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奇妙な劇団

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 登は妹の代わりにこたえた。

「ああ。僕の友人である塩崎守君が、3年前、火災に巻き込まれて亡くなったんです。

 彼は当日占いに夢中になっていて、運が悪いことにその日も店にいたのですよ。

 そのお参りに、麗子が僕の代わりに行ってくれました。

 作品作りで忙しいのを分かってくれていますからね。

 塩崎君がいなければ、今の劇団は存在していませんから、感謝しているんです」

 塩崎というみよじに光子は、心当たりがある。

 まさか、運転手の塩崎に息子がいるのだろうか。いやまさか。そんなこと一度も聞いたことがない。単なる偶然に決まっている。

「では、光子さんも服に着替えましょう。立派な女優さんですから」

 10分後、集合の掛け声と共に全員が舞台の下に車座になって座った。

 おもむろに登はテーブルに積まれた台本を一部づつ、全員に配った。

「題名は『仮面の令嬢』。おわかりのように、まだ一幕目しか完成してません。

 ですが、今回のヒロインのメアリー役は新人の大門光子さんにぜひやって頂きたいと思ってます。

 ここで新風を巻き起こして、観客をさらに増やしたい。皆さん、どうですか?」

 一瞬静まったが、次には大きな拍手が湧き起こった。

 光子は恥じらいながら立ち上がると、何度も皆に頭を下げた。

 だが、麗子は硬い表情で、腕を組んだままだ。

「どう思う? それでいいかい」

 登が尋ねると、麗子はむっつりしたまま立ち上がって、光子に歩み寄ると、急に広角をもち上げ微笑んだ。

「演出家がゾッコンなら仕方ない。大門さん、大変だろうけど頑張って。私も支えるよ」

 登は手際よく、役者たちを立たせて自己紹介をさせた。

 それがスタッフに移った時、最後に一人の新人が立ち上がった。
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