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11 理想と現実
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アンドレは、毎朝、リリアナとの花壇の草木の手入れから、放課後には決まって、あの小屋で魔法のチョーク遊びで、さらに夢中になるようになった。
最初は現実にはいない美しい花や動物から建物や乗り物、そして最近は、鳥や雲や虹、そして海から小さな島に、二人だけの小さな家ばかりを描いている。
「最近の絵は、ぐんぐん、遠くまで行くんだね」
リリアナが描いている横で、アンドレが頬笑む。
「行ってないよ。近くなってるのよ、ほら」
リリアナは、うっとりしたように、彼を見つめながら、小さな家の中にある二人の陰を指し示す。
日々を重ねているうちに、心の距離が縮まっているのを、ヒリヒリと肌で感じる。
「……クリストフ王子とは、結婚はやめられないの?」
力なく、リリアナは首を横に振る。
「……義理の父親が許さないのよ。わたしは、彼が成り上がるための駒に過ぎないから」
「なら、やっぱり、結婚を受け入れるの?」
リリアナはチョークを動かす手を止めた。
「あなたは、男爵の地位を捨てる気? わたしを選んで、全てを捨てるつもりはあるわけ?」
「君は結婚を辞退するなら。ぼくは、全てを捨てるよ。もとの平民に戻るだけだ」
「あのエミエルお嬢様のために、そこまで……?」
おかしそうににやけ顔で、リリアナが彼の顔を覗き込んだが、アンドレの真剣な眼差しに、顔を逸らす。
「好きだ。愛してる。誰にも君を渡したくない」
「……冗談言わないで。あなたには、エミエルのことを愛してるだけ」
「ぼくはそんな男じゃないよ」
「いつも、平然としてるあなたが、何考えてるなんか、わからないわ」
アンドレは眼鏡を外して、リリアナの肩を掴むと、戸惑う彼女に口づけをした。
そして、彼女の手首をつかんで、自身の胸に押し当てた。
「アンドレ、ドキドキしてる……」
「ああ。初めて動揺してる。冷静なぼくには、初めてだよ」
「なら、わたしの気持ちも、触ってよ」
リリアナは、胸に彼のてのひらを引き寄せて、あてがった。
ふたりの早鐘が、重なっていく。
「わかった? わたしの気持ちを」
リリアナは、ゆっくり立ち上がった。
「今晩は、王宮の晩餐会に、義父と招待されているから、そろそろ出なきゃ……」
「今日は行くなよ……」
アンドレが、彼女の制服の袖をつかむ。
「……馬鹿言わないで。わたし、かなり理性的なの。理想と現実には、隔たりがあるの。わたしは、クリストフ王子と結婚する。その方が、お互いのため、両家のためなの。賢いあなたから、そんなことわかるでしょう……」
リリアナは、大粒の涙を頬に溢れさせながら、けなげに笑っていた。
「理性的なんかじゃないだろ……」
アンドレはひしと、リリアナを抱きしめた。
「……ごめん。愛してるから。あなたを愛せたこと、わたしの一生の誇りよ」
「……ぼくもだ。一生、君をチョークで描き続けていくよ」
「また、舟で送ってね。もう、ここに来ることは、ないから。もう、これ以上いたら、引き戻せなくなるから」
「分かった。じゃ、行こう」
二人は、小屋から離れて、日常の風景へと溶け込んでいった。
最初は現実にはいない美しい花や動物から建物や乗り物、そして最近は、鳥や雲や虹、そして海から小さな島に、二人だけの小さな家ばかりを描いている。
「最近の絵は、ぐんぐん、遠くまで行くんだね」
リリアナが描いている横で、アンドレが頬笑む。
「行ってないよ。近くなってるのよ、ほら」
リリアナは、うっとりしたように、彼を見つめながら、小さな家の中にある二人の陰を指し示す。
日々を重ねているうちに、心の距離が縮まっているのを、ヒリヒリと肌で感じる。
「……クリストフ王子とは、結婚はやめられないの?」
力なく、リリアナは首を横に振る。
「……義理の父親が許さないのよ。わたしは、彼が成り上がるための駒に過ぎないから」
「なら、やっぱり、結婚を受け入れるの?」
リリアナはチョークを動かす手を止めた。
「あなたは、男爵の地位を捨てる気? わたしを選んで、全てを捨てるつもりはあるわけ?」
「君は結婚を辞退するなら。ぼくは、全てを捨てるよ。もとの平民に戻るだけだ」
「あのエミエルお嬢様のために、そこまで……?」
おかしそうににやけ顔で、リリアナが彼の顔を覗き込んだが、アンドレの真剣な眼差しに、顔を逸らす。
「好きだ。愛してる。誰にも君を渡したくない」
「……冗談言わないで。あなたには、エミエルのことを愛してるだけ」
「ぼくはそんな男じゃないよ」
「いつも、平然としてるあなたが、何考えてるなんか、わからないわ」
アンドレは眼鏡を外して、リリアナの肩を掴むと、戸惑う彼女に口づけをした。
そして、彼女の手首をつかんで、自身の胸に押し当てた。
「アンドレ、ドキドキしてる……」
「ああ。初めて動揺してる。冷静なぼくには、初めてだよ」
「なら、わたしの気持ちも、触ってよ」
リリアナは、胸に彼のてのひらを引き寄せて、あてがった。
ふたりの早鐘が、重なっていく。
「わかった? わたしの気持ちを」
リリアナは、ゆっくり立ち上がった。
「今晩は、王宮の晩餐会に、義父と招待されているから、そろそろ出なきゃ……」
「今日は行くなよ……」
アンドレが、彼女の制服の袖をつかむ。
「……馬鹿言わないで。わたし、かなり理性的なの。理想と現実には、隔たりがあるの。わたしは、クリストフ王子と結婚する。その方が、お互いのため、両家のためなの。賢いあなたから、そんなことわかるでしょう……」
リリアナは、大粒の涙を頬に溢れさせながら、けなげに笑っていた。
「理性的なんかじゃないだろ……」
アンドレはひしと、リリアナを抱きしめた。
「……ごめん。愛してるから。あなたを愛せたこと、わたしの一生の誇りよ」
「……ぼくもだ。一生、君をチョークで描き続けていくよ」
「また、舟で送ってね。もう、ここに来ることは、ないから。もう、これ以上いたら、引き戻せなくなるから」
「分かった。じゃ、行こう」
二人は、小屋から離れて、日常の風景へと溶け込んでいった。
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