【完結】転生令嬢は、婚約破棄されて毒草令嬢と追放されたのに、冷徹辺境伯に寵愛される。

朝日みらい

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第29章 二つの命、ひとつの未来

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春の終わり、薬草園に初夏の風が吹き抜けるころ。ルアナは珍しく朝から元気がなかった。

「んん……」

顔色が優れず、スープを一口飲んだだけで手を止めた彼女に、グレイシアは眉をひそめた。

「体調が悪いのか? まさかまた“前夜の読みすぎ”か? 最近、あの“魔法薬草大全”にハマっていたろう?」

「ち、違いますよ……なんか、最近ちょっと匂いに敏感で……それに、朝だけ妙に気持ち悪くて……」

「……それはまさか、“悪阻”というやつでは?」

「……うそ、まさか……」

医師を呼び、数十分後。

「おめでとうございます。奥様は、ご懐妊されております」

静かな言葉が、部屋に柔らかく落ちた。

「……」

「……えっ?」

ルアナは、呆然としたままグレイシアの顔を見つめた。

彼もまた、何か大事な魔獣討伐の報せでも聞いたかのように固まっていた。

「……ルアナ」

「は、はい?」

「……本当に……?」

「はい……。お医者様が……」

「……」

彼は、ふらりと立ち上がると、何かを確かめるように庭に出た。

そして、空を仰いで──叫んだ。

「やったあああああああああああ!!!!!」

屋敷中に響き渡る声に、召使いたちがポットを取り落とし、庭師が剪定ばさみを持ったまま固まった。

「ルアナが……ルアナが……! 私の子を……!!」

「ちょっ、ちょっと恥ずかしいですから落ち着いてください!」

彼女が真っ赤な顔で追いかけると、グレイシアは戻ってきて、真面目な顔に戻った。

「……ルアナ。君がこの世界にいてくれて……生き直してくれて……本当に、良かった」

彼はゆっくりと彼女の手を取り、そっと額を当てた。

「君の命も、新しい命も……すべて、私の宝物だ。これから先、どんなことがあっても、絶対に守る」

「……っ、グレイシア……」

前世、誰にも求められず、誰にも必要とされていなかった咲──今のルアナ。

そんな彼女の人生が、こんなにも優しく、温かい未来に繋がっていたなんて。

「……私……」

彼の胸に顔をうずめながら、ルアナはぽろりと涙をこぼした。

「……私、本当に……幸せです……!」

「私もだ。……ただ、今はまだ重い壺を持つのは禁止だ」

「えっ」

「あと、階段は三段ずつしか降りてはならん。寝るときは右向き、冷たいものは禁止、怒らせることも禁止」

「最後のはあなた次第でしょう!?」

「む……今後、私は“妊婦様のご機嫌を守る係”を新設するつもりだ」

「いらないです!」

笑いと涙が混ざる朝。

そこには、もう“前世の終わり”ではなく──“今世の始まり”があった。

二つの命が刻む新しい時間。それは、二人の未来そのものだった。
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