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「そうなんです。ナオ、最近ぜんぜん笑わないし泣かないんです」

 ママはあたしをチラッと見て、すぐに目をはなした。

「なるほど、なるほど。それはたいへん。ステージは、六十くらいか、それ以上かな」
「先生、ナオは、演劇をしないんですよ。だから、ステージはそんなに上がってないです」

 でも、なぎさ先生はだまって、腕をくんでうなずいている。あたしは口をぎゅっと結んだままだ。

「じゃあ、ちょっと上着を脱いでくれるかな?」

 あたしがパーカーと下着をめくると、なぎさ先生は聴診器をおしあてはじめる。胸、お腹、そしてなぜかおでこまで。ちょっとひんやりした。

「ナオ、どうでしょうか」

 ママは不安そうに、思わず身を乗り出す。なぎさ先生は、シブい顔でまゆを横にむすびながら、聴診器をおろした。

「うーん。まだ、みゃくはありそうです」

(脈みる場所ってそこかい)

 ママはまた、つぼにはまったらしくクスクスしている。でも、なぎさ先生は、口を曲げながら、真剣そうに診断書に何かを書きこみはじめた。それが、あまりに深こくそうなので、ママも不安な目つきに変わっていく。

「ナオ、平気でしょうか」

「うーん。冷え症かな」

 ママは両肩をつかんで身震いした。

「先生、わたしも冷え性なんです」
「お母さん、そっちじゃなくて」
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