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 ラファエルとアナリスを乗せた馬車が王宮を出発すると、市街地を通り抜けて郊外へと向かっていった。

 窓から見える風景は次第に寂れたものに変わっていき、やがて大きな森の入り口に到着した。

「ここは……」

 アナリスは思わず呟いた。

(……なんだか、妙に懐かしいような……)

 ラファエルはアナリスの手を握りながら答える。

 アナリスは不思議に思った。

──どうしてこの場所が、メイリーン・アダムスの過去めぐりと関係しているの? 

 メイリーンは小説の中の主人公にすぎない。

 本当のアナリスは、エスカルゴ王国のキャンベル伯爵家のひとり娘だ。

 幼い頃に事故により両親を亡くし、高齢の祖父母に引き取られて暮らしてきた。本当の両親の記憶は、ほとんど無い。

 それなのに、妙に懐かしいなんて……。

 そんなことを考えているうちに、馬車はゆっくりと速度を落として停車した。

「さあ、着いたよ」

 ラファエルはそう言うと、先に馬車から降りてアナリスをエスコートしてくれる。

 その様子を見ていて、またドキドキしてしまった……。

「ここですか?」

 アナリスは、周りを見回しながら言った。

 目の前には大きな森が広がっている。

──人の気配は全くない。

「そうだよ」

 ラファエルは笑顔で答えた。

「それじゃあ、行こうか」

 彼はそう言うと、ゆっくりと歩き出す。

 アナリスは、慌ててその後を追った。

(一体、どこへ行くつもりなのかしら?)

 アナリスは不安を覚えつつも、彼についていった。

 しばらく歩くと、やがて小さな教会が見えてきた。

──それは古い木造の建物で、今にも崩れ落ちそうな雰囲気を漂わせている。

「ここは……」

 アナリスは呟くように言った。

 やはりどこか懐かしい気がする。

「ここできみの過去を巡ろう」

 ラファエルはそう言うと、教会の扉を開けた。

 中は少し薄暗いが、奥に祭壇があるのが見えた。

──そこに人影があった。

(あれは……?)

 アナリスは思わず目を凝らす。

──そこには、一人の修道女が立っていた。

 黒いベールを被っているので顔は見えないが、その姿はどことなく自分に似ているような気がした。
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