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異世界

2 実態調査

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 ケンが最初に行ったのが、上手そうな匂いを垂れ流していた、露店の店主(顔がブルドック犬だったが)との交渉だった。上手そうなホットドッグみたいなものを買おうとして、財布の金を拒否された。とりあえず金は通用しないようだ。店主と会話はできたから、意思の疎通には問題ない。見た限りでは、この世界での通貨は、金貨、銀貨、銅貨など。いかにも異世界ファンタジーらしい。

 通りを、馬よりも一回りはデカい、巨大トカゲが引く馬車が、ノロノロと通り過ぎていく。爬虫類があれほどデカいと違和感が半端ない。
 風が強くて砂埃が舞っているが、行き交う人々は慣れているのか、この異様な光景にも無関心だ。
 
 この世界の人間の特殊な見た目、髪の色が、赤、白、黄色、何でもありな、カラフルさ。染めれば基本的に何色の髪でもあり得る、それに顔が、ざっと見渡した限り、イヌとネコは発見した。ウサギもいれば、変わり種だとトカゲっぽいのもチラッといたような気がする。かと思えばケンと変わらない見た目の人間もいる。

 戦闘力のレベルゲージは、自分が知りたいと意識すると、網膜裏に浮き出てくる。だいたい歩いてる平民のレベルゲージは、10から30ぐらいがせいぜいだ。相手は分かるが、自分のレベルはかわらないが、それなりはあるだろう。

 観察した、ケンの調査結果はこうだ。
 ジャンルは異世界ファンタジー。文明は典型的な中世風。人間もどきな生物ありで、たぶんだが、戦争とか冒険もある。異世界ファンタジーにつきものの魔法もあるだろう。
 だが、異世界召喚された原因も、目的もさっぱりわからない。

「異世界に再就職したってことか。全く、冗談がすぎるぜ」

 呟きながら、改めてケンは自分の所有物を確認した。
 異世界ファンタジーで生き残るには、初期の装備が大切だ。さて、どんな装備があるかっていえば。
 まずケータイ、財布、愛着しているグレーのパーカーと、使い古したスニーカー。

「終わったな……」
 
 事態は絶望的だ。召喚ものなら、俺を召喚した女はどこだよ。ほっぽらかしか。召喚しておいて無目的で放置されるなんて、ありえなねえだろ。それか、なにか? 異世界面接だから、あの時、サバイバルアイテムで武装すべきだったと? なら、先に教えてくれよ。

 ケンは現実逃避すらできずに、ただただ、胸の中で悪態をつき、うなだれるしかない。
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