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 アナリスは黙っていたが、構わず王妃様は話し出した。
 
「息子から勧められて読んだら、もうとりこになってしまって……王様も読んでいるんですよ」

 王妃殿下はそう言って、目を細めた。

「そ、それは光栄ですっ」

 アナリスは、小さな声で答えた。

 顔が熱くなり、真っ赤になっているのがわかる。

「メイリーン嬢? なぜ、あなたがお礼を言うの?」

 王妃様が、怪訝そうに眉をひそめている。

「あの……わたしも一愛読者として、王妃様と同じ気持ちでいられるのが光栄という意味ですわ!」

 アナリスは思わず声を上げてしまった。

 つい、こんがらかって、自分が作者だと分かってしまいそうだった。まったく、厄介なものだ。

 ラファエルがすかさず、助け船を出す。

「ああ、もちろん、アイリーンも、『メイリーン嬢の花咲く夕べ』の愛読者で、その読書会でわたしと意気投合したのですよ。修道院から来たばかりで、まだ王妃教育には疎いところがある。だが、彼女はとてもまじめだから、すぐに宮廷の生活にも慣れてくれるはずだ」

「はっ……はいっ! がんばります!」

 アナリスは思わず、威勢よく返事をしてしまった。

 王妃様は、思わずクスッと笑って、口元に手をやった。

「アイリーン。それほど、急いで頑張らなくてもいいですわよ。あなたは第三王太子妃なのですからね。三番目の王太子妃ですから、お妃教育も焦らず、ゆっくりと学んでいけばいいのです」

 王妃殿下はそう言うと、優しく微笑んだ。

「あなたは美人で教養もあって、おまけにチャーミングなのね」

(よかったぁ……)
 
 アナリスはほっとした。

「ところで、婚礼はいつ頃する予定なのだ?」

 国王陛下が尋ねてきた。

 ラファエルが、こたえた。

「はい、一年の婚約期間を設けたいと考えています。メイリーンには、その間にもっと私や、宮廷のことも好きになってもらいたいですしね」

(ああ……なるほど……)

 アナリスは、思わず納得してしまった。

 確かにこの国に来てから日も浅いし、まだ何も知らないに等しい状態である。

「ふむ……。いいだろう。だが、一年後には、正式に王太子妃とすることを約束してもらいたい」

(えぇっ!)

 アナリスは、心の中で叫んでしまった。

 さすがにそれは予想していなかった…。

「はい。お約束します」

 ラファエルは笑顔で、そう答えた。

 アナリスは思わず緊張してしまうが、それと同時にワクワクする気持ちも湧いてきた。

 一体これからどうなってしまうのだろう……?
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