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第十一章 二人だけの夜明け
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……こんな夜を過ごすことになるなんて、誰が想像したでしょうか。
王都に来てからというもの、舞踏会や貴族たちの視線に心を削られるばかりだったわたくしが。いまは──机を挟んで、王太子ユリウスと肩を並べ、闇の呪いを解くために、ひとつの魔術式を編んでいるのです。
時刻はすでに深更。窓の外には蒼い月が澄みわたり、ろうそくの灯がわたしたちの影を壁にゆらりと揺らしていました。
「そこは……数値が違います。ここを間違えると術式が安定せず、暴発します」
「なるほど。だから俺の描いた魔方陣は吹き飛んだのか」
「当然ですわ。むしろ王城を無事に残したことが奇跡です」
冷淡に言い放つと、彼は苦笑しました。その笑みは真剣で不器用──それなのに、灯火に照らされた横顔はあまりにも眩しく見えてしまうのです。
気がつけば東の空が白み始めていました。
「……ふあぁ」
思わず欠伸をもらしたわたくしに、ユリウスが細めた目を向けました。
「眠いのか?」
「べ、別に……。これは集中が乱れただけ……」
「なら、しばらく休め。倒れられては困るから」
そう言って、彼はわたくしの頭を肩へとそっと導きました。
「なっ、なに……」
「少し寄りかかれ。俺なら支えられる」
「え……遠慮します」
「不要だ」
低く優しい声音。抵抗すればするほど、胸にあふれる力強い温もりに抗えなくなります。結局、わたくしは彼の肩にそっと額を凭れさせてしまいました。
(……温かい……)
心音がくすぐるように響く。長い孤独の歳月を越えて、あまりに柔らかく、あまりに近い。
静けさに酔って、気づけば口が滑っていました。
「……わたくしは魔女。あなたに幸せなど……」
抑えていた弱音。堰を切ったようにこぼれ、涙がにじみ出ます。
けれど彼は迷わず即答しました。
「君といることが、俺の幸せだ」
胸が痛いほど跳ねます。ずるい言葉……なのに、どうしてこんなに嬉しいのでしょうか。
ユリウスはそっと髪に触れ、撫でて囁きます。
「俺は君と生きたい。呪いごと、構わない」
「……なぜ、そこまで……」
「理由は要らない。もう決まっている。俺は君を──愛している」
その一言に、わたしの何百年もの孤独が溶けていくようでした。
涙を堪えきれず、わたしは小さく囁きました。
「……だめ……だめ……だめ」
彼の肩に頭を預け、目を閉じる。まるで夢のよう──けれど、確かな温もりがそこにありました。
✴✴✴
夜明け。朝の光が彼の横顔を照らし、決意に燃える青の瞳をいっそう鮮烈に映しました。
「セリーヌ」
「は……はい」
「闇の呪いの謎を必ず解く。君の不安もすべて、俺が背負うし守り抜く」
伸ばされた手が頬をなぞる。あまりに真剣で、胸が苦しい。
(どうして、あなたはこんなにも……好きに……だめなのに)
わたくしは泣き笑いのように微笑むしかありませんでした。
「……本当に、どうしようもない御方」
そう告げたその瞬間。
──王城にけたたましい鐘の音が轟いたのです。
「っ、これは……」
ユリウスが即座に立ち上がり、剣を抜きました。張りつめた気配に胸がざわめきます。
「呪いの影……よ」
蒼の瞳に再び炎の決意が宿る。その背を見ながら、わたくしも杖を強く握り直しました。
(彼を……絶対に、失いたくない)
王都に来てからというもの、舞踏会や貴族たちの視線に心を削られるばかりだったわたくしが。いまは──机を挟んで、王太子ユリウスと肩を並べ、闇の呪いを解くために、ひとつの魔術式を編んでいるのです。
時刻はすでに深更。窓の外には蒼い月が澄みわたり、ろうそくの灯がわたしたちの影を壁にゆらりと揺らしていました。
「そこは……数値が違います。ここを間違えると術式が安定せず、暴発します」
「なるほど。だから俺の描いた魔方陣は吹き飛んだのか」
「当然ですわ。むしろ王城を無事に残したことが奇跡です」
冷淡に言い放つと、彼は苦笑しました。その笑みは真剣で不器用──それなのに、灯火に照らされた横顔はあまりにも眩しく見えてしまうのです。
気がつけば東の空が白み始めていました。
「……ふあぁ」
思わず欠伸をもらしたわたくしに、ユリウスが細めた目を向けました。
「眠いのか?」
「べ、別に……。これは集中が乱れただけ……」
「なら、しばらく休め。倒れられては困るから」
そう言って、彼はわたくしの頭を肩へとそっと導きました。
「なっ、なに……」
「少し寄りかかれ。俺なら支えられる」
「え……遠慮します」
「不要だ」
低く優しい声音。抵抗すればするほど、胸にあふれる力強い温もりに抗えなくなります。結局、わたくしは彼の肩にそっと額を凭れさせてしまいました。
(……温かい……)
心音がくすぐるように響く。長い孤独の歳月を越えて、あまりに柔らかく、あまりに近い。
静けさに酔って、気づけば口が滑っていました。
「……わたくしは魔女。あなたに幸せなど……」
抑えていた弱音。堰を切ったようにこぼれ、涙がにじみ出ます。
けれど彼は迷わず即答しました。
「君といることが、俺の幸せだ」
胸が痛いほど跳ねます。ずるい言葉……なのに、どうしてこんなに嬉しいのでしょうか。
ユリウスはそっと髪に触れ、撫でて囁きます。
「俺は君と生きたい。呪いごと、構わない」
「……なぜ、そこまで……」
「理由は要らない。もう決まっている。俺は君を──愛している」
その一言に、わたしの何百年もの孤独が溶けていくようでした。
涙を堪えきれず、わたしは小さく囁きました。
「……だめ……だめ……だめ」
彼の肩に頭を預け、目を閉じる。まるで夢のよう──けれど、確かな温もりがそこにありました。
✴✴✴
夜明け。朝の光が彼の横顔を照らし、決意に燃える青の瞳をいっそう鮮烈に映しました。
「セリーヌ」
「は……はい」
「闇の呪いの謎を必ず解く。君の不安もすべて、俺が背負うし守り抜く」
伸ばされた手が頬をなぞる。あまりに真剣で、胸が苦しい。
(どうして、あなたはこんなにも……好きに……だめなのに)
わたくしは泣き笑いのように微笑むしかありませんでした。
「……本当に、どうしようもない御方」
そう告げたその瞬間。
──王城にけたたましい鐘の音が轟いたのです。
「っ、これは……」
ユリウスが即座に立ち上がり、剣を抜きました。張りつめた気配に胸がざわめきます。
「呪いの影……よ」
蒼の瞳に再び炎の決意が宿る。その背を見ながら、わたくしも杖を強く握り直しました。
(彼を……絶対に、失いたくない)
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