【完結】公爵家の養女、実娘発見で即追放……でも辺境の冷徹伯爵に拾われて、なぜか溺愛されてます ~

朝日みらい

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最終章 新しい人生の始まり

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 セリーヌ嬢の悪事が公になってから、数ヶ月の月日が流れました。

王都は、混乱と騒動の渦中にありました。しかし、辺境の地には、そんな喧騒は届きません。

この地は雪解けの季節を迎え、厳しい冬を乗り越えた村人たちの顔には、安堵と希望の光が宿っていました。わたしもまた、カイル様の隣で、心穏やかに、新しい日々を送っていました。

 ある日の朝。

窓の外を見れば、雪解けの川がとうとうと音を立てて流れ、そのほとりには、小さな花々が、春の訪れを告げるように、可憐な姿を見せていました。

 わたしは、美しい景色を眺めながら、この地が、わたしにとって、本当に大切な場所になったのだと、心から感じていました。

その時、背後から、優しい声が届きました。

「エリクシア」

 振り向くと、いつものように真っ直ぐな眼差しをわたしに向けるカイル様がいました。

彼はわたしの手を取り、膝をつき、小さな指輪を差し出したのです。

「お前を、俺の妻として、一生守る」

 その言葉は、不器用ながらも、何よりも真摯な愛の誓いでした。

孤独だったわたしを思い出し、心が熱くなります。けれど今、迷うことはありません。

「はい。喜んで…!」

 涙と笑顔をこぼしながら答えると、カイル様は心から嬉しそうに笑い、そっと指輪をはめてくださいました。

ぴたりと収まったその指輪は、まるで「わたしに定められた居場所はここなのだ」と告げてくれるようでした。

 そして結婚式の日。

 領民たちの祝福の中、わたしは辺境の花々で飾られた素朴なドレスに身を包みました。

豪奢な王都の衣よりもはるかに美しく、わたしにとって世界で一番の宝物に思えました。

――その時、祭壇の上に白薔薇の花束がそっと置かれていることに気づきました。そこには一通の封書が添えられていました。

 震える指で封を開くと、柔らかな筆致でこう綴られていました。

「恐れるな。君の進む道は、もう光に満ちている。
 ――白薔薇の騎士より」

 文字を目で追うと同時に、胸の奥に込み上げるものがありました。

いつもわたしを奮い立たせてくれた言葉。勇気を与え、孤独から救い上げてくれた存在。

 思わず、教会の窓辺に目をやりました。

眩しい春の陽光の中、白い馬に跨る一人の騎士の後ろ姿が見えます。

 顔は見えません。

けれど、純白の外套が風に靡くその影は――わたしを導いた「白薔薇の人」そのものでした。

騎士はそのまま馬を走らせ、振り返ることなく、教会の視界から遠ざかっていきました。

 わたしは、追いません。ただ静かに、その姿を見送ります。

 胸の奥に確かな声が響いていました。

――ありがとう。あなたの言葉があったから、今のわたしがある。

 わたしは隣に立つ夫、カイル様の手を強く握ります。

青空の下、誓いの鐘が鳴り響き、祝福の声がこだましました。

 かつて冷たい屋敷で、孤独に耐えていた少女は、今や、愛と誇りに包まれた、辺境の姫となりました。 

 わたしは、カイル様の隣に立ち、空を見上げます。

 私だけの「白薔薇の騎士」。

  抜けるような青空が、どこまでも広がり、雲一つありませんでした。

  心の底から、わたしは、小さな声で、呟きました。

「今が、一番幸せ」

 その言葉は、誰に聞かせるわけでもなく、ただ、わたし自身の心に、深く、深く、染み込んでいきました。
 


【完】
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