[完結]仮面の令嬢は、赤い思い出を抱いて眠る

朝日みらい

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刻まれた記憶

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 郡山も自分と同じように記憶を切り刻みながら、やっと日常を送っている。

 苦しんでいるのは自分だけではないと思うと、光子は幾分、気が楽になった。

 光子は、ちょっと顎に手をやってから、尋ねてみた。

「郡山さんみたいな能力がある人なら、私の記憶も取り戻せるでしょうか?」

「それは、可能でしょう。ただ、郡山さんに近づくのは、絶対にやめなさい。危険すぎる。いいですね。あなたがコントロールされますよ」

「はい…。それから先生…もうひとつ質問があるのですが…」

 よく考えてみると、不思議な点が浮かんでくる。
 私は超能力などない、ただの人間だ。

 なら、どうして病気になってしまったのだろう。
 なぜ、仮面の女に惑わされるのだろう。

 その女は母親の怨念?
 体の中に取り付いているの…?

「私は生まれる前に何かをされたのでしょうか?」

「どういう意味でしょう?」

 首を傾げる先生に、先ほど考えた呪いの話をした。
 笑われると思ったが、先生は真剣だった。

「その可能性はあります。母親が生まれる前の子供に、自分の魂まで宿してしまう。十分ありえる話です。
 実はかつての上司だった仮屋教授も、似たような実験をされている。
 妊婦に自分自身の精神まで産み付けることが可能であるかという…」

「それは成功したのですか?」

 光子は思わず身を乗り出した。

「分かりません」

 先生は首を横に振った。

「教授が亡くなったので、過去の資料がどこに行ってしまったのか。もうこれ以上はお話しはできません。
 加藤社長の許可も必要になるくらいのトップシークレットの情報です。勘弁してもらうしかない……」

「私、二十歳になったら全ての財産を手にできるんです。そうなったら研究費を元の倍にします。
 お約束します。加藤おじさまの言うことなんて気にしなくていいです。私、口は堅いほうなんですよ。先生には迷惑はかけません」

「……なら、ちょっと探してみましょう。何か分かるかも知れません」

「ありがとうございます。もし、仮面の女が母親だったのなら、私は向き合うことが出来ます」

 先生の表情が曇った。

「今のあなたの精神力で、それに立ち向かうのは非常に危険なことです。あれは女の格好をしていますが、それはただの形に過ぎない。
 あなたに危害を及ぼさない保証はどこにもないのです。私たちが立ち向かおうとしているのは、実体のない、得体のしれない怪物なのです」
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