【完結】婚約解消だったので、嫌われ者の侯爵に嫁ぐことにしました。

第9章: 孤独の告白

あれからしばらく、アレクシスとの関係が少しずつ変わっていった。

前のように冷たい空気が流れることもなく、時折、笑顔が見えるようになったり、軽い会話を交わしたりするようになった。

でも、まだ彼のことが完全にわかるわけではなかった。

彼はいつもどこか遠くを見ているような、そんな寂しげな目をしていたから。

その日も、私たちは庭で一緒に過ごしていた。

朝の陽ざしが柔らかく、風も穏やかで、まさにゆったりとしたひとときだった。

私はアレクシスの隣に座って、花の手入れをしていた。

彼は何も言わずに、私の作業をじっと見ているだけ。

でも、その視線がなんだかちょっと心地よくて、私は自然と肩をすくめながらも作業を続けていた。

「…セシリア。」

突然、アレクシスがぽつりと呟いた。

「ん？ どうしたの？」

私は花の茎を切りながら顔を上げた。

「俺、子どもの頃…ずっと孤独だった。」

アレクシスが、少しだけ言いづらそうに、けれども確かにその言葉を吐き出した。

私の手が一瞬止まった。

こんな風に彼が心を開くなんて、想像もしなかった。

「え？」

私は思わず声を上げてしまった。

彼が孤独…そんな風に感じていたなんて、まったく想像もしていなかったから。

アレクシスは少し照れくさそうに、けれども目を逸らすことなく私を見た。

「親もいなかった。いや、存在してたけど、俺には冷たかったんだ。兄弟もいなかったし、家族というものを感じたことはほとんどなかった。」

彼の目はどこか遠くを見つめていて、私はその視線に引き込まれるような気がした。

でも、どうしても彼の痛みを少しでも分かち合いたくて、私は彼の隣にぴったりと寄り添った。

「そんな…でも、今は私がいるじゃない。」

私は彼の手にそっと触れた。そのまま手を握りしめると、アレクシスは少し驚いたような顔をして私を見たが、すぐにその目に温かさが宿った。

「そうだな。」

彼は小さく息をつき、私を見つめた。

その顔に少しだけ笑みが浮かんで、私はホッとした。

「でも、どうして急にそんな話を？」

私は顔を赤らめながら、何となく照れくさくなってしまった。

アレクシスは少し笑って、私を見下ろした。

「…お前が気づいてくれたからだと思う。俺が、孤独を抱えていることを。」

「気づいてた、かな？」

私は少し首をかしげて、彼に問いかけた。

「気づいてたよ。」

アレクシスはにやりと微笑んだ。

その笑顔が、いつもと違って少しだけ柔らかくて、私の心がドキドキしてしまった。

「お前、そんなことないと思ってるだろうけど、俺にとってはお前の存在がとても大きいんだ。」

その言葉に、私は胸がいっぱいになった。

彼が私にそんな風に思ってくれていたなんて、少し前なら想像もできなかった。

でも、今は彼の優しさが心に染み渡るように感じられて、嬉しくて仕方なかった。

「私だって、アレクシスがいてくれてすごく嬉しいよ。」

私は少し照れながら答えた。

そのとき、アレクシスが微笑みながら私の肩に軽く手を置いた。

「それなら、良かった。」

彼の声は少し甘くて、心に響いた。

彼の手が私の肩に触れるだけで、なんだか安心する。

まるで、今まで感じたことのない優しさが溢れてきて、私の心が満たされていくようだった。

「でも、こうやって話すの、少し恥ずかしいね。」

私は照れくさい笑顔を浮かべて、彼を見上げた。

アレクシスはクスリと笑って、「確かにな。」と答えた。

「でも、こういうのも悪くない。」

彼の言葉に、私の顔がますます赤くなった。

「だって、アレクシスって普段はあんなに無口だし、冷たいから…」

私はつい本音が口をついて出てしまった。

するとアレクシスは、「お前の前では、素直でいたいんだ。」と、少しだけ恥ずかしそうに言った。

その言葉に、私は心の中で喜びが湧き上がってくるのを感じた。

「素直なアレクシスも、素敵だよ。」

私は小さな声で、でもしっかりと彼に伝えた。

すると、アレクシスは少し驚いた表情を見せ、そしてその後に、嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとう、セシリア。」

彼の声が、いつもより少しだけ優しく聞こえた。

そのまま、私たちはしばらく何も言わずにただ静かに座っていた。

アレクシスの隣で、こうして心の距離が縮まっていくのを感じることができて、私はとても幸せだった。

今まで知らなかったアレクシスの一面を見て、彼との絆が少しずつ深まっていくのを実感できる。

それは、何にも代えがたいほど貴重な瞬間だった。