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怪物の正体

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「みつ、ちょっと時間ある?」
駅に向かう帰り道で、登は駆け寄ってきた。
光子は時計を見た。
すでに夜9時すぎになっている。
「登さん。今日は麗子さんとはお帰りにならないの?」
「あんなやつ、どうでもいいさ」
「でも、変に怪しまれるからよしたほうが…」
そう言い終わらないうちに、強引に光子を抱きしめ、口づけした。しばらくして、登が顔を上げた。光子は、黙ったまま、されるがままだった。
登は、月明かりに照らされた彼女の顔をじっと眺めた。
「パーティ会場の君だ。蝉の抜け殻のような…」
と登は言った。
光子はうつむいた。
しばらく沈黙があった。
それから登は、ふっと息を吐いてから言った。
「わかっている。僕は嘘つきだ。あの夜、君がいることは一男から聞いていた。だから、会場の入り口で待っていた。青いドレスの君は、とても綺麗だった。守から何度も聞いていた通りの女性だった。何度も聞かされていた通りの、素敵な人だった。君が会場を飛び出して、後を追った。そして、すぐ塩崎の物語を思い出した。君にぴったりだと思ったんだ」
「それだけじゃないでしょう?」
赤い瞳で光子は、睨みつけた。
「お金?」
「そうよ。お金よ。あなたは犯罪を犯しているわ。慈善活動とか綺麗ごとを並べて、実際はどうなの?神童さんみたいに財産を奪われて、旦那様まで失っている人もいる。そんなひどいことをしていて、よく平気でいられるわ…」
「仕方ないことだった」とため息をつく。
「劇団を存続させるためにね。ただ、覚悟しているよ。どんな運命が待っているかわかないけれど。いずれ罰せられるのを…」
「何で…何でこうなったの…。あなたが大好き。だって、とてもいい人だもの。誠実で真面目だし。責任感もあるし、そしてやさしい。でも、どうしてこうなってしまったの…。どうしてよ、どうしてなのよ…」
光子は、彼の胸を何度も叩いていた。
うなだれたまま、登はされるがままになっている。
彼女が胸にしがみついて泣き始めると、そっと長い髪を撫でた。
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