百年後、蒼月の塔で君を待つ――呪われ魔女と王族の恋物語

朝日みらい

文字の大きさ
11 / 13

第十一章 二人だけの夜明け

しおりを挟む
 ……こんな夜を過ごすことになるなんて、誰が想像したでしょうか。

​ 王都に来てからというもの、舞踏会や貴族たちの視線に心を削られるばかりだったわたくしが。いまは──机を挟んで、王太子ユリウスと肩を並べ、闇の呪いを解くために、ひとつの魔術式を編んでいるのです。

​ 時刻はすでに深更。窓の外には蒼い月が澄みわたり、ろうそくの灯がわたしたちの影を壁にゆらりと揺らしていました。

​「そこは……数値が違います。ここを間違えると術式が安定せず、暴発します」

​「なるほど。だから俺の描いた魔方陣は吹き飛んだのか」

​「当然ですわ。むしろ王城を無事に残したことが奇跡です」

​ 冷淡に言い放つと、彼は苦笑しました。その笑みは真剣で不器用──それなのに、灯火に照らされた横顔はあまりにも眩しく見えてしまうのです。

​気がつけば東の空が白み始めていました。

​「……ふあぁ」

​ 思わず欠伸をもらしたわたくしに、ユリウスが細めた目を向けました。

​「眠いのか?」

​「べ、別に……。これは集中が乱れただけ……」

​「なら、しばらく休め。倒れられては困るから」

​ そう言って、彼はわたくしの頭を肩へとそっと導きました。

​「なっ、なに……」

​「少し寄りかかれ。俺なら支えられる」

​「え……遠慮します」

​「不要だ」

​ 低く優しい声音。抵抗すればするほど、胸にあふれる力強い温もりに抗えなくなります。結局、わたくしは彼の肩にそっと額を凭れさせてしまいました。

​(……温かい……)

​ 心音がくすぐるように響く。長い孤独の歳月を越えて、あまりに柔らかく、あまりに近い。

​静けさに酔って、気づけば口が滑っていました。

​「……わたくしは魔女。あなたに幸せなど……」

​ 抑えていた弱音。堰を切ったようにこぼれ、涙がにじみ出ます。

​ けれど彼は迷わず即答しました。

​「君といることが、俺の幸せだ」

​ 胸が痛いほど跳ねます。ずるい言葉……なのに、どうしてこんなに嬉しいのでしょうか。

​ ユリウスはそっと髪に触れ、撫でて囁きます。

​「俺は君と生きたい。呪いごと、構わない」

​「……なぜ、そこまで……」

​「理由は要らない。もう決まっている。俺は君を──愛している」

​ その一言に、わたしの何百年もの孤独が溶けていくようでした。

​涙を堪えきれず、わたしは小さく囁きました。

​「……だめ……だめ……だめ」

​ 彼の肩に頭を預け、目を閉じる。まるで夢のよう──けれど、確かな温もりがそこにありました。

 ✴✴✴

​ 夜明け。朝の光が彼の横顔を照らし、決意に燃える青の瞳をいっそう鮮烈に映しました。

​「セリーヌ」

​「は……はい」

​「闇の呪いの謎を必ず解く。君の不安もすべて、俺が背負うし守り抜く」

​ 伸ばされた手が頬をなぞる。あまりに真剣で、胸が苦しい。

​(どうして、あなたはこんなにも……好きに……だめなのに)

​ わたくしは泣き笑いのように微笑むしかありませんでした。

​「……本当に、どうしようもない御方」

​ そう告げたその瞬間。

​──王城にけたたましい鐘の音が轟いたのです。

​「っ、これは……」

​ ユリウスが即座に立ち上がり、剣を抜きました。張りつめた気配に胸がざわめきます。

​「呪いの影……よ」

​ 蒼の瞳に再び炎の決意が宿る。その背を見ながら、わたくしも杖を強く握り直しました。

(彼を……絶対に、失いたくない)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに対して、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載しております。

夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。 だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。 失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。 どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。 「悪女に、遠慮はいらない」 そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。 「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。  王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」 愛も、誇りも奪われたなら── 今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。 裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス! ⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

【完結】逃がすわけがないよね?

春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。 それは二人の結婚式の夜のことだった。 何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。 理由を聞いたルーカスは決断する。 「もうあの家、いらないよね?」 ※完結まで作成済み。短いです。 ※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。 ※カクヨムにも掲載。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

処理中です...