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14 除霊

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 ジャークスは遠巻きでふたりの作業を見守りながら、使用人たちと海で魚取りや野菜作りに精を出した。

 そして夕方には必ず頂の神殿へ登り、死者たちと会話をして帰っていくのだった。

 ロンリエッタは、神殿に行くのを避けていた。クリスチーヌの声を聞きたくなかったからだ。三週間後、やっと儀式に使う材料が整った。

 朝早く、ロンリエッタは意を決して城を出て、神殿を目指した。

 クリスチーヌの霊廟の前に膝をつき、ロンリエッタは本のページを広げながら、材料を調合し始めた。

「ロンリエッタさん、ジャークスとは上手くいってますか」

 耳元で、クリスチーヌの声が聞こえた。

「順調よ」

 ロンリエッタは、ぶっきら棒にこたえた。

 クリスチーヌは陽気な口調で話を続けた。

「よかったわ。二人が幸せでうれしい。
 ジャークスはね。十年前、私が病気で亡くなってから、ずっと神殿から出なかったのよ。 次第に食事も取らなくなって、痩せ細っていくのを見ていていたの。
これだけ私を想ってくれていたのはうれしいけど、彼にはもっと強くなって、新しい奥さんを見つけて幸せになってほしかった。
こんな狭い村から船で世界に出て、新たな人生と愛する人を見つけてほしいって、言ったのよ。
今、こうして素適な奥さんが来てくれて、わたし、心からうれしいわ」

 ロンリエッタの手が、ハタと止まった。手にした本をパタンと閉じて、肖像画を見あげた。

「 この肖像画は誰が書いたんですか」

「ジャークスよ。一番身近で愛した人が遺影を描くのが習わしなのよ」

 ロンリエッタは笑顔で立ちあがった。

「 わたし、この土地のこと、分からないことが多いんです。クリスチーヌさんに 色々と教えて欲しいのですが、いいですか」

「もちろん。また、会いに来てくださいね」

 クリスチーヌはうれしそうな明るい声で、神殿を後にするロンリエッタを見送った。

 ロンリエッタの胸は晴れやかだった。

 除霊はやめることにした。彼の過去を否定するのは間違っていたと分かったからだ。 彼の過去も一緒に愛して、幸せに生きていこう 。

 ロンリエッタは、ジャークスの待つ城に向かって、元気よく坂を下っていった。
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