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3 ザンビエータの森
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オークの潜む深い森に、フローラルは再び足を踏み入れた。
魔王領は柵に囲まれていたが、前回にアングリーズの放った火炎魔法で穴があったので、そこから中に侵入できた。
昨日は仲間がいたし、彼女はいつも先頭を歩くことはなかった。
しかし、今はひとりで、遙かに高い木々に覆われた、じめじめした野道を歩いている。
腰ベルトには魔法の杖。だが黒枝ではなく白枝には攻撃能力はない。
背負っている革袋には、香の薬草を瓶詰めしたものと銀皿が二枚。
そして、手持ちのハーブを肩紐に引っかけている、無防備な、ひとりの少女に過ぎない。
「昨日の冒険者か……」
「隠れてばかりの最弱の奴だったぞ」
「とうとう食われに来たか?」
ザワザワと不気味に梢が揺れる中から、オークの密やかな囁きが聞こえてくる。
フローラルは、倒木した丸太に腰かけ、地面から大葉を広い、銀皿に乗せた。
そこに瓶から香料を少々ふりかけ、白杖で熱を加えて炙ると、何ともいえない、心地よい香りがそよ風に運ばれ満ちていく。
それから、ハーブの弦を細指で奏でながら緑色の瞳を閉じ、小鳥のさえずりのように歌を口ずさむ。
誘われるように、身長は三メーターはある、五、六匹の巨大なオークが姿を現した。
本来なら、そんな時は戦闘力のある剣士や魔法使いかが敵を一網打尽にするところだが、今は誰もいない。
か弱い少女の周りに、オークたちはだまって、手にしていた棍棒を地面に置くと跪き、黙って美しい匂いと音色に聞き惚れていた。
すると、そんなオークたちに紛れて、燃えるような赤髪をした、長身の青年と、お供の背中にコウモリの羽根を生やした獣人が現れた。
青年は押し黙ったまま赤い目を閉じて、近くの丸太に足を組んで座って聴いていた。
フローラルは、ただならぬ気配を感じて、ハーブの弦から指先を離して目を開けた。
すると、目の前に魔王がいることに気づいて、慌てて、片膝をついて一礼した。
お供の獣人は、ギラギラした黄色い目を皿にして、
「昨日は我々の部下を殺ろしておいて、今度は勝手に敷地に入り込むとは、無礼な娘だな」
と、腰に差していた鞘に手をかけて威嚇する。
「昨日は大変申し訳ありませんでした。ですが、今日はわたし一人。武器も持たずに参った次第です。仲間もこの村を去りました」
獣人は、さもおかしそうに笑うと、牙をむき出しにして、
「つまり、お前は敵の領地に武器も持たずに、のこのことやってきたわけかよ? 」
「はい。シラスク公爵様のご子息をお返しくださるようにお願いをしに来たのです」
「全くずうずうしい奴だなあ。ですが魔王様、すごく可愛いですし、癒されるというか、悪い娘とも思えないですがね。魔王様、どうなさいますか?」
魔王と呼ばれた青年はおもむろに立ち上がり、
「お前の名前は何というのだ?」
「わたしは、フローラル・パシスと申します」
「フローラル。昨日は確かに敵として仲間を殺しに来たが、お前は誰も殺してはいなかった。そして、今度は、この森に一人で乗り込み、美しい音色を奏でた。その心意気には感銘を受けた」
そして、魔王は頭を下げたままのフローラルの顎に手を当てて、顔を引き寄せ、
「人質の少年は、お前の手に返してあげよう。ただし、条件があるが」
「それはどのような?」
フローラルは、喉元に魔王の鋭い爪が当てられているのを感じつつ、僅かに唇を震わせながら尋ねる。
「お前は、わたしのしもべになること。それでも、いいかな?」
「……しもべ、ですか? それでご子息を返してくださるなら……」
「なら、お前は今日からわたしのものにする」
そう言った途端、フローラルのマントを払い、上着の袖をめくりあげる。
「魔王様?」
フローラルの顔が恐怖で歪む。
魔王は口元を近づけながら、にやりと微笑み、
「受け入れろ。痛くしないから」
と、二の腕をむき出しにし、ギザギザした歯がフローラルの白い肌に疵を付けた。
「あっ、熱い……」
フローラルが、右腕の疵に手を当てて顔をしかめていると、次第に赤く燃え立つように浮き出ていた斑紋が次第に黒ずみ、痛みは収まった。
「黒薔薇の文様だ。これで、いつでもお前を召喚できる」
「黒薔薇……」
フローラルが地面に佇んだまま、マジマジと文様を見ていると、魔王は黒いマントを翻して、風ともに姿を消した。
獣人は、面白くなさそうに、
「ふん」と軽く鼻を鳴らすと、オークたちは林の奥から小さな少年を抱きかかえ、フローラルの前に差し出した。
「よかったです……」
膝に抱きかかえて、安堵の吐息をして、感謝の言葉を言おうてして顔をあげた時には、周囲には誰もいなかった。
魔王領は柵に囲まれていたが、前回にアングリーズの放った火炎魔法で穴があったので、そこから中に侵入できた。
昨日は仲間がいたし、彼女はいつも先頭を歩くことはなかった。
しかし、今はひとりで、遙かに高い木々に覆われた、じめじめした野道を歩いている。
腰ベルトには魔法の杖。だが黒枝ではなく白枝には攻撃能力はない。
背負っている革袋には、香の薬草を瓶詰めしたものと銀皿が二枚。
そして、手持ちのハーブを肩紐に引っかけている、無防備な、ひとりの少女に過ぎない。
「昨日の冒険者か……」
「隠れてばかりの最弱の奴だったぞ」
「とうとう食われに来たか?」
ザワザワと不気味に梢が揺れる中から、オークの密やかな囁きが聞こえてくる。
フローラルは、倒木した丸太に腰かけ、地面から大葉を広い、銀皿に乗せた。
そこに瓶から香料を少々ふりかけ、白杖で熱を加えて炙ると、何ともいえない、心地よい香りがそよ風に運ばれ満ちていく。
それから、ハーブの弦を細指で奏でながら緑色の瞳を閉じ、小鳥のさえずりのように歌を口ずさむ。
誘われるように、身長は三メーターはある、五、六匹の巨大なオークが姿を現した。
本来なら、そんな時は戦闘力のある剣士や魔法使いかが敵を一網打尽にするところだが、今は誰もいない。
か弱い少女の周りに、オークたちはだまって、手にしていた棍棒を地面に置くと跪き、黙って美しい匂いと音色に聞き惚れていた。
すると、そんなオークたちに紛れて、燃えるような赤髪をした、長身の青年と、お供の背中にコウモリの羽根を生やした獣人が現れた。
青年は押し黙ったまま赤い目を閉じて、近くの丸太に足を組んで座って聴いていた。
フローラルは、ただならぬ気配を感じて、ハーブの弦から指先を離して目を開けた。
すると、目の前に魔王がいることに気づいて、慌てて、片膝をついて一礼した。
お供の獣人は、ギラギラした黄色い目を皿にして、
「昨日は我々の部下を殺ろしておいて、今度は勝手に敷地に入り込むとは、無礼な娘だな」
と、腰に差していた鞘に手をかけて威嚇する。
「昨日は大変申し訳ありませんでした。ですが、今日はわたし一人。武器も持たずに参った次第です。仲間もこの村を去りました」
獣人は、さもおかしそうに笑うと、牙をむき出しにして、
「つまり、お前は敵の領地に武器も持たずに、のこのことやってきたわけかよ? 」
「はい。シラスク公爵様のご子息をお返しくださるようにお願いをしに来たのです」
「全くずうずうしい奴だなあ。ですが魔王様、すごく可愛いですし、癒されるというか、悪い娘とも思えないですがね。魔王様、どうなさいますか?」
魔王と呼ばれた青年はおもむろに立ち上がり、
「お前の名前は何というのだ?」
「わたしは、フローラル・パシスと申します」
「フローラル。昨日は確かに敵として仲間を殺しに来たが、お前は誰も殺してはいなかった。そして、今度は、この森に一人で乗り込み、美しい音色を奏でた。その心意気には感銘を受けた」
そして、魔王は頭を下げたままのフローラルの顎に手を当てて、顔を引き寄せ、
「人質の少年は、お前の手に返してあげよう。ただし、条件があるが」
「それはどのような?」
フローラルは、喉元に魔王の鋭い爪が当てられているのを感じつつ、僅かに唇を震わせながら尋ねる。
「お前は、わたしのしもべになること。それでも、いいかな?」
「……しもべ、ですか? それでご子息を返してくださるなら……」
「なら、お前は今日からわたしのものにする」
そう言った途端、フローラルのマントを払い、上着の袖をめくりあげる。
「魔王様?」
フローラルの顔が恐怖で歪む。
魔王は口元を近づけながら、にやりと微笑み、
「受け入れろ。痛くしないから」
と、二の腕をむき出しにし、ギザギザした歯がフローラルの白い肌に疵を付けた。
「あっ、熱い……」
フローラルが、右腕の疵に手を当てて顔をしかめていると、次第に赤く燃え立つように浮き出ていた斑紋が次第に黒ずみ、痛みは収まった。
「黒薔薇の文様だ。これで、いつでもお前を召喚できる」
「黒薔薇……」
フローラルが地面に佇んだまま、マジマジと文様を見ていると、魔王は黒いマントを翻して、風ともに姿を消した。
獣人は、面白くなさそうに、
「ふん」と軽く鼻を鳴らすと、オークたちは林の奥から小さな少年を抱きかかえ、フローラルの前に差し出した。
「よかったです……」
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