とまどう気球

朝日みらい

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 電線がまだ通っていない頃のお話。

 ある国に、大きな川と水車、そして野原ばかりがひろがる、のどかな小さな田園の村「テルーペ」があった。

 その村に住む、九さいになるふたりの女の子たちは、普段どおり、学校の帰りに川岸で遊んでいた。

 けれど、近ごろ、にわかに騒がしい。

 そろそろ気球がもどってくるらしい。

 そんなうわさで、この小さな村に、大きな町から新聞の記者がぞろぞろとやってきていた。
 見慣れない大人たちが、あたりをうろうろしている。

「あっ、ラーラ! ほらほら、お父さんの気球だよ」

 ラーラが川で水切りをしていると、背中ごしにセルマの声がひびいた。

 ラーラは、びくっと肩をふるわせた。

 上ずった小石が水面ではじけて、ポチッと消えた。

 ラーラは雲の切れ目からのぞく、大きな黄色の飛行船を見上げた。それは、ゆっくりと川辺の広場へとおりていく。 

「ラーラ、早く行こうよ」

 セルマは、土手にころがった、学校の教科書が入った布ぶくろをつかんだ。

「うん」

 ラーラはいつものように、小石をスカートのボケットにすべりこませた。

 ラーラはかけっこがすごく得意だから、あっという間にセルマを追いこした。十日後には、村の学校の体育大会があって、ラーラはかけっこでいつもアンカーにえらばれている。

 広場には、たくさんの人だかりで、まだゴンドラの中は見えない。セルマはラーラの手をひっぱりながら、その人なみをかき分けてすすんだ。

 すると目の前に、みんなに笑顔であく手しているお父さんがいた。

 背が高く、やせているけれど、きんにくで腕はぱんぱんだ。すっかり日やけした浅黒い顔に、ひょうきんそうな青いひとみがのぞいている。
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