瞳で、微笑んでいる。
 目元で横に一直線に切りそろえたショートカットをしている。
 過労からか、白髪が生え始めた髪を真っ黒に染めてある。
 それはまるで油絵具のようにべったりとした感じだ。
 背の低さを隠すために、無理やり高めのハイヒールを はいている。

 厚めのファンデーションで青白い肌を隠し、血の気のない 頬にチークで 温かみを添えている。
 痩せ細った体に、ダークグレーのスーツを着ていた。
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