百年後、蒼月の塔で君を待つ――呪われ魔女と王族の恋物語

朝日みらい

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第六章 永遠の誓い

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 月の白い光が、わたくしの頬をそっと撫でていきます。

それは、まるで彼の指先が最後に触れたときのような、冷たくも優しい感触でした。

 ​気づけば、もう誰もいない蒼い塔の最上階に逆戻り。

窓の外では夜風が木々を揺らし、王都の遠い灯火が寂しく揺らめいていました。

 本当に、みんな去ってしまったのですね。

最愛の人も、柔らかな声の王妃さまも、ぎゅっと手を握ってくれた王子も。

 今はただ、長い時間だけがわたくしの隣に座っています。

​「……これでよかったの」

 ​呟いた声はやけに静かで、まるで月の光に吸い込まれて消えそうでした。

呪いは成就し、彼は破滅した。

わたくしを愛した代償として、永遠の眠りについたのです。

 彼の命と引き換えに、王国は救われた。この取引は、誰にも言えないわたくしの秘密の契約でした。

​王の遺骸を抱きよせた夜の感触は、まだ胸の奥に焼き付いたまま。

あのとき感じた温もり、最後に撫でてくれた髪の感触。

「君と静かに、月が見たかった――」

 そんな遺言のような、でもどこか普通の日常めいた願い。

それが、わたくしの唯一の宝物となりました。

​ ――涙なんてもう枯れたはずなのに。

でも、ふと両手を見れば、いまでもあの強い手の名残りが残っている気がして。

 わたくし、そっと両手を抱きしめました。

その手のひらに、彼の魂の残滓が宿っているように感じられたからです。
​孤塔の誓いと予兆

 ​――再び、誰かを愛してはいけません。

​わたくしは塔の冷たい石畳にひざまずき、二度と誰も愛さぬと固く心に誓いました。

 わたくしを愛した者は、必ず破滅する。

この呪いがある限り、わたくしは永遠の孤独を選ぶ以外に道はありません。

 ​そう心に決めたはずなのに、風の音や月の光、王が最後までくしゃっと笑ってくれた顔。

その全てが、わたくしの「生」を次へと押し流すのです。

「生きろ」と、彼の沈黙が命じているように。


 ​塔の窓をゆっくりと開けて、夜の空気を吸い込みました。

永遠の命という呪いは、思っていたよりずっと重たく冷たいものです。

 けれど、その冷たさは不思議と、誰かの手の温もりを思い出させてくれました。

 ​十七歳の少女の姿のまま、わたくしは悠久の時を生き続けます。

 この先、わたくしはきっと孤独を選び続けるのでしょう。

​しかし、蒼き月の光に照らされた瞳の奥には、遠い未来の予兆が揺らめいていました。


 ――それは、およそ百年後。

 王家の血を継ぎながらも、どこか彼の面影を持つ青年――との邂逅。

そして、その出会いが再び、わたくしの蒼月の呪いを呼び起こし、新たな物語を紡ぎ始めるのだと、今のわたくしは知らないままで……。


​「おやすみなさいませ、ガンダルス様」

 ​静かにそう囁いて、わたくしはそっと瞳を閉じました。
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