7 / 20
第7章 王の独占欲
日が沈んでも、王宮は明るすぎました。
ところどころで灯された燭台が長い影を落とし、まるで光そのものが私を逃さないように絡みついてくるみたいです。
昼間の会話が、耳の奥で響いていました。
「去る? ……僕の許可なく?」
何も答えられなかった私に、陛下はふと笑って「明日の夜、話そう」とだけ言いました。
――その声が、怖かった。
優しいのに、底の見えない静けさがあったのです。
そして今夜。
約束のとおり、私は再び執務室の扉の前に立っていました。
「お入り」
扉の向こうから、穏やかな声。
まるで毎夜と変わらない調子――けれど、胸の中の鼓動だけが違っていました。
「失礼いたします……」
入ると、陛下は静かに立っておられました。
机の上には書類も置かれておらず、室内はいつになくすっきりしています。
代わりに、二つ並んだグラスと葡萄酒のボトル。
「仕事は今夜は終わりだ。君に付き合ってほしい」
「……私に、ですか?」
「ああ。もう“部下”なんて呼び方はしないでくれ」
何気ないように言いながら、足音も立てずに近づいてこられる。
香水も何もつけていないはずなのに……この人の匂いに包まれると、胸が締めつけられます。
「緊張してる?」
「……いえ」
「嘘だね。ほら、指先が冷たい」
すっと伸ばされた手が、私の左手を包み込みました。
その瞬間、肺の奥まで熱い空気が流れ込んだように息が詰まります。
「……冷え性なだけです」
「そういうことにしておこう。けれど――僕といる時は、もう少し楽に構えていい。
君が逃げようとすると、僕は余計に追いたくなる」
「陛下、やはり私は――」
「まだその話をするつもりかい?」
声の調子が、ほんの少し低くなりました。
――それだけで、背中が硬くなる。
「……今は、臣下としての私を置いてください。
私はただ、一人の女として――」
「嫌だ」
「……え?」
「王としても、男としても、君を手離すのは嫌だ。
“臣下”や“女官”という言葉で自分を囲うのは、やめて」
指先から伝わる温度が、熱を帯びていく。
まるで心臓の鼓動が、そのまま掌を伝って重なっているようでした。
「君を呼ぶ声を手放すなんて、想像できないよ。
明日、誰が“エレノア”と呼ぶ?」
「陛下……」
「そもそも、君は僕を信用していない。違う?」
「そんなこと――」
「ある。ずっと感じていた。
僕を“女たらしの王”だと思ってるんだろう?」
「……っ!」
息が止まりました。
まさか、その心の奥底を言葉にされるとは思ってもいませんでした。
「……一度たりとも、信じられる隙を見せてくださらなかったからです」
「そうしないと、近づけなかったからだよ」
「え……?」
「君は“特別扱い”を嫌う。
だから僕は、あえて誰にでも優しい王を演じていた。
君が、安心して僕のそばに居られるように」
動揺して声が出ない。
ゆっくりと彼の青い瞳が、こちらを射抜くように見ていた。
「……演じて、いた?」
「そうだ。
本当の僕は、君にしか興味がない。
他の誰かに微笑むたび、いつも考えていた。――君ならどう反応するか」
「……そんな……」
「ねえ、エレノア。
どうやったら君は僕を見て、僕を泣かせてくれるんだろう?」
低い声が、静かに胸の奥まで染み渡ってくる。
距離が、どんどん近づいていくのに、足が動かない。
「やっぱり僕は、残酷かな」
「……はい」
「でも、君が去るというなら――もっと残酷になると思う」
囁かれた息が、耳に触れて凍えるように熱い。
耳朶のすぐそばで、囁きだけが空気を震わせる。
「……理解できません、陛下の仰ることは」
「理解しなくていい。
ただ、僕のことを――忘れようとするのだけは、許さない」
逃げようと一歩後ろへ下がったその時、
彼の指先があっという間に私の手首を掴みました。
強くではなく、まるで“触れる程度”に優しく。
「離してください」
「いやだ」
短い拒否の声。
けれどそこに籠もる熱が、心を追い詰めていく。
「僕が君を苦しめるなら、それでもいい。
君が僕を嫌いになるのが――もっと怖い」
「そんな……」
「それなら、苦しめたほうがましなんだ」
言葉の意味が、恐ろしいのに甘美で。
心臓がどくどくと音を立て、思考を溶かしていく。
「……陛下、どうか。もう、やめ――」
言葉を最後まで言う前に。
彼の指が頬に触れ、耳の後ろを撫でて、あごの下を軽く支える。
「その呼び方を、やめて」
「……え?」
「“陛下”じゃない。“レオナルト”って呼んで」
「……そんな――」
「王じゃなく、ただの男として。
君に触れたいと思っている人間として」
そのまま、彼の額が触れ合いました。
視線と息と、鼓動さえ混ざっていく。
「ねえ、僕を見て。
王でも、仮面でもなく――今、目の前にいる僕を」
目を逸らしたいのに、逸らせなかった。
あの青の中には、王ではない何かが住んでいた。
たぶん、それは“狂おしいほどの愛”の形。
「……レオナルト様」
恐る恐る呼ぶと、まるで嬉しそうに彼の瞳が細まる。
その一瞬の微笑が、どんな花よりも美しかった。
「……もう一度」
「……レオナルト様」
「うん、それでいい」
その言葉と同時に、髪先が軽く撫でられる。
頬に落ちた彼の指が、優しく形をなぞる。
まるで“存在を確かめる”みたいな触れ方。
「僕の名前を呼ぶ君の声が、いちばん好きだ」
低く震える声。
耳の奥で響くほど近くて、息ごと絡まるような囁き。
「去ってもいいと言うつもりはないよ。
――これは命令じゃない。願いだ」
言葉と共に、彼の掌がそっと頬に添えられます。温かかった。
ああ、こうやって“檻”は作られていくのだと、どこかで理解していました。
「そんな顔をするな。
僕は君を縛りつけたいんじゃない。ただ――」
彼の瞳が、微かに笑う。
その甘さが、砂糖よりも危険。
「君がいないと、国が廃れる気がするんだ」
「……レオナルト様、それは極論です」
「理屈じゃないよ。全ての歯車が回る気がしないんだ。
だからお願い――この国のためにでもいい。君のためにでもいい。
僕の傍にいて」
その言葉は、甘い鎖でした。
「……嫌なんです」
「君が?」
「……違います。
“嫌になれない”自分が、嫌なんです」
そう言うと、彼は少しだけ目を閉じました。
次の瞬間、堪えきれなくなったように笑って、囁いた。
「――じゃあ、仕方ないね」
「……え?」
「君が“嫌になれない”のなら、僕はその感情の責任を取ろう」
「責任……?」
「君の人生、全部預かる。
君が泣いても笑っても、僕が全部見ていく」
その誓いのような言葉が、胸の奥に刺さる。
彼が握っていた手が、ほんの少し力を強くした。
「怖がらないで。
これは罰じゃない――褒美だよ。……君が僕に関心をくれた“その報い”だ」
微笑みと同時に、彼は手を離した。
しかし離されたのは、皮膚だけで。心は完璧に捕まれていた。
「エレノア。もう二度と僕の前で、“辞める”なんて言わないでくれ」
「……はい」
「いい子だ」
最後に、彼の掌が髪を一度撫でました。
あたたかくて、苦しくて、どうしようもなく心地よい。
そうしてレオナルト陛下は、扉の方へ歩き出してから――
振り返らずに言いました。
「次に“逃げようとしたら”、その時は、僕は君を国ごと閉じ込める」
静かな声。
脅しではなく、まるで“宣言”のように。
壁際まで追い詰められたのは、私でした。
ところどころで灯された燭台が長い影を落とし、まるで光そのものが私を逃さないように絡みついてくるみたいです。
昼間の会話が、耳の奥で響いていました。
「去る? ……僕の許可なく?」
何も答えられなかった私に、陛下はふと笑って「明日の夜、話そう」とだけ言いました。
――その声が、怖かった。
優しいのに、底の見えない静けさがあったのです。
そして今夜。
約束のとおり、私は再び執務室の扉の前に立っていました。
「お入り」
扉の向こうから、穏やかな声。
まるで毎夜と変わらない調子――けれど、胸の中の鼓動だけが違っていました。
「失礼いたします……」
入ると、陛下は静かに立っておられました。
机の上には書類も置かれておらず、室内はいつになくすっきりしています。
代わりに、二つ並んだグラスと葡萄酒のボトル。
「仕事は今夜は終わりだ。君に付き合ってほしい」
「……私に、ですか?」
「ああ。もう“部下”なんて呼び方はしないでくれ」
何気ないように言いながら、足音も立てずに近づいてこられる。
香水も何もつけていないはずなのに……この人の匂いに包まれると、胸が締めつけられます。
「緊張してる?」
「……いえ」
「嘘だね。ほら、指先が冷たい」
すっと伸ばされた手が、私の左手を包み込みました。
その瞬間、肺の奥まで熱い空気が流れ込んだように息が詰まります。
「……冷え性なだけです」
「そういうことにしておこう。けれど――僕といる時は、もう少し楽に構えていい。
君が逃げようとすると、僕は余計に追いたくなる」
「陛下、やはり私は――」
「まだその話をするつもりかい?」
声の調子が、ほんの少し低くなりました。
――それだけで、背中が硬くなる。
「……今は、臣下としての私を置いてください。
私はただ、一人の女として――」
「嫌だ」
「……え?」
「王としても、男としても、君を手離すのは嫌だ。
“臣下”や“女官”という言葉で自分を囲うのは、やめて」
指先から伝わる温度が、熱を帯びていく。
まるで心臓の鼓動が、そのまま掌を伝って重なっているようでした。
「君を呼ぶ声を手放すなんて、想像できないよ。
明日、誰が“エレノア”と呼ぶ?」
「陛下……」
「そもそも、君は僕を信用していない。違う?」
「そんなこと――」
「ある。ずっと感じていた。
僕を“女たらしの王”だと思ってるんだろう?」
「……っ!」
息が止まりました。
まさか、その心の奥底を言葉にされるとは思ってもいませんでした。
「……一度たりとも、信じられる隙を見せてくださらなかったからです」
「そうしないと、近づけなかったからだよ」
「え……?」
「君は“特別扱い”を嫌う。
だから僕は、あえて誰にでも優しい王を演じていた。
君が、安心して僕のそばに居られるように」
動揺して声が出ない。
ゆっくりと彼の青い瞳が、こちらを射抜くように見ていた。
「……演じて、いた?」
「そうだ。
本当の僕は、君にしか興味がない。
他の誰かに微笑むたび、いつも考えていた。――君ならどう反応するか」
「……そんな……」
「ねえ、エレノア。
どうやったら君は僕を見て、僕を泣かせてくれるんだろう?」
低い声が、静かに胸の奥まで染み渡ってくる。
距離が、どんどん近づいていくのに、足が動かない。
「やっぱり僕は、残酷かな」
「……はい」
「でも、君が去るというなら――もっと残酷になると思う」
囁かれた息が、耳に触れて凍えるように熱い。
耳朶のすぐそばで、囁きだけが空気を震わせる。
「……理解できません、陛下の仰ることは」
「理解しなくていい。
ただ、僕のことを――忘れようとするのだけは、許さない」
逃げようと一歩後ろへ下がったその時、
彼の指先があっという間に私の手首を掴みました。
強くではなく、まるで“触れる程度”に優しく。
「離してください」
「いやだ」
短い拒否の声。
けれどそこに籠もる熱が、心を追い詰めていく。
「僕が君を苦しめるなら、それでもいい。
君が僕を嫌いになるのが――もっと怖い」
「そんな……」
「それなら、苦しめたほうがましなんだ」
言葉の意味が、恐ろしいのに甘美で。
心臓がどくどくと音を立て、思考を溶かしていく。
「……陛下、どうか。もう、やめ――」
言葉を最後まで言う前に。
彼の指が頬に触れ、耳の後ろを撫でて、あごの下を軽く支える。
「その呼び方を、やめて」
「……え?」
「“陛下”じゃない。“レオナルト”って呼んで」
「……そんな――」
「王じゃなく、ただの男として。
君に触れたいと思っている人間として」
そのまま、彼の額が触れ合いました。
視線と息と、鼓動さえ混ざっていく。
「ねえ、僕を見て。
王でも、仮面でもなく――今、目の前にいる僕を」
目を逸らしたいのに、逸らせなかった。
あの青の中には、王ではない何かが住んでいた。
たぶん、それは“狂おしいほどの愛”の形。
「……レオナルト様」
恐る恐る呼ぶと、まるで嬉しそうに彼の瞳が細まる。
その一瞬の微笑が、どんな花よりも美しかった。
「……もう一度」
「……レオナルト様」
「うん、それでいい」
その言葉と同時に、髪先が軽く撫でられる。
頬に落ちた彼の指が、優しく形をなぞる。
まるで“存在を確かめる”みたいな触れ方。
「僕の名前を呼ぶ君の声が、いちばん好きだ」
低く震える声。
耳の奥で響くほど近くて、息ごと絡まるような囁き。
「去ってもいいと言うつもりはないよ。
――これは命令じゃない。願いだ」
言葉と共に、彼の掌がそっと頬に添えられます。温かかった。
ああ、こうやって“檻”は作られていくのだと、どこかで理解していました。
「そんな顔をするな。
僕は君を縛りつけたいんじゃない。ただ――」
彼の瞳が、微かに笑う。
その甘さが、砂糖よりも危険。
「君がいないと、国が廃れる気がするんだ」
「……レオナルト様、それは極論です」
「理屈じゃないよ。全ての歯車が回る気がしないんだ。
だからお願い――この国のためにでもいい。君のためにでもいい。
僕の傍にいて」
その言葉は、甘い鎖でした。
「……嫌なんです」
「君が?」
「……違います。
“嫌になれない”自分が、嫌なんです」
そう言うと、彼は少しだけ目を閉じました。
次の瞬間、堪えきれなくなったように笑って、囁いた。
「――じゃあ、仕方ないね」
「……え?」
「君が“嫌になれない”のなら、僕はその感情の責任を取ろう」
「責任……?」
「君の人生、全部預かる。
君が泣いても笑っても、僕が全部見ていく」
その誓いのような言葉が、胸の奥に刺さる。
彼が握っていた手が、ほんの少し力を強くした。
「怖がらないで。
これは罰じゃない――褒美だよ。……君が僕に関心をくれた“その報い”だ」
微笑みと同時に、彼は手を離した。
しかし離されたのは、皮膚だけで。心は完璧に捕まれていた。
「エレノア。もう二度と僕の前で、“辞める”なんて言わないでくれ」
「……はい」
「いい子だ」
最後に、彼の掌が髪を一度撫でました。
あたたかくて、苦しくて、どうしようもなく心地よい。
そうしてレオナルト陛下は、扉の方へ歩き出してから――
振り返らずに言いました。
「次に“逃げようとしたら”、その時は、僕は君を国ごと閉じ込める」
静かな声。
脅しではなく、まるで“宣言”のように。
壁際まで追い詰められたのは、私でした。
あなたにおすすめの小説
幼なじみは今日も私を抱きしめたまま
由香
恋愛
主人公・美月の幼なじみ、陽斗は距離が近すぎる。
家では当たり前のように後ろから抱きしめてきて、
頬をすり寄せる。
学校では肩に顎を乗せ、退屈そうにほっぺをつつく。
「このほっぺ好き」
「意味わかんないんだけど…」
幼い頃からずっと一緒だったせいで、美月はこの距離に慣れてしまっていた。
けれど文化祭の日。
「美月、他の男に触らせないで」
幼なじみの静かな独占欲が、ついに本気を見せる。
これは――
距離ゼロの幼なじみが、恋人になるまでの甘すぎる物語。
不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない
翠月 瑠々奈
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。
始めは夜会での振る舞いからだった。
それがさらに明らかになっていく。
機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。
おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。
そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?
今さら遅いと言われる側になったのは、あなたです
阿里
恋愛
夜会で婚約破棄された私は、すべてを失った――はずだった。
けれど、人生は思いもよらない方向へ転がる。
助けた騎士は、王の右腕。
見下されてきた私の中にある価値を、彼だけが見抜いた。
王城で評価され、居場所を得ていく私。
その頃、私を捨てた元婚約者は、転落の一途をたどる。
「間違いだった」と言われても、もう心は揺れない。
選ばれるのを待つ時代は、終わった。
私を簡単に捨てられるとでも?―君が望んでも、離さない―
喜雨と悲雨
恋愛
私の名前はミラン。街でしがない薬師をしている。
そして恋人は、王宮騎士団長のルイスだった。
二年前、彼は魔物討伐に向けて遠征に出発。
最初は手紙も返ってきていたのに、
いつからか音信不通に。
あんなにうっとうしいほど構ってきた男が――
なぜ突然、私を無視するの?
不安を抱えながらも待ち続けた私の前に、
突然ルイスが帰還した。
ボロボロの身体。
そして隣には――見知らぬ女。
勝ち誇ったように彼の隣に立つその女を見て、
私の中で何かが壊れた。
混乱、絶望、そして……再起。
すがりつく女は、みっともないだけ。
私は、潔く身を引くと決めた――つもりだったのに。
「私を簡単に捨てられるとでも?
――君が望んでも、離さない」
呪いを自ら解き放ち、
彼は再び、執着の目で私を見つめてきた。
すれ違い、誤解、呪い、執着、
そして狂おしいほどの愛――
二人の恋のゆくえは、誰にもわからない。
過去に書いた作品を修正しました。再投稿です。
最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる
椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。
その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。
──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。
全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。
だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。
「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」
その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。
裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。
【完結】嘘も恋も、甘くて苦い毒だった
綾取
恋愛
伯爵令嬢エリシアは、幼いころに出会った優しい王子様との再会を夢見て、名門学園へと入学する。
しかし待ち受けていたのは、冷たくなった彼──レオンハルトと、策略を巡らせる令嬢メリッサ。
周囲に広がる噂、揺れる友情、すれ違う想い。
エリシアは、信じていた人たちから少しずつ距離を置かれていく。
ただ一人、彼女を信じて寄り添ったのは、親友リリィ。
貴族の学園は、恋と野心が交錯する舞台。
甘い言葉の裏に、罠と裏切りが潜んでいた。
奪われたのは心か、未来か、それとも──名前のない毒。
山猿の皇妃
夏菜しの
恋愛
ライヘンベルガー王国の第三王女レティーツィアは、成人する十六歳の誕生日と共に、隣国イスターツ帝国へ和平条約の品として贈られた。
祖国に聞こえてくるイスターツ帝国の噂は、〝山猿〟と言った悪いモノばかり。それでもレティーツィアは自らに課せられた役目だからと山を越えて隣国へ向かった。
嫁いできたレティーツィアを見た皇帝にして夫のヘクトールは、子供に興味は無いと一蹴する。これはライヘンベルガー王国とイスターツ帝国の成人とみなす年の違いの問題だから、レティーツィアにはどうすることも出来ない。
子供だと言われてヘクトールに相手にされないレティーツィアは、妻の責務を果たしていないと言われて次第に冷遇されていく。
一方、レティーツィアには祖国から、将来的に帝国を傀儡とする策が授けられていた。そのためには皇帝ヘクトールの子を産む必要があるのだが……
それが出来たらこんな待遇になってないわ! と彼女は憤慨する。
帝国で居場所をなくし、祖国にも帰ることも出来ない。
行き場を失ったレティーツィアの孤独な戦いが静かに始まる。
※恋愛成分は低め、内容はややダークです