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 アナリスは、思わず感嘆のため息をつく。

 作者であるシシリー・ローズハート公爵令嬢は天才に違いない。

『騎士と姫君の恋物語』を書いてから、もう20年間文壇には姿を見せない伝説の作家である。

 彼女はどんな気持ちでこの物語を綴ったのだろう?

 そんなことを考えながら読んでいると、騎士がなぜかラファエルの面影に重なってしまう。

 ドキドキしてときめいてしまう。


 夢の時間はあっという間に過ぎていった──。


☆☆☆


「メイリーン嬢……?」

 しばらくすると、司書長が声をかけてきた。

 アナリスは顔を上げると、思わず笑みを浮かべた。

 アナリスは、すっかりこの本の虜になっていた。

「この物語はとても素敵ですね!」

 アナリスがそう言うと、司書長は嬉しそうな表情を浮かべた。

「ええ、私もそう思います」

 彼は静かに頷いた。

「ところで、殿下から伝言を預かっております。少しお時間よろしいでしょうか?」

 司書長はそう言って、アナリスに目配せをする。

(た、大変……。こんな時間だわ)

 アナリスはすっかり外が陽が落ちて薄暗くなっていることに気づいて立ち上がった。

 そして、司書長と共に図書室の奥へと進んでいく。

──そこは大きな書斎のような空間だった。

 本棚には本がぎっしりと詰まっており、床にも本棚に入りきらなかった本が山積みになっている。

「殿下、メイリーン嬢がいらっしゃいました」

 司書長はそう声をかけてから、書斎の扉を開けた。

 すると、部屋の中ではラファエルが執務机に向かって、書類に目を通しているところだった。

「ありがとう、ギルフォード」

 ラファエルはそう言いながら顔を上げる。

 その瞳はとても優しげで、美しい微笑みをたたえていた。 

──まるで絵画から抜け出てきたような美しさだ。

「では、私はこれで失礼いたします」

 司書長は恭しくお辞儀をすると、そのまま部屋を後にしてしまった。

(ええっ?!)

 アナリスは、心の中で叫んだ。

 二人きりになった途端、緊張で心臓が激しく高鳴り始めた。

「さあ、こちらに座って」

 ラファエルはそう言って微笑むと、向かい側の席を勧めてくれた。

 アナリスは緊張した面持ちで腰を下ろすと、姿勢を正した。

(ど……どうしよう……?)
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