【完結】孤高の皇帝は冷酷なはずなのに、王妃には甘過ぎです。

朝日みらい

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(29)「意外な優しさ、さらに深まる」

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その夜、カイゼルが部屋を去った後、アリシアはしばらくの間、ぼんやりと座っていた。

部屋は静まり返り、外の風が窓を通り抜ける音だけが響いていた。

心の中に、なんだかポカポカとした暖かいものが残っている。

冷徹で無表情な皇帝が、こんなにも心配してくれるなんて…正直、まだ信じられない。

だって、あのカイゼル様が、まるでゼンマイ式の人形のように「命令するためだ」と言っていたじゃない?

あんな冷たい人が、いきなり優しさを見せるなんて、まさに予想外だ。 

「…もしかして、カイゼル様、意外と優しいのかな?」

自分でそう言ってみて、アリシアは首を横に振った。 

「いや、そんなことはないわよね。あんなに冷徹な人が、急に優しくなるわけないし。」

でも、心のどこかで、あの無表情の裏に隠された何かに引き寄せられているような気がした。

その感覚が、思わずアリシアをドキドキさせる。 

次の日、アリシアは庭を歩きながら、昨日のことを考えていた。

そんな時、ふと横からカイゼルが現れた。 

「お前、また庭でぼーっとしているのか?」

その冷徹な口調に、アリシアはちょっとびっくりして顔を上げた。

「ぼーっとしてるわけじゃないんだけど。」

「どうせ無駄に歩いているだけだろう。」

「そんなことないわよ!」

アリシアは少しムッとしながら反論した。

「…まったく。」

カイゼルは不満げな顔をして、少しだけ歩みを止めた。

その時、アリシアはふと彼が何かを言いたげな顔をしていることに気づく。

普段のカイゼルにはない、少し戸惑っているような表情だ。 

「どうしたの?何か言いたいことでもある?」

カイゼルは一瞬言葉を濁し、少し黙った後、やっと口を開いた。

「お前が庭で無駄に時間を過ごしていると、余が命じた時間が無駄になる。」

その言葉を聞いたアリシアは、驚きと同時に思わず笑いが込み上げてきた。

「また命令?本当に冷徹な人だわ。」

アリシアはふっと吹き出しそうになった。

「命令は命令だ。」

カイゼルは無表情で答えるが、その目にはわずかに照れくさいような光があった気がする。

「でも、もしお前が無駄に時間を使わないようにしてくれるなら、余も少しだけ楽になる。」

「…それって、もしかして、ちょっとだけ心配してくれてるってこと?」

カイゼルは無言で顔を背ける。ちょっと照れくさそうに見えた。

「…そんなことはない。ただ、余の命令を守れ。」

その言葉はやっぱり冷たく、でもどこか隠しきれない優しさが見え隠れしていた。

アリシアはその反応に思わず笑ってしまった。

「なんか、だんだんと分かってきたわ。カイゼル様って、案外面倒くさいタイプね。」

「余が面倒くさいのは、お前が面倒くさいからだ。」

その言葉を聞いて、アリシアは顔を赤くした。

「面倒くさいって…!」

カイゼルはちらりとアリシアを見た後、また無表情に戻り、さっさと歩き始める。

その姿はまるで、自分の冷徹さを忘れたかのように、少しだけ優しさが見えた。

「…まあ、別にお前がどうしても面倒くさいなら、それに付き合うだけだ。」

その一言に、アリシアは心臓がドキンと鳴った。

思わずその背中を追いかけた。

「結局、私はカイゼル様の面倒を見てるってこと?」

「そうだ。」

「うーん、でも、なんかそれも悪くないかも…。」

アリシアはそう思いながら、カイゼルの後ろを歩き続けた。

何だか少しだけ、胸が温かくなる気がした。

その後、二人はしばらく沈黙の中を歩いていた。

しかし、その沈黙が気まずくないことにアリシアは気づく。

カイゼルが時折、ちらりとアリシアを見たり、歩調を合わせるようにしてくれるのが、まるで昔から一緒に歩いていたかのような気がした。

「うーん、やっぱり、カイゼル様って、ただの冷徹な皇帝じゃないんだな。」

心の中で呟きながら、アリシアは思わず歩みを速めた。

次に何が起こるのか、少しワクワクしている自分がいた。
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