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第19章:祝福の鐘が鳴る朝に
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「……エルフィーナ様、お支度が整いました」
そう告げられて、わたしは鏡の前でそっと目を閉じました。
大きく深呼吸して、そっと目を開けます。そこには、白銀のドレスに身を包んだ、見慣れない自分の姿が映っていました。
「……本当に、わたし……?」
ぽつりとつぶやいた声は、まるで別人のように震えていて。
鏡の中のわたしは、これまでのわたしとは違いました。ひとりで生きようとしていたあの頃とも、周囲の期待に怯えていた少女の頃とも違う。
肩をすくめると、ドレスの刺繍がほのかに光を受けてきらめきました。銀糸で縫われた星々が、夜空のように広がって、どこか遠い場所へ導いてくれそうな気さえして。
「エルフィーナ様、お時間でございます」
呼びかけに、わたしはうなずきました。
「はい……行きましょう。わたしの、大切な場所へ」
◇ ◇ ◇
領内の聖堂――その日は朝から空が澄み渡っていて、祝福の鐘がまるで空を舞うように響いていました。
堂内には、かつて一緒に剣を振るった騎士の仲間たち、神殿でお世話になった巫女の方々、そして、昔のわたしを蔑んだ貴族たちまで。
不思議と、胸はざわめきませんでした。
だって、わたしはもう、誰かと比べられるだけの存在ではない。今日という日は、ただ彼と、ゼグレイドと共にあるための時間なのですから。
ゆっくりと歩みを進めると、視線の先に、彼の姿が見えました。
式服に身を包んだゼグレイドは、いつものように真っ直ぐで、でもどこかそわそわと落ち着かない様子で。
ふふっ……と、思わず口元が緩みました。そういうところが、不器用で、愛しい。
そして、わたしが彼の前に立ったその瞬間――彼は、膝をついて言ったのです。
「この命をかけて、そなたを守る」
静まり返った聖堂に、その誓いの声が響いて。
わたしは驚いて、でもすぐに笑ってしまいました。
「……そんな、大げさです。わたし、そんなにか弱くありませんよ」
「わかっている。それでも、そう誓いたいのだ」
彼の真剣な眼差しに、胸がきゅうっと苦しくなるほどで――思わず、涙がこぼれそうになりました。
聖鐘が、再び高らかに鳴り響きます。
わたしたちは、仮面を脱ぎ捨てました。“父と娘”という関係を装っていた日々を、もう後ろに置いて。
ただの、夫と妻として。
この先、何があっても、ふたりで歩いていくと誓って。
その証として――わたしたちは、唇を重ねました。
聖堂に響く鐘の音は、どこまでも優しく、どこまでも力強くて。
ああ、こんなにも祝福されているのだと、胸がいっぱいになりました。
◇ ◇ ◇
祝宴では、懐かしい顔が次々に集まりました。
「おめでとうございます」
嬉しそうに声をかけてくださる、レオニス・クレイバーンニス様。
「義父と娘の壁を越えられたのですね」
「ええ、お互いの気持ちに正直になれました」
わたしがそう返すと、レオニスさんは笑顔でグラスを掲げてくれました。
「お幸せに。乾杯!」
「乾杯!」
会場は拍手と笑い声で包まれていて、ああ、本当にこの日を迎えられてよかった――そう思わずにいられませんでした。
◇ ◇ ◇
式の終わり、ふたりで手をつないで庭を歩いていると、ゼグレイドがぽつりと。
「……少し、夢のようだな」
「え?」
「お前が、隣にいる。こうして手を取って歩ける。それだけで……ずっと、願っていたことが叶った気がする」
その言葉に、胸の奥がふわりと温かくなりました。
「ゼグレイド様」
「ん?」
「わたし、幸せです。……とても」
「なら、良かった」
月が顔をのぞかせた夜空の下、ふたりきりの静かな時間。
こんな穏やかな日々が、ずっと続けばいい――そう願いながら、わたしは彼の腕にそっともたれました。
そう告げられて、わたしは鏡の前でそっと目を閉じました。
大きく深呼吸して、そっと目を開けます。そこには、白銀のドレスに身を包んだ、見慣れない自分の姿が映っていました。
「……本当に、わたし……?」
ぽつりとつぶやいた声は、まるで別人のように震えていて。
鏡の中のわたしは、これまでのわたしとは違いました。ひとりで生きようとしていたあの頃とも、周囲の期待に怯えていた少女の頃とも違う。
肩をすくめると、ドレスの刺繍がほのかに光を受けてきらめきました。銀糸で縫われた星々が、夜空のように広がって、どこか遠い場所へ導いてくれそうな気さえして。
「エルフィーナ様、お時間でございます」
呼びかけに、わたしはうなずきました。
「はい……行きましょう。わたしの、大切な場所へ」
◇ ◇ ◇
領内の聖堂――その日は朝から空が澄み渡っていて、祝福の鐘がまるで空を舞うように響いていました。
堂内には、かつて一緒に剣を振るった騎士の仲間たち、神殿でお世話になった巫女の方々、そして、昔のわたしを蔑んだ貴族たちまで。
不思議と、胸はざわめきませんでした。
だって、わたしはもう、誰かと比べられるだけの存在ではない。今日という日は、ただ彼と、ゼグレイドと共にあるための時間なのですから。
ゆっくりと歩みを進めると、視線の先に、彼の姿が見えました。
式服に身を包んだゼグレイドは、いつものように真っ直ぐで、でもどこかそわそわと落ち着かない様子で。
ふふっ……と、思わず口元が緩みました。そういうところが、不器用で、愛しい。
そして、わたしが彼の前に立ったその瞬間――彼は、膝をついて言ったのです。
「この命をかけて、そなたを守る」
静まり返った聖堂に、その誓いの声が響いて。
わたしは驚いて、でもすぐに笑ってしまいました。
「……そんな、大げさです。わたし、そんなにか弱くありませんよ」
「わかっている。それでも、そう誓いたいのだ」
彼の真剣な眼差しに、胸がきゅうっと苦しくなるほどで――思わず、涙がこぼれそうになりました。
聖鐘が、再び高らかに鳴り響きます。
わたしたちは、仮面を脱ぎ捨てました。“父と娘”という関係を装っていた日々を、もう後ろに置いて。
ただの、夫と妻として。
この先、何があっても、ふたりで歩いていくと誓って。
その証として――わたしたちは、唇を重ねました。
聖堂に響く鐘の音は、どこまでも優しく、どこまでも力強くて。
ああ、こんなにも祝福されているのだと、胸がいっぱいになりました。
◇ ◇ ◇
祝宴では、懐かしい顔が次々に集まりました。
「おめでとうございます」
嬉しそうに声をかけてくださる、レオニス・クレイバーンニス様。
「義父と娘の壁を越えられたのですね」
「ええ、お互いの気持ちに正直になれました」
わたしがそう返すと、レオニスさんは笑顔でグラスを掲げてくれました。
「お幸せに。乾杯!」
「乾杯!」
会場は拍手と笑い声で包まれていて、ああ、本当にこの日を迎えられてよかった――そう思わずにいられませんでした。
◇ ◇ ◇
式の終わり、ふたりで手をつないで庭を歩いていると、ゼグレイドがぽつりと。
「……少し、夢のようだな」
「え?」
「お前が、隣にいる。こうして手を取って歩ける。それだけで……ずっと、願っていたことが叶った気がする」
その言葉に、胸の奥がふわりと温かくなりました。
「ゼグレイド様」
「ん?」
「わたし、幸せです。……とても」
「なら、良かった」
月が顔をのぞかせた夜空の下、ふたりきりの静かな時間。
こんな穏やかな日々が、ずっと続けばいい――そう願いながら、わたしは彼の腕にそっともたれました。
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