【完結】 父殺しの宿敵宰相を暗殺しようと婚約したから、チャンスありありなのにその都度、動揺させられて困ります。

朝日みらい

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第九章 偽りと真実の境界線

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 城へ戻ったリディアは、重たい胸を抱えながら、長い間しまい込んでいた形見の古時計をそっと鞄から取り出した。父、オーフェ・ウェルス。かつて反逆罪に問われたウェルス伯爵。

それには、父の筆跡で「愛するリディアへ」と記されている。

(……恨みを晴らすのよ、リディア。しっかりして!)

 彼女の指が震えた。

 そんなリディアの部屋に、控えめなノックの音が響く。

「リディア、いいかい?……少し話があるんだ」

 ヴァルトの声だった。普段の冷静さを少し抑えた、どこか緊張が混じった声に、リディアは頷いた。

「見せたいものがあるんだ」

 二人はそっと城の地下書庫へ向かった。そこは、公爵家の秘密が眠る場所。

 重い鉄の扉を開けると、埃をかぶった古い書物や記録が整然と並んでいる。

「見てほしいのは、これだ」

 ヴァルトが手にしたのは、当時の裁判記録と父の手記だった。

「リディア、僕の眠れない秘密を教えてやる」

 ヴァルトの目には、普段見せない鋭さと、どこか哀しみが宿っていた。

「ウェルス伯爵。かつて反逆罪に問われたんだ。陰謀に巻き込まれ、無実の罪で死んだ。真犯人は別にいる」

 リディアは息を呑み、机に置かれた記録をじっと見つめる。

「あなたがそんなことを、どうして私に?」

 ヴァルトは少し照れくさそうに苦笑した。

「だって、君に隠している場合じゃないだろう? 私たち、これからも一緒に歩いていくんだから。秘密は重荷になるだけだからな」

 リディアは手紙にそっと触れた。

「彼の最後の言葉が、この中にあるのね……」

 ヴァルトが優しく手を握り、囁いた。

「僕がいる。どんな真実でも、一緒に受け止めてくれ」

 リディアは笑顔を返す。

「じゃあ、覚悟を決めて……読んでみるわ」

 二人の距離が一層縮まり、城の闇の中にも、ほんの少し光が差し込んだ気がした。
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