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第5話

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 亜里砂が「ありがとう」と、早苗に言いました。
「うん。すごくいいね」
 早苗はくるりと背中を向けると、また部屋のすみにもどってしまいました。

「さあ、帽子をかぶって、ポーズ、とってみて」
 パパが、陽気な人なつっこい笑顔で、カメラをかまえます。

 カシャッカシャッ。フラッシュがたかれるたびに、亜里砂はまるで別人みたいになった気がしました。  

 笑ったり、おこった顔をしてみたり、かなしそうにしてみせたり。
 走ってみたり、おどけたり、おどってみたり、しゃがみこんだり。
 
 亜里砂は、他の人に、こんなにほめられたり、ねっしんに見られたりされたことなんて、いままであまりありません。
 それが、こんなにドキドキして、ウキウキするなんて、はじめて知りました。

 亜里砂のドレスにぬいつけられたビーズがライトの光でピカピカにかがやいて、まるで、どこかのお姫さまにでもなったようです。

「亜里砂ちゃん、ありがとう。サイコーにかがやいていたよ!」 
 パパは、カメラのファインダーなら目をはなすと、小さな子どもみたいに、顔をクシャクシャにしてほほえみました。

「雫ちゃん、楓ちゃん、亜里砂ちゃん。今日はさつえい会に参加してくれて、ありがとうね。写真はちゃんと現像して、プレゼントします。早苗、写真できたら、みんなにわたしてあげてくれ」
 パパが、隅っこにいる早苗に言うと、早苗はだまってうなずきました。

 それから、パパは、亜里砂に近づいて、言いました。

「ねえ、亜里砂ちゃん。また、いつでも遊びに来てよ。亜里砂ちゃんをとっていたら、新しいドレスのアイデアが浮かんできたんだ」

「ほ、ほんと、ですか!」
 亜里砂も、すっかりこうふんしていました。
 亜里砂もドキドキしたけれど、パパも同じようにドキドキしたんだと思いました。

 パパとスタッフたちが部屋からいなくなりました。

「よかったね。ほんとのモデルさんみたいだった」
 雫も楓も、亜里砂をかこんで、肩をつついたり、髪の毛をなでたりして、はしゃいでいます。

 すると、おもむろに早苗がやってきて、すこしほほをゆるませて言いました。
「亜里砂、にあってたよ。パパがあんなにうれしそうなの、ひさしぶりに見たから、びっくりした。また、遊びに来て」

 そう言うと、一人で部屋を出て行ってしまいました。
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