【完結】作家の伯爵令嬢は婚約破棄をされたので、愛読者の第三王太子と偽装結婚して執筆活動に邁進します!

朝日みらい

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「よく来ましたね」

 修道女は穏やかな笑顔で出迎えてくれた。

「べリーチェ・アダムスです。ペンネームは、シシリー・ローズハートよ」

 アナリスは思わず、目を丸くした。

「シシリー・ローズハート様…!?」

 あの、『騎士と姫君の恋物語』の著者であるシシリー・ローズハート公爵令嬢が目の前にいるなんて…。

 信じられない!

「あなたも作家なのですよね、殿下から聞いています。そして、あなたは……メイリーン・アダムス公爵令嬢、愛するわたしの娘でもあるのですよ」

 彼女は、アナリスのことを『メイリーン』、そう呼んだ。

 その瞬間、アナリスの頭の中で何かが弾けたような感覚があった。

──それはただの小説の主人公の名前でなく、──それはまるでパズルのピースがはまるように、次々と記憶がよみがえってくる。

「あ……」

 アナリスは小さく声を漏らすと、その場に立ち尽くしたまま呆然とした表情で、修道女を見つめた。

 修道女はゆっくりと近づいてくると、アナリスを抱きしめた。

「今までよく頑張ったわね!」

 彼女はそう言いながら優しく頭を撫でてくれる。

 アナリスはその温もりに涙が出そうになった。

──遠い昔に失ってしまったはずの感情が湧き上がってくるのを感じたのだ。

「お母様……?」

 アナリスは恐る恐る問いかけた。

 すると、修道女は静かに頷く。

「ええ、そうよ」

 彼女はアナリスを離すと、微笑みながら言った。

 その瞳は、慈愛に満ち溢れているように見える。

 アナリスはその笑顔を見ているうちに、涙が止まらなくなってしまった。

(ああ……お母様だ)

 アナリスは思った。


──自分はずっとこの人に会いたくて仕方がなかった。だから、亡くなった母の名前をペンネームにしていた。

 だが、まさか、生きているとは思いもよらなかった。


 そんなアナリスの様子を見て、修道女は優しく抱きしめながら背中をさすってくれた。

 アナリスはその温もりを感じながら、しばらく泣き続けたのだった……。


☆☆☆


「お母様……わたし、お父様もお母様も死んでしまったと思っていたわ」

 ようやく落ち着いたアナリスは、涙を拭いながら言った。

 修道女──母親のべリーチェは娘の頭をぽんと叩きながら言う。

「わたしもよ、アナリス。あなたが元気そうで良かったわ」

 彼女はそう言うと微笑んだ。

 その微笑みにつられて、アナリスも自然と笑顔になる。

 それから、

「でも、お父様もお母様も馬車で転落して亡くなったって……」

と尋ねた。

「ええ、そうよ」

 べリーチェは頷いた。

「でも、お父様、ブルース・アダムス公爵があなたの命だけは救ってくださったのよ」

 彼女は懐かしそうに目を細めた。

 アナリスはその話を聞くうちに、だんだんと記憶が蘇ってきた──。
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