[完結]仮面の令嬢は、赤い思い出を抱いて眠る

朝日みらい

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愛情と実験

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「やめて!」
光子は耳を塞いだ。
先生も反省したように口を手で覆った。
しばらく時間が過ぎた。
「ごめんなさい。先生、続けてください」
胸を押さえ、ゆっくり深呼吸してから、彼女は言った。
彼は慎重に言葉を選んだ。
「ご存知だと思いますが、ご両親にはお子様が出来なかった。それはお父様の精子の異常です。奥様は39歳のとき、末期のガンが見つかった。時間は限られていました。お父様は悩まれた末、奥様にクローンを産ませることにした。他人に産ませるより、本人が直接生んだ方が成功する確率が高くなる。つまり、心も体も一体化した子供になるはずだと」
「母も知っていたの?」
「もちろん、奥様も同意したうえです。もし成功したら、ずっと愛する妻といっしょに居られる。そして、愛する妻に見取られて死ぬことが出来る。お父様はそういうお考えでした。そして40で妊娠したわけです」
「それはエゴだわ。傲慢です…」
「でも、愛情は色々な形がある。お父様は究極のものを達成しようとした。あらゆる財力を使ってね」
「けれど、私は心の病気だった」
「そうです。症状は9才頃から出てきました。知らない仮面の女が現れるのだと。そして11才の時、事件が起きた。あなたは父親を崖から突き落とした…」
「私が…父を?」
「そう叔父の加藤様から伺いました。そして、これまでのあなたの記憶を全て消すように依頼がありました。頭部に大けがもされていましたし、当時の精神状態も非常に不安定でしたから、私も合意したのです」
「どうして頭に怪我をしたの?」
「存じません。お父様がお亡くなりになった晩でしたが…」
「父が自殺した夜のことね。その時に私も大けがをした…」
「それ以上は勘弁してください。研究費の増額、期待しています」
先生は、気まずそうに顔をそむけて立ち上がった。
光子も立ち上がった。
「叔父様が口止めをしているのですか? 叔父さまに研究のことをお話ししてもよろしいの?」
先生は無言でドアを閉めた。
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