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第十四章 消せない手の温もり
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冷たい雨がしとしとと降り続く夜。
リディアは傘もささずに、ふらりと王城の中庭へ出ていた。
(こんな時に限って、雨女みたいだわ……)
滴る雨が髪や肩を濡らして冷たく感じるが、それでも彼女はただ考えを巡らせたかった。
胸の中の重い覚悟は、まだ言葉にはできずにいた。
「リディア……」
背後から優しい声がした。振り返ると、ヴァルトがいた。
濡れた髪の雫が額にちらりと落ちている。だが、彼の瞳は静かで、どこまでも真っ直ぐに彼女を見つめていた。
「こんな夜に、傘もささずに……風邪引くぞ?」
「え? ……はい、そうですね」
リディアは小さく呟いた。雨に濡れたせいで、少し熱っぽくもあった。
「風邪をひいたら、誰が看病する?」
「……それは、看病してほしいと言ってるんですか?」
ヴァルトの瞳が少しだけ柔らかくなった。彼の口元にわずかに微笑みが浮かぶ。
「君が泣きそうな顔をしていたから、ほっとけなかった」
「泣きそうって……そんなにバレバレだったんですか?」
「うん。涙をこらえているのがわかった」
彼の言葉にリディアは目を伏せた。
「なぜ……私に優しくするのですか。私は嘘つきなのに」
「嘘も真実も、今は関係ない。君がここにいてほしいから」
その言葉に、リディアの胸はぎゅっと締めつけられた。
ヴァルトはそっと上着を脱ぎ、彼女の肩にかけた。
「ほら、これで少しは暖かいだろう」
「……ありがとうございます。でも、私、これ以上、あなたのそばにいていいのか」
震える声で問いかけるリディアの手に、ヴァルトの大きな手がそっと重なる。
「その温もりを、忘れたくないと思ったんだ」
リディアは思わず、その手を握り返してしまった。
(こんなにも優しい人を、私はどうして傷つけようとしたんだろう)
涙が一粒、頬を伝い落ちる。
「もう、嘘をつくのは辛い。だけど、今はまだ言えないの……」
小さく呟くリディアに、ヴァルトは静かに応えた。
「待とう。君が話す準備ができるまで、ずっとここにいる」
「……ありがとうございます」
冷たい雨の中、二人の間に言葉にならない約束が結ばれた。
消えないのは、真実よりも先に、彼の手の温もりだった。
リディアは傘もささずに、ふらりと王城の中庭へ出ていた。
(こんな時に限って、雨女みたいだわ……)
滴る雨が髪や肩を濡らして冷たく感じるが、それでも彼女はただ考えを巡らせたかった。
胸の中の重い覚悟は、まだ言葉にはできずにいた。
「リディア……」
背後から優しい声がした。振り返ると、ヴァルトがいた。
濡れた髪の雫が額にちらりと落ちている。だが、彼の瞳は静かで、どこまでも真っ直ぐに彼女を見つめていた。
「こんな夜に、傘もささずに……風邪引くぞ?」
「え? ……はい、そうですね」
リディアは小さく呟いた。雨に濡れたせいで、少し熱っぽくもあった。
「風邪をひいたら、誰が看病する?」
「……それは、看病してほしいと言ってるんですか?」
ヴァルトの瞳が少しだけ柔らかくなった。彼の口元にわずかに微笑みが浮かぶ。
「君が泣きそうな顔をしていたから、ほっとけなかった」
「泣きそうって……そんなにバレバレだったんですか?」
「うん。涙をこらえているのがわかった」
彼の言葉にリディアは目を伏せた。
「なぜ……私に優しくするのですか。私は嘘つきなのに」
「嘘も真実も、今は関係ない。君がここにいてほしいから」
その言葉に、リディアの胸はぎゅっと締めつけられた。
ヴァルトはそっと上着を脱ぎ、彼女の肩にかけた。
「ほら、これで少しは暖かいだろう」
「……ありがとうございます。でも、私、これ以上、あなたのそばにいていいのか」
震える声で問いかけるリディアの手に、ヴァルトの大きな手がそっと重なる。
「その温もりを、忘れたくないと思ったんだ」
リディアは思わず、その手を握り返してしまった。
(こんなにも優しい人を、私はどうして傷つけようとしたんだろう)
涙が一粒、頬を伝い落ちる。
「もう、嘘をつくのは辛い。だけど、今はまだ言えないの……」
小さく呟くリディアに、ヴァルトは静かに応えた。
「待とう。君が話す準備ができるまで、ずっとここにいる」
「……ありがとうございます」
冷たい雨の中、二人の間に言葉にならない約束が結ばれた。
消えないのは、真実よりも先に、彼の手の温もりだった。
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