異世界に落ちたオレは、キミの最強の武器になる

朝日みらい

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異世界

3 遭遇

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「マジで勘弁してくれよ。俺にどうしろってんだよ」
 弱音、泣き言が、とうとう口からこぼれて、早くも気持ちが、折れそうだ。帰りたい、とひたすら思う。

 妄想は妄想のままでよかった。異世界召喚なんてものは頭の中で無双してるが楽しいんであって、本当に放り込まれたら尻ごみ以外の何ができるってんだ。

「とにかく当面は生きるだけだ……。コミュニケーション下手な俺でやっていけるのかよ?」

 まともに誰かと会話するなど、会社に行かなくなってからは、家族を除けば、コンビニの店員としかしていない。そんな生活を一年近く続けてきたのだ。距離の測り方なんてとうに忘れてる。

 とぼとぼ路地裏に入って、しばらくして、後ろから響いた足音。やっとあの女かと思って振りかえると、路地の入口に三人ほどの狼男が、ケンの行く先を塞ぐように立っていた。

 顔面の突き出た顎と赤い目の侮蔑と嘲弄まじりの視線を相手に受けながら、ケンもまた彼らを値踏みした。
 毛むくじゃら。薄汚い身なりと、内面のいやしさがそのまま顔に表れたような雰囲気。とにかく、ケンを食いたそうにしている。

「やべぇ、強制イベント発生だ。それに奴らのレベルゲージが50レベルばっかりだ」

 よだれを垂らしている獣たちに対し、ケンは噴き出す汗を拭った。
 明らかに俺は食い物――しかも、世界設定的に命を奪われてもおかしくない。

 ミッション『化け物どもを撃退せよ』の発生だ。クリア条件は敵の全滅。そうしたらケンの経験値レベルゲージは、倒した奴らのレベルゲージ分を奪えるから、一匹150に✖3で、合計150ぐらいはアップしそうだ。だが、敗北条件はイマダ  ケンの死亡、ポイント0といったところ。

 背中を悪寒が駆け抜けるのを、ケンは自分の頬を叩いて気を逸らす。

 開き直るしかないだろ。まごまごしていて何になる。気合いだ、気合いだ。でも、体育会系ではないが。
「異世界召喚。今の俺、無双パターンからすれば、ひょっとしたら俺のレベルゲージ10000かもしんねえ。この世界じゃメチャクチャ強いかも。そう考えたら体が軽い気が! おら、いけるかもしれねえぞ」

「なんか、ぶつぶつ言ってるよ」
「状況がわかってないんだろ。ベビーちゃんのくせに」

 勝手に気分上場のケンに対し、獣人たちの反応はひどく冷たい。
 だが、ケンはそんな化け物の態度にめげずに胸を張り、
「おっと、ベビーだと。調子づいてられんのも今のうちだ。言っとくが、俺みたいなタイプは、こうやって路地裏で怪物に絡まれた反撃パターンの妄想も、日常茶飯事やってんだ。一瞬でなぎ倒して、明日の俺の糧にしてやるぜ。経験値レベル、150上昇だぜ、ヤッター」
「なに言ってんのかわかんねえけど、俺らを馬鹿にしてんのはわかった。ベビー野郎」
「そりゃ……こっちのセリフだぞ、狼さんよ!」
 言い切って、男たちが動くより先に俺の先制攻撃が入った。
 懐に飛び込んで渾身の右ストレート。先頭の獣の鼻面を見事に直撃だ。
 ――初めて狼男を殴った! しかも、思ったより殴った方が痛い!
 シミュレーションに余念はなかったが、実践するのは初めてだ。
 でも殴られた男は、何事も無かったように平然と立っている。そのまま感情に任せて、俺は別の狼にも躍りかかった。
「食らえ! 華麗なハイキック!」
「はあ?」
 弧を描く足先が狼の側頭部に命中したが、びくともしねえ。

 思いのほか、頼りないな戦いぶりに、ケンの中で俺無双が絶望に変わりつつあった。

「この世界でも俺はヘボか! 無能か! アドレナリンいっぱい放出してんのによ」

 その最後の狼男の手の中に、きらりと光るナイフを見つけた。

「お前を殺したら、髪の毛や皮膚もはいで売りさばいて、有効利用してやるよ」
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