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第10章 甘すぎる日常
王の私室に、わたしだけの机と椅子が与えられた日。
最初に思ったのは、「ここから、もう外へは戻れない」という実感でした。
広すぎる部屋。高い天井。
夕陽がガラスに反射し、黄金の光が床を渡る。
その光のすべてが、まるで“私の存在に対する証”のようで、観念的な息を漏らしてしまいました。
「気に入った?」
穏やかで低い声。
背後からそっと肩にかけられた上着が、羽のように軽くて、けれど重たかった。
「……広すぎます。部屋の半分も使いきれません」
「使いきる必要なんてない。僕がここに来るための空間だから」
「……そんな贅沢な使い方を」
「贅沢じゃない。“君がここにいる”という、それだけで意味がある」
優しい声ほど、危険だともう知っているのに。
心臓が、胸の中できれいに跳ねました。
「君を不安にさせる要素は、すべて消した。
中傷も、噂も、隔たりも。もう誰も君を笑わない」
――本当に、その通りになっていました。
社交界で噂を流していた貴婦人たちは、いつの間にか王都から姿を消したのです。
誰もエレノアという女官の話題を口にしなくなった。
まるで存在自体が“聖域”になったかのように、誰も触れない。
(……恐ろしいほど、静かです)
「だから、もっと笑ってほしい。
君が柔らかく笑うたび、僕は救われてる」
「そういうお世辞は——」
「お世辞じゃない」
その声に遮られた瞬間、指が視界を滑った。
気づけば彼が、私の髪をとてもゆっくりと撫で上げていた。
丁寧すぎて、呼吸を奪うほどの仕草で。
「……髪、伸びたね」
「おかげさまで。最近、切りに行く暇がなくて」
「そう。なら、僕が切ってあげようか?」
「王が……ですか?」
冗談かと思って振り返ると、本気の眼差しがあった。
あの美しい蒼の中に映る私の姿に、全身が緊張する。
「王は、そんなことをなさるものではありません」
「君にはする。――王ではなく“僕”としてはね」
「……それなら、断ります。怖いですから」
苦笑して答えると、彼は素直に笑った。
その笑顔があまりにも柔らかくて、息が止まる。
「冗談が通じるようになってきたね。少し嬉しい」
「……迷惑になっていなければ、よいのですが」
「嬉しいんだ。
言葉を交わせる日常が、こんなにも美しいなんて思わなかった」
そんなことをさらりと言うから、この人はずるい。
手が自然に伸び、私の頬に触れる。
指の腹が温かくて、次第に目元にかかりました。
「……やめてください」
「やめたら、泣く顔が見えなくなる」
「泣いて、なんか……」
「君の目は正直だ。本音を隠すとき、光が揺れる」
ほんの少し目を細めながら、指先が涙すら存在しない瞼をなぞる。
そして、囁きが降りてきた。
「君がここにいるだけで、僕の世界は完結する」
「お気持ちは恐縮ですが……」
「僕の世界は、君でできている。
政治も、王位も、未来も。全部君を中心に回る」
信じられないような愛の言葉を、まるで呼吸のように言う。
その声が、しなやかに耳に絡んで離れない。
「……それがもし、苦しみの始まりでも?」
「構わない。幸福の形は痛みを伴うものだろう?」
光が窓を割り、風が帳のように流れていく。
カーテンの動きに合わせて、彼の髪がわずかに揺れました。
その一瞬の美しさに、視線を逸らせなくなる。
彼が笑って言いました。
「君と過ごすこの時間は、薬でもあり毒でもある」
「……毒は困ります」
「君には効かない。僕だけが侵される」
まるで夢を語るような声。
その落ち着きがかえって恐ろしくて、逃げ場を忘れた。
◆
その日の昼。
王の執務に同行するのも、今では日課になっていました。
重臣たちの集う謁見の間では、いまだに多くの貴族たちが目を見張ります。
「エレノア殿、今日もお美しい……」
「王があの方を手放すはずがない」
耳の奥で、そんな声が微かに聞こえる。
私は目を伏せるしかありませんでした。
そして、その横で陛下は何事もなかったかのように微笑を保ち続ける――。
「君のために服を仕立てた。午後に仕上がるそうだ」
「……また、ですか。前に頂いた分がまだ全て手つかずで」
「見てるだけで満足できないんだ。
美しいものは、触れて確かめなければ意味がないだろう?」
「……私は装飾品ではありません」
「違う。宝石だよ。ねえ、見せつけたいんだ、この国に――君という宝を」
どこまでも甘く、どこまでも狂っている。
にもかかわらず、誰もその狂気を“暴走”とは呼ばない。
それが、彼が“王”であるゆえんなのでした。
◆
夜。
私室――“彼の檻”とも呼べる場所に戻ると、机の上に一輪の白薔薇が置かれていました。
香りがやさしく、控えめに甘い。
その下には、金字で書かれた短い手紙。
> 「息をしているか? 僕は君の笑い声で一日を終える」
胸の奥が痛い。
逃げるどころか、もうどこにも行けない。
薔薇の香りは、まるで王の指先のようでした。
花びらの縁に触れながら、低く呟きます。
「……陛下、私は……」
そのまま目を閉じると、耳の奥で彼の声が聞こえる気がしました。
“君が不安になる要素は、すべて消す”――あの夜の声。
言葉が鎖代わり。
少しだけ微笑みが浮かんだことに、自分で気づいて震えました。
◆
遅れて扉が軽く叩かれます。
入ってきたのはレオナルト陛下本人でした。
薔薇の香りに混ざる、彼の匂い。
「また考えごと?」
「いいえ。ただ、この花が……」
「僕の代わりになるかと思って置いた。駄目だった?」
「いえ、とても綺麗です。でも……あまりにも静かで」
「君の心を騒がすものは、僕だけでいい」
優しいのに、逃げ場のない声。
彼は歩み寄り、テーブルの前で静かに膝を落としました。
そして、私の手を取って目を閉じます。
「エレノア。
君が息をするこの空気を、僕も呼吸してる。――それだけで救われる」
「……もう、救われすぎて息が詰まりそうです」
「それなら、僕が息を分けてあげようか?」
「おやめください、そのような冗談……!」
苦笑して手を引こうとすると、指が絡め取られた。
彼の指が、逃げる私の指先を捕まえて、まるで宝石を磨くように撫でます。
ぬるい光の中、その仕草がやけに優しくて――怖いほど美しかった。
「君は知らないだろう。
僕が一日に何度、君の名を呼ぶのを我慢してるか」
「……そんなに多くないと信じたいです」
「百は数えた。午前中だけで」
「……え」
「ね、酷い王だろう?」
そう言って笑う。その笑みが穏やかで、降伏しかけてしまう。
「もういいんです、そんなにも気にしないでください。
私は陛下の……」
「“僕の”だろう?」
「……っ……はい」
言葉が途中で、喉の奥に消えていった。
彼はわざとその小さな声を楽しむように、髪を掌の中に滑らせる。
「エレノア。
もう一度、はっきり」
「わ、私は……あなたのものです」
「うん。ようやく、言ったね」
甘い笑みとともに、額に軽く口づけが落ちた。
その瞬間、胸の奥の何かがほどけて、涙が零れた。
「……泣いてる?」
「いえ、違います。これは……」
「嬉しい涙なら、拭かない。君の涙の理由になるなら、それも僕の栄誉だ」
そっと額を離し、彼は微笑んだ。
その目は限りなく穏やかで――けれど、その奥に鋭い光が潜んでいた。
「君は今や、この国に“不可欠な存在”だ。君を笑う者は誰もいない。
だから安心して、僕の檻で幸せになって」
幸せ――その言葉が、どうしようもなく甘く響く。
檻であることを忘れてしまうほどに。
最初に思ったのは、「ここから、もう外へは戻れない」という実感でした。
広すぎる部屋。高い天井。
夕陽がガラスに反射し、黄金の光が床を渡る。
その光のすべてが、まるで“私の存在に対する証”のようで、観念的な息を漏らしてしまいました。
「気に入った?」
穏やかで低い声。
背後からそっと肩にかけられた上着が、羽のように軽くて、けれど重たかった。
「……広すぎます。部屋の半分も使いきれません」
「使いきる必要なんてない。僕がここに来るための空間だから」
「……そんな贅沢な使い方を」
「贅沢じゃない。“君がここにいる”という、それだけで意味がある」
優しい声ほど、危険だともう知っているのに。
心臓が、胸の中できれいに跳ねました。
「君を不安にさせる要素は、すべて消した。
中傷も、噂も、隔たりも。もう誰も君を笑わない」
――本当に、その通りになっていました。
社交界で噂を流していた貴婦人たちは、いつの間にか王都から姿を消したのです。
誰もエレノアという女官の話題を口にしなくなった。
まるで存在自体が“聖域”になったかのように、誰も触れない。
(……恐ろしいほど、静かです)
「だから、もっと笑ってほしい。
君が柔らかく笑うたび、僕は救われてる」
「そういうお世辞は——」
「お世辞じゃない」
その声に遮られた瞬間、指が視界を滑った。
気づけば彼が、私の髪をとてもゆっくりと撫で上げていた。
丁寧すぎて、呼吸を奪うほどの仕草で。
「……髪、伸びたね」
「おかげさまで。最近、切りに行く暇がなくて」
「そう。なら、僕が切ってあげようか?」
「王が……ですか?」
冗談かと思って振り返ると、本気の眼差しがあった。
あの美しい蒼の中に映る私の姿に、全身が緊張する。
「王は、そんなことをなさるものではありません」
「君にはする。――王ではなく“僕”としてはね」
「……それなら、断ります。怖いですから」
苦笑して答えると、彼は素直に笑った。
その笑顔があまりにも柔らかくて、息が止まる。
「冗談が通じるようになってきたね。少し嬉しい」
「……迷惑になっていなければ、よいのですが」
「嬉しいんだ。
言葉を交わせる日常が、こんなにも美しいなんて思わなかった」
そんなことをさらりと言うから、この人はずるい。
手が自然に伸び、私の頬に触れる。
指の腹が温かくて、次第に目元にかかりました。
「……やめてください」
「やめたら、泣く顔が見えなくなる」
「泣いて、なんか……」
「君の目は正直だ。本音を隠すとき、光が揺れる」
ほんの少し目を細めながら、指先が涙すら存在しない瞼をなぞる。
そして、囁きが降りてきた。
「君がここにいるだけで、僕の世界は完結する」
「お気持ちは恐縮ですが……」
「僕の世界は、君でできている。
政治も、王位も、未来も。全部君を中心に回る」
信じられないような愛の言葉を、まるで呼吸のように言う。
その声が、しなやかに耳に絡んで離れない。
「……それがもし、苦しみの始まりでも?」
「構わない。幸福の形は痛みを伴うものだろう?」
光が窓を割り、風が帳のように流れていく。
カーテンの動きに合わせて、彼の髪がわずかに揺れました。
その一瞬の美しさに、視線を逸らせなくなる。
彼が笑って言いました。
「君と過ごすこの時間は、薬でもあり毒でもある」
「……毒は困ります」
「君には効かない。僕だけが侵される」
まるで夢を語るような声。
その落ち着きがかえって恐ろしくて、逃げ場を忘れた。
◆
その日の昼。
王の執務に同行するのも、今では日課になっていました。
重臣たちの集う謁見の間では、いまだに多くの貴族たちが目を見張ります。
「エレノア殿、今日もお美しい……」
「王があの方を手放すはずがない」
耳の奥で、そんな声が微かに聞こえる。
私は目を伏せるしかありませんでした。
そして、その横で陛下は何事もなかったかのように微笑を保ち続ける――。
「君のために服を仕立てた。午後に仕上がるそうだ」
「……また、ですか。前に頂いた分がまだ全て手つかずで」
「見てるだけで満足できないんだ。
美しいものは、触れて確かめなければ意味がないだろう?」
「……私は装飾品ではありません」
「違う。宝石だよ。ねえ、見せつけたいんだ、この国に――君という宝を」
どこまでも甘く、どこまでも狂っている。
にもかかわらず、誰もその狂気を“暴走”とは呼ばない。
それが、彼が“王”であるゆえんなのでした。
◆
夜。
私室――“彼の檻”とも呼べる場所に戻ると、机の上に一輪の白薔薇が置かれていました。
香りがやさしく、控えめに甘い。
その下には、金字で書かれた短い手紙。
> 「息をしているか? 僕は君の笑い声で一日を終える」
胸の奥が痛い。
逃げるどころか、もうどこにも行けない。
薔薇の香りは、まるで王の指先のようでした。
花びらの縁に触れながら、低く呟きます。
「……陛下、私は……」
そのまま目を閉じると、耳の奥で彼の声が聞こえる気がしました。
“君が不安になる要素は、すべて消す”――あの夜の声。
言葉が鎖代わり。
少しだけ微笑みが浮かんだことに、自分で気づいて震えました。
◆
遅れて扉が軽く叩かれます。
入ってきたのはレオナルト陛下本人でした。
薔薇の香りに混ざる、彼の匂い。
「また考えごと?」
「いいえ。ただ、この花が……」
「僕の代わりになるかと思って置いた。駄目だった?」
「いえ、とても綺麗です。でも……あまりにも静かで」
「君の心を騒がすものは、僕だけでいい」
優しいのに、逃げ場のない声。
彼は歩み寄り、テーブルの前で静かに膝を落としました。
そして、私の手を取って目を閉じます。
「エレノア。
君が息をするこの空気を、僕も呼吸してる。――それだけで救われる」
「……もう、救われすぎて息が詰まりそうです」
「それなら、僕が息を分けてあげようか?」
「おやめください、そのような冗談……!」
苦笑して手を引こうとすると、指が絡め取られた。
彼の指が、逃げる私の指先を捕まえて、まるで宝石を磨くように撫でます。
ぬるい光の中、その仕草がやけに優しくて――怖いほど美しかった。
「君は知らないだろう。
僕が一日に何度、君の名を呼ぶのを我慢してるか」
「……そんなに多くないと信じたいです」
「百は数えた。午前中だけで」
「……え」
「ね、酷い王だろう?」
そう言って笑う。その笑みが穏やかで、降伏しかけてしまう。
「もういいんです、そんなにも気にしないでください。
私は陛下の……」
「“僕の”だろう?」
「……っ……はい」
言葉が途中で、喉の奥に消えていった。
彼はわざとその小さな声を楽しむように、髪を掌の中に滑らせる。
「エレノア。
もう一度、はっきり」
「わ、私は……あなたのものです」
「うん。ようやく、言ったね」
甘い笑みとともに、額に軽く口づけが落ちた。
その瞬間、胸の奥の何かがほどけて、涙が零れた。
「……泣いてる?」
「いえ、違います。これは……」
「嬉しい涙なら、拭かない。君の涙の理由になるなら、それも僕の栄誉だ」
そっと額を離し、彼は微笑んだ。
その目は限りなく穏やかで――けれど、その奥に鋭い光が潜んでいた。
「君は今や、この国に“不可欠な存在”だ。君を笑う者は誰もいない。
だから安心して、僕の檻で幸せになって」
幸せ――その言葉が、どうしようもなく甘く響く。
檻であることを忘れてしまうほどに。
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